作家の妻炎上編-4
その夜、安優香の事を考える暇がなかった。
文花は書斎に閉じこもってパソコンをずっと睨みつけていた。
安優香が行方不明になった事も気になるが、それどころでは無くなってしまった。
朝比奈はブログやSNSで文花井に付き纏われいて、迷惑だち書き炎上していた。文花の実名は隠していたが、夫の名前は出していたし、読めば文花の事だとすぐにわかった。無理矢理付き纏ったなど事実でない事も含まれていたが、一度情報が広がってしまったらもう遅い。
『田辺先生の妻A子さんは、私が伊夜様を殺したと思い込んで付き纏っています、迷惑です!』
SNSでもそう強く主張していて、拡散されていた。まだ、朝比奈のブログが話題になっている事も大きかかっただろう。過去に浅山ミイや坂井智香の事件にもか関わっている事や、『愛人探偵』が実話とい事も拡散され、ネットで文花は叩かれていた。過去の週刊誌の記事も掘り起こされ昼出版の編集者とも不倫しているとうデマ報道も本当のことかのように広がっていた。わずか数時間で火がどんどん燃え広がっている。文花は極めて冷静に炎上の行方を見守っていたが、夫は案の定パニックになり、再びプレハブに引きこもってしまった。
朝比奈がこんな方法で報復してくるとは予想していなかった。頭の悪い気持ち悪い女だったが、浅山ミイや坂井智香達よりは復讐するタイプのようだった。
この炎上騒ぎで再び朝比奈は悲劇のヒロイン化して、ネット書店で彼女の本が売れきれになっていた。この騒ぎで新しくファンになったファンから長文の絶賛レビューも書いてある。この様子だと栗子のファンの島崎や少女小説ファンの橋本ちゃんはお怒りだろうなぁと思う。他人事の様だが可哀想である。
向井からもメールがきて、この炎上騒ぎを心配していたが、他人事だった。確かに自分の事をあれこれ言われるのは。不快ではあるが、夫にう不倫されるよりはマシだ。放っておこう。
それよりも事件の事だが、夫に朝比奈は犯人では無いと言われてしまい、今までの確信が揺らいでしまった。
さて、どうしようか?
今まで書いたノートの記録などを見返しても、何も思いつかなかった。
そんな事を考えている時、家の固定電話が鳴った。
固定電話は利用頻度は低いが、時々夫は仕事でファックスのやりとりもやっているようだった。電話番号を知っているものも限られているはずだったが。
「もしもし」
すぐ書斎から一階に降り、固定電話が置いてある廊下に出て電話をとる。
もう夜だったが一体誰だろうか。
夫の関係のある編集者達の顔を思い浮かべる。
「あなた、文花さん?」
全く知らない女の声だった。今までの夫の愛人51人の声では無い。
今回の事件の容疑者でもある朝比奈、キリコ、安優香でもなかった。夫の姉の菜摘でもなく、朝出版での担当編集者である牧野の声でもない。
「そうよ。あなた、誰?」
昔、夫の不倫が大きなスキャンダルになった時悪戯電話がかかってくるようになった。当時の犯人はわからなかったが、毎日の様にしつこく悪戯電話がかかってきた事を思い出した。
「朝比奈先生をいじめるな!」
「は?」
「朝比奈先生は神様です。私の光です。邪魔するな!」
そう言って電話が切れた。
文花は受話器を見つめながら、目を丸くしていた。
びっくりした!
あんな猿真似二番煎じ少女小説家でもこんな熱心なファンがいたなんて。
そういえば朝比奈の本に評判は、全体的に良くはなかったが、一部熱心なファンが居たことを思い出した。
今の炎上を見て、腹にすえかねたのだろう。しかし、早速電話番号を調べるとは。朝比奈自身もかなりストーカー体質だが、そのファンもなかなかなものだ。朝比奈自身が誰かを拝んでいる存在ではあるが、全く同じ様な事をされているのもなかなか皮肉が効いているではないか。
面白い。
文花は逆に機嫌が良くなってきた。
夫に対してのストーカー気質なら、自分も負けてはいない。
やっぱり事件についてもこのまま調べるし、犯人も見つけてやろう。そんな決意がより強く文花の胸に宿った。




