JK? いやBBA(おばちゃん)です
令和四年、年の暮れ……のはずだった。
私はさっきまで、戦争と疫病の恐怖の真只中で暮らしていたはずだが。
ここは何処だろう。
見覚えはあるけれど、疾うの昔に消え去ったはずの光景が目の前に広がっている。
「おはよう、ミキちゃん」
突然背後から声をかけられて、私は恐る恐る振り返った。
中肉中背の、地味な感じの女の子が立っている。
誰だ? 知らな……。
「うお!」
変な声を上げてしまった。
なぜなら、私に声をかけてきたのは、同級生のサッちゃんだったから。しかも、ありえないことに、高校の制服を着てるじゃねぇの。つか、まんま高校生?
「ありえない!」
もう一度言おう、某女性議員のように。
いや、待て待て待て。
サチに似てる身内という名の関係者かもしれない。
私とサチが高校生だったのは、実に半世紀近くも前のこと。なにゆえ、半世紀近く前のまま、サチの時が止まっておるのだよ。
「ミキちゃん、さっきから何をブツブツ言ってんの?」
サチは、不審者を見るような目つきをして尋ねてくる。
いや、あんたのほうが不審者だから。
「お尋ねしますが、あなたはサチちゃんですか? 岩倉サチ?」
「何言ってんの? からかってる?」
質問に質問で返すな。聞かれたことだけ答えよ!
と言いたいのをぐっとこらえ、
「からかってるのではありません。確認のため、お尋ねしています。あなたは岩倉さんですよね? ちなみに、私は花村美樹で合ってますか?」
サチは一瞬、驚いた様子だったが、ゴソゴソと制服の内ポケットをまさぐると、手鏡を出してきた。そして、馬鹿丁寧に言った。多分、私が冗談で言っているのだと思って、調子を合わせてくれたのであろう。
「どうぞ、ご自分でご確認下さいませ」
鏡を受け取り、覗き込むと美少女(とりあえず、そういうことにしよう)が映っている。
紛れもなく、これは若い頃の私。花村美樹だ。
しかし、今の私は大河内美樹。六十歳。れっきとしたBBAだ。
昨年、夫を亡くし、末息子と二人暮らし。
ちなみに子供は他に二人いる。
上から長男智志、長女佳澄、そして同居している次男の康二。
子供たちの名前が、ポケモンの登場人物と被ってしまったのは偶然なのだが。
それはともかく、どういうことだろう。
夢を見ているのだろうか?
それとも、『小説家になろう』に影響されすぎて、過去、もしくは並行世界のどれかに転生してしまったのだろうか?