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少女小説家編-4

 文花は向井探偵事務所から帰ってきても、書斎に閉じこもり、朝比奈佳世の調査を続けた。


 彼女のSNSには、自撮り写真が何枚も上がっている。少女小説家としては珍しいタイプだ。自己顕示欲も強いのかもしれないが、伊夜の真似が多い。伊夜がどこかのカフェで自撮り写真をあげると、その3日後ぐらいに同じ場所の朝比奈の写真が上がっている。ポーズやコメントなども似せてきている。


 朝比奈の顔やメイク、ファッションも確かに伊夜とそっくりである。顔も似たように整形したのも事実だろう。ただ、朝比奈の方が背が低く、スタイルもあまり良くないので、別人だとはハッキリ分かるが。顔だけ見れば、双子かと勘違いしてしまうほどだった。牧野が朝比奈と佐倉を見て気持ち悪いと言った理由がよくわかる。


 確かにストーカーのように真似ていて気味が悪い。自分がもしこんな風に真似をされたら縁を切るだろう。もっとも文花を崇拝するような女友達はいないが。


 これだけ真似っこしていれば誰か気づいて炎上していても良さそうだったが、そんな形跡はまるで見当たらない。


 おそらく少女小説家といってもマイナーな部類に入り、フォロワー数も少ないからだろう。


 文花はイライラするというより、気味の悪さを感じながら、朝比奈のSNSを閉じ、読者からの評判などを調べた。


 坂井智香が少女小説の編集者だったので、当時の捜査中に少女小説ファンのSNSも見ていた事も役立ち、あっけなくその界隈の掲示板やSNSを見つけてしまう。


 朝比奈の少女小説家としての評判は微妙としかいえなかった。


 コアなファンは絶賛して、目に入れても痛くないぐらいの勢いで誉めているが、そうでもない少女小説ファンからは冷ややかな反応だった。話がテンプレートで面白みがない、似たような話が多い、引き出しが少ないなどと評判はあまり良くない。ヒットした作品の後追いが多く、特に亜傘栗子というベテランの少女小説家からの類似点も指摘されている。


 さすがに展開やセリフからに盗作はないが、舞台となる国名やヒロインの名前などが一緒などと言われ、評判は芳しくなかった。伊夜の事は特に気付かれていなかったが、「猿真似二番煎じ少女小説家」という不名誉な二つ名も付けられている。


「作品も誰かの真似っこっぽいわね」


 文花はため息をつきながら、少女小説ファンの集まる掲示板やSNSを見て回った。


「でも、出版業界は二番煎じを逆に求めてるのよねぇ…」


 珍しく情け無い響の文花の独り言が、書斎に響く。

 実際夫もヒット作の後多いのような作品を依頼される事が多い。牧野も『余命666日の花嫁』と似たようなものを望んでいた。


 正直、二番煎じだけでも作家はやっていけない事も無いだろう。むしろ個性を出したければ「小説家になろう」などのネット投稿サイトにでも行って書いた方がよっぽどいい状態であるかもしれない。


 二番煎じでもそこそこファンは付いているようだし、出版業界で生き残る戦略としては悪くはない。夫のように下手に芸術性などを発揮して、芸の肥やしで不倫するよりは、二番煎じライターの方が良いかもしれない。二番煎じといっても盗作ではないので、法的にも全く問題ではない。


 文花は夫の事を思い出して、舌打ちを軽くうち、橋本ちゃんのSNSを見に行った。


 橋本ちゃんは、坂井智香の事件の時に知り合った少女小説ファンである。ピンク頭の個性的な娘だったが、『愛人探偵』が打ち切りの危機にあると知るとSNSで宣伝してくれた心優しい子でもある。


 朝比奈佳世について何か知っていないかメールを送った。


 また、少女小説の編集者でもある滝沢にもメールを送った。滝沢は二番煎じ元の亜傘栗子という作家の担当編集者だし、何か知っているかもしれない。


 手がかりが掴めるかわからないが、夫が再び不倫する事は何としても阻止しなければならない。

 夫はどうあれ、朝比奈に方は夫に気があるようである。伊夜の真似っこで夫と付き合いたいのかもしれないが、どんな理由であれ、不倫は絶対にさせない。


 愛人調査は止められているが、不倫疑惑のある女を調べる事は止められてはいない。


 文花は100円均一で買ってきた新しいノートに朝比奈や伊夜の情報を書き込んでいった。


 ・朝比奈佳世は猿真似二番煎じ少女小説家。要注意人物!


 真っ赤なペンでガリガリと書いた。

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