何が起きてる
「今から話すことを、まずは否定せずに聞いてもらえませんか? 信じられないかもしれませんが。私自身もよく分かっていないんで」
そう前置きしてから、この場にいる私は、どうやら『この世界の私』ではなさそうだ、ということを説明した。
「朝起きたら、昭和時代にタイムスリップしていて、女子高生に戻ってたんです。そこでまぁ……色々ありまして。で、また突然現代に帰って来れたわけですが、ここは私の家ではないです、それは断言できる」
私は一旦言葉を切った。申し訳なさそうなふりをして二人の顔を見た。実際は、申し訳ないとかは思ってなかったんだけども。
「家族も違うし。旦那は全く違う人だし、康二も……なんて言うか、似て非なるというか」
「あなたはママちゃまではないと仰るのですか?」
イケおじが揶揄うように言う。
「どう見ても、おかんやけどなあ」
康二は疑い深そうな目で私を見て、何かに気づいた様子で「お?」と言った。
「おかん、ピアスホールないな」
「ピアス? ホール?」
「おとんがプレゼントしたダイヤのピアス、いつも着けてるやん。アレも外してるし、穴も塞がってるし」
すまんが、私はそんな小洒落たモンとは無縁やで。
このイケおじと違って、死んだ旦那は、そんな素敵なものを私にクレたことはない。キリンが逆立ちしたピアスですらクレたことないんだから。って、私は何を言ってるんだ。
それに旦那は、そもそもイケおじではなくハゲデブなのだ。ママちゃまなんて小っ恥ずかしい呼び方もしない。私より十歳上の昭和生まれの男だから。私を呼ぶ時は「おい」か「お母さん」だったのだから。
イケおじが「僕はそんなこと信じられないなあ」と、ポツリと言った。
「とにかく、ママちゃまはまだ具合が悪いんだと思うよ。だから、わけわかんないことを言ってるんだ、と僕は思うね。熱は下がったみたいだけど、昨日出た高熱の影響で変な夢でも見たんでしょ。今日は、僕が晩ご飯の用意はするから、ママちゃまはゆっくり寝てなさい」
優しく言うイケおじの言葉に、何故か背中がムズムズする。
彼が、私の肩を抱こうとした瞬間、背筋にゾワゾワっとしたものが走った。
「キモいんじゃ、ワレー!」
無意識のうちに叫んでしまい、イケおじを両手で突き飛ばしてしまう。
「おわっ!」
イケおじは叫んで、部屋の反対側まで吹っ飛んで行った。同時に私は、部室の床が抜けた時のように、すとんと無重力空間にでも放り出されたような感覚を味わう。




