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新しい夫婦関係編-4

 翌日、文花と夫は火因町駅に降りた。


 事件については安優香は捕まり、一件落着となった。


 藍沢に事情を聞かれたが、結局今回も文花が犯人を捕まえたようなものだ。藍沢には心底悔しそうに、「もう二度と事件に関わるな!」と怒られたが、すっかり夫と仲が修復したので、右から左に聞きき逃していた。


 今日は栗子からクリスマスケーキが焼けたので、シェアハウスに遊びに来ないかと誘われていた。残念ながら滝沢は仕事で来られないそうだが、夫も元不倫相手と会いたくないだろうし、文花も合わせたくないのでそれも良いだろう。


「うわぁ、栗子先生の家、かなり大きなお屋敷だな。庭も広い!」

「そうねぇ」


 夫は栗子達のシェアハウスに目を丸くし、メモ帳に何か書き込んでいた。おそらく後で作品のネタに使うのだろう。いつもだったらこんな時に仕事に関わる事をした夫にイライラとしてしまうが、今日は多目に見ておこう。


「あら、田辺先生と文花さん。いらっしゃい!」


 栗子に二人は出迎えられた。


「さあ、どうぞ。上がって!」


 笑顔の栗子に案内され、食堂へ向かう。テーブルの上には大きなクリスケーキ、チキン、チーズ、フランスパン、それにワインやビールが並べられていた。


 ケーキは色とりどりのフルーツでデコレーションされ、チョコレートでできたサンタも飾られている。手作り感があふれるケーキではあったが、家庭的な味わいがあり美味しそうだった。


「このケーキは桃果が作ったのよ」

「へへ、こんにちわ。田辺先生は初めてですよね」


 桃果と夫が挨拶している間、文花は栗子に呼ばれて、そっと耳打ちされた。


「事件解決したって本当?」


 栗子がちょっとワクワクした好奇心を隠せない目をしていた。


「ええ」

「後でちょっとあの事件の話を教えてよ」

「ええ」


 文花は苦笑してうなづいた。


「じゃあ、みんな座って! 乾杯しましょう」


 みんな席につき、栗子はグラスにワインを注いでいく。


 みんなで乾杯をしてクリスマスパーティーが始まった。本当は滝沢やもう一人の住人である幸子も呼びたかったようだが、仕事があるので仕方ない。


 話題は、全部朝比奈の事件の事だった。


「え、包丁もった犯人に追いかけられたんですか?」


 その話を聞きと、桃果は顔を真っ青にさせていた。夫は桃果以上に顔を青くしてプルプルしている。


「まあ、でもあんまり怖くなかったですけど」


 文花は苦笑してチキンを齧る。


「本当に怖がってないわね。すごいわ。でも朝比奈が犯人じゃなかったのは惜しいわね。本当に私もあの少女小説家が犯人だと思っていたのに!」

「はは、私もそれだけが残念だが何ですよね。まあ、死んだようですし、ちょっとせいせいとしましたけどね」

「まあ!あなた、死んだ人間にけっこうな言い方じゃない!」


 そういう栗子も大笑いしていた。


 比較的常識人である桃果や小心者の夫はこの会話を聞いて、顔をさらに青くしていた。桃果は「不謹慎過ぎる」と小さくつぶやいている。


「意外な犯人だったわね。ニュースによると真面目に警察に話しているのが救いね」

「そうですね、栗子さん。あのメイクアップアーティストのキリコも薬物中毒でしばらく牢屋の中でしょうね」


 文花はそう言ってワインを飲む。結局あの学園からの友達グループで、まともに残っているものは居ない。女同士の友情とは一体なんだったんだろうと思わせるような事件でもあった。


「もう、事件の事はいいじゃないですか。ケーキでも食べましょうよ」


 夫は事件の話をされるのが耐えかねて、話題を変えた。


「そうね。せっかくのパーティーですもの。ケーキ切りましょう」


 桃果はナイフを持ってケーキを切り分ける。


「わぁ、断面がフルーツが見えて綺麗ね」


 文花は切り分けられたケーキを見て、声を上げる。


「美味しそうだ」


 夫も頷く。


「喜んでいただけたら嬉しいわ」


 桃果はおっとりと笑う。


 ケーキはオレンジ、バナナ、キウイフルーツがたっぷりと入り、クリームは控えめ。チキンを食べた後でも文花のお腹にするすると入る。


「そういえば栗子先生、大正時代のシンデレラストーリーの新作が出るんですね。ネットに情報が出ていましたよ」

「文花さん、詳しいじゃないですか。まあ、こっちも事件があってあんまりやる気は出なかったんですけどね」

「ちょっと栗子先生、そういう裏側もハッキリ言い過ぎじゃないですか〜」


 夫は栗子のハッキリもの言う性格にタジタジだ。どちらかといえば夫は桃果と話したがっているのがわかる。


「田辺先生こそ『愛人探偵』の第二弾が出るそうじゃない?」


 桃果が口を挟み、夫はホッとそたような表情を見せる。全くどこでも小心者なんだからと文花は呆れてしまう。しかし、ケーキお酒が美味しく、ここで夫に文句を言うのは野暮だとも思う。今日は事件も解決してし、少しの間心に乗っていた重石が外れて、文花の心も甘くなっていた。


「私も『愛人探偵』楽しみだけど、前に私がお話しした事件をネタにしたミステリの企画は進んでる?」

「それがまだ、ちょっと細部が煮詰めてなく」

「それはだめよ! 私がアドバイスしてあげるから、一緒にアイディ ア練りましょうよ」


 意外とキッパリと言い押しが強い栗子に夫はタジタジとなり、しばら栗子と話し込んでいた。


 文花は桃果と雑談しながら、ケーキを食べ進める。

『愛人探偵』がほぼ実話などと話すと目を丸くしていた。そしてドン引きもしていた。


「51人も愛人がいたの? 苦労したのね、文花さん」

「まあ、そのおかげでメンタルが強くなって事件に巻き込まれてもそんなに動揺しなかったんですけどね」


 それどころか犯人を挑発していた事はここでは言えない。あのあと、夫に事件に首を突っ込むなと口すっぱく怒られた。一応、夫の仲は改善しつつあるが、事件調査については渋い顔。というか強く反対もし始めて、探偵事務所のパートも行かなくて良いなどと言い始めてしまった。


「まあ、今日は辛かった事も忘れて、飲みましょう。人間、歳を取ると覚えておきたくても忘れていくからね。私も最近、物忘れがひどくって。もう認知症らしかねぇ?」


 笑えない冗談を桃果に言われ、さすがの文花も顔を引き攣らせながらケーキを完食した。

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