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作家の妻炎上編-1

 文花達が、吹石を問い詰めているその頃。


 常盤は担当作家の田辺に家の客間にいた。田辺に突然呼び出された。作品の事だと言っていたが、ぐったりと疲れ切った田辺を見ているとそんな気がしない。


 小説の才能があるが、スケベで気が小さな男だ。文花には悪いが不倫中の恋愛小説は、メンタルが安定しているのか出来が良い。一方、不倫を辞めた今は、メンタルが不安定になることが多く、執筆活動にも悪い影響を与えていた。同業者である夜出版の町田編集者は、文花の事を「さげまん!」と影で言っていたが、実際不倫されている状況を想像すると、一方的に文花を責められない。


「今日は文花さん居ないんですか?探偵事務所のパートですかね?」


 もう夕方だったが、文花の姿がない。向井探偵事務所は驚くほどホワイトな職場のようで、滅多に残業もなく休暇も取りやすいと言っていたが。


「いや、それが、ちょっととか言って朝からいないのだよ。どういう事だい? 僕は文花ちゃんが気になって気になって作品が書けん!」


 常盤は、ウンザリとしたようにため息をつく。聞くとちょっかいを出された少女小説家の面倒を見たり、家に帰ってこないのは田辺の方ではないか。そもそもあれだけ不倫をしておいて、文花の不在に怒る権利があるだろうか。


 客間の上には皿に盛られたシュトーレンが載っている。


 文花が作ったものだと田辺が出してきたが、常盤は何となく食べる気分にはなれなかった。毒などは入っていないだろうが、田辺の機嫌を損ねそうに感じた。


「まだ文花ちゃん帰ってこないよ。どこかで事故にでも巻き込まれていたらどうしよう」


 田辺は、シュトーレンのラッピングを剥がし食べ始めた。粉砂糖がテーブルやソファに散らばる。常盤はこの男の世話は大変かも知れないと、文花に同情すり気分になる。


「大丈夫でしょう。浅山ミイや坂井智香の件でも犯人を捕まえたの文花さんでしょ。特に坂井智香のときは包丁を振りまわして犯人を捕まえたんでしょ? それだけ神経の太い女性だったら、多少事故にあっても死にやしませんって」

「それはそうだけどさ」


 坂井智香の件を思い出したのか、田辺はプルプルと震えていた。よっぽど包丁を振る舞わす文花が怖かったらしい。


「しかし、文花ちゃんは最近おかしいよ。昨日なんて浅山ミイちゃんのメイクや髪型を完コピしてたんだから」


 田辺は、パソコンから印刷したと思われる浅山ミイ風の文花の写真を見せた。今日の朝もこんなメイクで出かけていったらしく、一応写真に納めたのだというが。


 写真を見ながら常盤の頬は引き攣っていた。さすがメンヘラ地雷女である。


 夫の死んだ愛人とそっくりなメイクや髪型にしていて、さすがに怖い。病んでいる。


「僕は、文花ちゃんが何考えているのかわからなくて、さすがに怖いよ!」

「お察しします…」


 常盤はそうとしか言えなかった。もし田辺の立場でこんな事をされたら、一生頭が上がらないと思う。改めて怖い女だ。しかし、メイクだけでもそこそこ似せてしまうのも、最近の女性のメイク技術の進化も恐ろしいと思う。街行く女達のすっぴんを想像するとちょっと怖い。


「もしかして文花さんってまた事件について調べているんじゃ無いですかね?あの少女小説家の親友が殺された事件…」

「たぶん、そうなんだろうなぁ。なんとしてもそれは辞めさせないと! また包丁を振舞わされたら僕は怖よ…!」


 田辺は、心底ゾッとしたような顔をしていた。確かに文花があの事件を調べている可能性がたかかったが。


「あの文花さんが、素直に事件調査やめますかね。あの文花さんですよ、あのメヘラ地雷女の」

「そうなんだよなぁ〜。どうしよ」


 田辺は情けなく泣く真似もしはじめた。文花も十分おかしな女だが、田辺の小心さはちょっと驚くぐらいだ。むしろ、よく文花も田辺に付き合ってられると思う。まあ、二人とも変人同士でお似合いだとは思うが。


「とりあえず文花ちゃんがやっているみたいに尾行でもやってみようかと思う!」

「いや、やめておきましょうよ。バレたらノートに名前を書かれて呪い殺されますよ」

「ひっ!」


 冗談なのに大袈裟に怖がっている。本当の文花はこの男のどこが良いのだろうか?不思議でならない。


 ちょうどそこに浅山ミイそっくりのメイクやファッションをした文花が帰ってきた。何が面白いのか文花は笑顔を浮かべ、機嫌も良さそうだった。


「あなた、なんで常盤さんなんて呼んだの? あれ、シュトーレン勝手に食べたわね?」


 浅山ミイそっくりの文花に田辺はすっかり怖がり、土下座までして謝っていた。


 これは、ダメだ。田辺の小心者の本性は直りそうもない。常盤は深いため息をついた。


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