帰ってきた? ん? 何か違う
滝沢をお仕置きしたものの、なぜかスッキリしない。
さっき彼女に言われたことが引っかかっているのかもしれない。
『正々堂々と意見しないのは裏切り者』
たしかに、私が今日やってきたことは闇討ちに近い。
しかも、何十年も前に、自分がやられたことの意趣返し、単なる仕返しである。
「低次元だなあ」
これでは、今日ボコボコにしてやった連中と同レベルかもしれんな。
滝沢が言いたかったことは、それなんだろう。
ウーマンリブだかフェミニズムだか知らないが、昭和時代の女性の地位向上のための闘いって、こういう個人レベルの暴力沙汰ではないはずだ……。
部室の引き戸を開け、足を踏み入れようとした私の足は宙ぶらりんになる。底なし沼に落ちていくような感覚。底なし沼に落ちたことはないけども。
「あ? あーーーー」
「おかん、大丈夫か?」
「へ?」
「気分はどう?」
聞き覚えのある声は、次男の康二。
「あれ? ここはどこや」
「大丈夫か。家に決まっとるやろ」
「家? いえってどこの?」
「いえ言うたら、うちしかないやないか」
なんと! どうやら私は戻ってきたようだ。
ということは、あの異能力は?
「ばん」
私は壁に向かってハンドガンを撃つ。何も起こらない。
帰ってきたのだ。現代に。令和に。
私は老眼でよく見えない目をこすり、康二の顔を見る。あれ? 康二ってこんな顔してたか?
康二ではあるが、どことなく違うような。ほんの少しイケメンに見える。老眼が進んだのか?
「おかん、ワクチンが体に合うてへんのやな」
「ワクチン……」
そうだった。私は昨日コロナのワクチン接種で具合が悪くなって、家に帰ってきてから高熱で寝込んでいたのだ。
じゃあ、私が経験したタイムスリップは全部夢だった?
ひでぇ。
これじゃあ物語は、最も忌み嫌われる夢オチでエンディングを迎えるということになってしまう!
私は深ーいため息をついて布団から起き上がった。
「おかん、どこ行くねん」
「トイレや」
あれ? 感触が違う。
私は布団に手をついて、びっくりした。フカフカの布団は高級そうな羽毛布団だ。
いつも使っているぺったんこの綿布団ではなくて。
私は薄い目を凝らして辺りを見回してから、声にならない叫びを上げる。
美しい壁紙が貼られた、白を基調とした部屋は築四十五年の木造古家ではなく、流行りのインスタグラマーの部屋ぽいのだ。
私が子供の頃に憧れた猫脚テーブルとロココ調のソファーまで置いてある。
「なんじゃ! これはー!」




