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新しい夫婦関係編-1

 翌日はクリスマスイブだった。


 そうは言ってもいつもに12月の日であり、文花の気持ちは特に変わった所はない。


 夫は昨日夜通し朝比奈の本を読んで疲れたのか、プレハブでそのまま眠ってしまった。十時過ぎの今もまだ起きていない。わざわざ起こすのも可哀想なので、朝ごはんだけ作ってプレハブに置いてやった。


 文花は、今までに見つけた事実を報告する為向井に電話をした。


「まあ、安優香が犯人だろうな」

「やっぱりそうね。でも、彼女は行方不明なのよ。一体どこにいるのやら」

「それはわからんが」

「この事、警察に言った方がいいのかしらね?」

「いや、この前犯人を泳がせとけよ。まだ、ネットでは文花さんが炎上してるし、何か行動を起こして来るかもしれんな」


 向井は、さらりと怖い事を言う。


 ただ、文花も警察に言うつもりはなかった。藍沢はすっかり自分の事を敵対視しているし、信じてくれるかもわからない。それに再び事件が話題になり、夫の役にも立ちたい。現状、足を引っ張っているようだし、ここで犯人を泳がせて自分捕まえてしまうのも良いかもしれない。


「今日はやっぱり学園に行ってみるわ。あの、タイムカプセルも気になるし」

「はは。気をつけるんだよ、文花さん」

「まあ、別に夫に不倫されるよりはマシですし、特に怖くないけどね」


 文花は笑いながら電話を切り、外出する支度をした。今日は伊夜風のキラキラ女子風のメイクでもやってみようか。


 以前、朝比奈とキリコにこのメイクをしたら、とても機嫌を損ねていた。犯人もこのメイクを見たら何か思うかもしれない。我ながら悪趣味だと思いながら、伊夜風のメイクとヘアセットを施し、学園に向かった。


 島崎が言ったようにクリスマスの為学園は一般公開されていた。


 門に入ってすぐそばにある礼拝堂の近くには大きなツリーが飾られ、派手なデコレーションもされている。讃美歌か何かの清らかな音楽も響いていて、生徒だけでなく一般客も行き交いなかなか賑やかだ。


 クリスマスチャリティーという事で、パンやコーヒー、お菓子などを屋台もいくつか出ていた。ここでの利益は全部孤児やシングルマザーの支援団体に寄付するのだと言う。


 こう言ってチャリティーはちょっと恥ずかしいが、ものを買うだけで支援になるのは手軽で良いと思い、ホットココアとチーズパンを購入した。


 熱いココアを飲みながら島崎の姿を探してみたがいない。安優香の姿もない。生徒達に聞いてみたが、数日前から行方不明せ授業にも来ていないのだと言う。


 マリア像の前では相変わらず女生徒達が手を合わせて祈っていた。


 熱心に「クリスマスに彼氏ができますように」とか、「大学受験を合格しますように」と拝んでいたが、文花は冷めた目でそれらを見ていた。彼氏を作るのなら合コンでも行った方がいいし、大学受験なら英単語の一つでも覚えた方がよっぽど効率的だ。


「ねえ、貴方達、ここでいつも安優香先生が拝んでいるの見た事ある?」


 拝み終えた女子校達に近づき質問する。


 寒さのせいなのか、女生徒達の鼻の頭指先が赤くなっていた。全く芋臭い女生徒達だ。


「ああ、安優香先生は毎朝ここで祈ってましたよ」

「どんな事拝んでた記憶ない?」

「うーん、なんか縁切りしたいとか、怖いとか辞めたいとか。何か問題が?」

「いえ、ありがとう」


 文花マリア像から退き、旧校舎にある裏庭の方に向かった。


 あのタイムカプセルはまだ埋まっているのだろうか。


 人気がなく、旧校舎の影になる裏庭は風が吹き込みかなり寒かった。


 空を見上げると雪でも降りそうに雲が重い灰色だった。


 裏庭をくまなく見て回ったが、タイムカプセルが埋まっているような目印などが見当たらず、湿った土に雑草が生えているのが目立つだけだ。


 礼拝堂から、清らかな歌声が響いてくるが、文花の気持ちは冷えていくばかりだった。ここでも手がかりがない。


 一体どうするべきか?


 そんな事を思っているとき、背後に人影がいるのが見えた。


 髪がべっとりと肌に張り付き、まるで呪いの藁人形に釘でも打つかの形相の安優香が立っていた。


「あら、どうしたの? 安優香さん」


 文花はにこりと笑って言ったが、安優香は近づいてきて、文花の首に手を伸ばしてきた。


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