味のわからない男
掲載日:2022/07/07
同じ部署に面倒見の良い上司がいる。
金曜日には、俺達部下をよく居酒屋に連れて行ってくれる。有楽町界隈には、サラリーマンに手ごろな店が無数にある。
彼は裏表のない豪快な性格で、思ったことを何でも口に出してしまう。
居酒屋でもそうだ。
料理を食べながら、「これ、しょっぱすぎないか?」「二代目になってから味が変わった。素材のグレード落としやがって」などと辛らつだ。
そういうとき、返答にすごく困る。
なぜなら、上司が選んで連れてきてくれたお店だし、会計も上司持ちだからだ。
「そうですね。まずいですね」なんてことは口が裂けても言えない。
一応逃げ道はある。
「人を選ぶ味ですね。店主の個性が表現されたような」「好きな人は好きかもしれませんね」などと言って曖昧にごまかす方法だ。
しかし俺は、そういうコミュニケーション方法は潔くないと思うし、好きではない。
だから俺は毎回こう言う。
「いえ、そんなことありません! めちゃくちゃ美味しいです!」
そういうわけで俺は社内で、料理の味がわからない舌がバカな男として通っている。




