暴力教師をぶっ潰す(上)
木の階段を上がって、二階にある自分の部屋に入った途端、泣きそうになった。
懐かしい光景に打たれて……ではなく、あまりの汚さに。
子供の頃、毎日のように「片付けなさい!」と母に叱られていた。その頃は気にしたこともなかったが。
「これはひどい」
部屋の惨状に思わず呻く。滝沢芳は特に何のリアクションもなく、本やら洋服やらが積み上がったベッドで、わずかに空いているスペースに躊躇なくドスンと腰かけた。
彼女の顔を真正面から見ると、確かにあの教育実習生の面影がある。
「何して遊ぶ?」
滝沢に言われるが、子供時代の自分のダラシなさに気持ちは萎え萎え。
「こんな汚い部屋で遊べないなー。ちょい片付けるわ」
と返事して、とりあえずベッドの上の本をまとめる。
「いつものことじゃん。気にしない。それより遊ぼ」
にこにこ朗らかに笑う姿には、ギスギスした『フェミ子』の雰囲気はない。ということは、ここは、今朝とは別次元の世界なのか。違う次元でも、私はダラシない性格なのか。
「ねえ、昨日やったスター誕生ごっこ、今日もやろうよ」
「スター誕生ごっこ?」
私は、なんじゃ、そら? と思いつつ、懐かしい番組名を聞いて涙がちょちょぎれそうになる。
「私、司会の欽ちゃん役ね」
片手にマイクを持つフリをして、滝沢が真面目な顔をして立ち上がる。
「じゃあ、私はももえちゃん」
私は、ノリノリで昭和時代のヒット曲を口ずさんでみた。何十年も経っているのに、スラスラ歌えるとはどういうことだ。
「あっ、ももえちゃんのこの曲好き! 私も歌うー!」
一緒に楽しそうに歌い始めた滝沢だったが、突然あっ!と小さく叫んで、しゃがみ込んだ。
「どうしたの?」
滝沢はしゃがんだまま、ふくらはぎを擦っている。
彼女のふくらはぎを見た私も「あっ!」と叫んだ。
ふくらはぎから膝まで、皮膚がところどころ盛り上がって赤くなっている。
「じんましん?」
滝沢は泣きそうな顔をして頷いた。
「めちゃくちゃ痒いんだよー」
「ムヒ塗ろう、ムヒ! おかーちゃーん!」
私はドタドタ足音を響かせて下に降りた。
母は居間でカルピスを飲みながら、内職をしていた。丸卓の上も周辺も布でいっぱいだ。
(そういえば、お母さんはボタンつけの内職してたな)
色とりどりの布は懐かしいデザインだったので、思わず見とれてしまう。ハッ、いかん。忘れてた。
「おかあちゃん、ムヒ貸して」
「どうしたの?」
「かおりちゃん、すごいじんましんが出て、痒そうでかわいそうなの」
私は、母に甘えるような口調になる。
最近は、年老いた母に対して、私の方が偉そうに喋ってるのに。




