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お嬢様学園編-1

 ちょうどタイミングよく聖ヒソプ学園に知り合いがいるという栗子からメールが届いていた。


 知り合いの名前は、島崎操という名前で、長年聖ヒソプ学園で寮長をしている女性らしい。歳は栗子と同じ歳の59歳だが、学園内でそこそこの権力があるらしい。島崎には、栗子から事情が筒抜けのようで、一度学園で会わないかという話だった。文花はすぐメールの返事を返して、学園で会う事になった。


 聖ヒソプ学園は、都内某所にあった。文花の住む千葉県よりにあり、どちらといえば長閑な雰囲気の場所にある。駅周辺にはコンビニやスーパーもあるが、昔ながらの喫茶店やパン屋、ケーキ屋などあり、聖ヒソプ学園の女生徒が買い物をしている姿も見えた。


 学園は、生徒たちが暮らす寮の場所と、授業を学ぶ校舎と大まかに分けられている。


 さほど大きな規模の学園でがないと聞いていたが、旧校舎を含めると五つも校舎が別れ、女生徒達が学んでいるようだった。


 学園にまず入ると、文花は大きなマリア像に出迎えられる。真っ白で汚れのないマリア像で、慈悲深い表情を見せていたが、何となく気持ちが悪い雰囲気が漂っていた。


 やはりこんな石でできた何の力もない像を拝んでいると、気持ち悪いオーラのようなものを受信して、拝む方も同じように木や石のように心を失っていくのかもしれない。


 女生徒が何人か「マリア様ぁ」と呟きながら手を合わせて祈っていたが、文花は冷ややかな目で彼女達を見ていた。お嬢様風の紺色のワンピースを着た女生徒達だが、拝んでいる姿はやっぱりどこか覇気が無く気持ちが悪かった。なんとも言えない気持ち悪さに顔を顰めている時、全身黒ずくめの女性に声をかけられた。


「ごきげんよう。あなた、栗子さんの知り合いに川瀬文花さんね」

「ええ」


 文花は頷き、黒ずくめの女と握手をした。黒い髪を一つにまとめ、ベールのようなもので隠していた。表情は無表情で、文花が女子高生だったら真っ先に逃げそうなぐらい怖い印象の女性だった。さぞここの女生徒達からは怖がられているのだろうと察した。実際、マリア像を拝んでいた女生徒達は、一目散に逃げている。もっとも大人になった文花は全く怖いとは思えないし、夫に不倫される事と比べれば問題無い。


「私は島崎操です。この学園の寮長をしているものです。一緒に寮長室でお話を伺いましょう」


 島崎に連れられて寮の方に向かった。授業中の為か、寮の方には女生徒の人影はどこにも無かった。栗子がよっぽどうまく言ってくれたのか、文花について不信感は見せてこなかった。今日も浅山ミイのメイクを完コピしていた。夫からは青い顔して嫌がられたが、すっかりこの顔の文花にびびってしまい執筆活動に集中していた。やはり、知的そうに見えるキャリアウーマンの浅山ミイメイクは色々得であるようだ。浅山ミイは極悪な本性を隠す為にメイクも頑張っていたんだろう。


 寮長室にある、ソファに座る。島崎からお茶を出された。


 寮長室は、島崎の見た目通りに可愛らしいものなどは一切ない部屋だった。本棚には、名簿類などがぎっしりと詰め込まれてて圧が強い。机に上もパソコンや何かに資料だけ置いてあるだけで、綺麗な机だった。夫のメモ帳や付箋、資料だらけの机とは雲泥の差だった。もっとも夫は何故か汚い机の方が執筆が捗るので、逆に掃除をしない面もあるのだが。


「栗子先生からメールを貰ったわ。突然の事びっくり。あなた、伊夜さんや朝比奈さんの事を調べているのね」

「ええ」


 意外な事に島崎は、文花のこんな素人調査について好意的なようだった。探偵事務所に一応勤めている事も伝わっていたのがよかったのかもしれないが、ワクワクした目を隠し切れていないようだった。好奇心に満ちた目は、栗子と少し似ているようにも見えた。


「島崎さんは栗子さんと知り合いなんですか?」

「そうなの! 栗子先生、カトリックの女子高を舞台にした青春小説を書いた時、取材でウチの学校にきてね。それ以来の仲よ」


 栗子に話題になると島崎はちょっとキャピキャピとしたテンションの高い声を出していた。見た目とギャップがあり驚く。


「それ以来、栗子先生の作品のファンなのよ…」


 怖い見た目とは打って変わって、うっとりとした表情を見せていた。


「栗子先生の作品は神よ!」


 どうやらちょっとヲタクが入った人物らしい。うっとりとした目でそう語る姿は若干気持ちが悪い。


「島崎さん、ここ一応カトリックの学園ですよね?マリアを差し置いてそんな事言って大丈夫ですか?」

「いいのよ。どうせカトリック信者は生徒も教師もほとんどいないのよ。形骸化しているだけ」


 ハハハとおばさんっぽく島崎は笑った。ちょっと下品にみえた。


「マリア像拝んでいる生徒を見ましたけど」

「ああ、あれはおまじない感覚でやってるのよ。別に信仰心なんて無いわよ。そもそも聖書ではああいった偶像崇拝は良くないって書いてるのよね。この学園に敬虔な信者は居ないでしょうね。とにかく、あなた朝比奈さんの事調べたいんでしょ?」

「ええ。やっぱり夫にちょっかいを出す変な女が、犯人だとしか思えないのよね」

「私も朝比奈さんが犯人だと思うわ」


 朝比奈の話題になると島崎の表情が、少し怒っているように見えた。


 文花はお茶を飲みながら、その表情をよく見てみた。確かに朝比奈に良い感情を持っていないようだった。


「栗子先生の作品を盗作ギリギリな感じにパクって。本当に嫌らしい女ね。絶対に朝比奈が犯人よ」


 島崎も朝比奈が犯人だと決めつけていた。島崎についても気持ち悪い女だという印象も持ったが、捜査については意見が一致している。警察の藍沢よりよっぽど頼もしいものだ。


「私もそう思うわ。島崎さん、これシュトーレンなんですけど、どうですか?」


 文花は手提げ袋からラッピングしたシュトーレンを出して見せた。


「まあ、シュトーレン!私、好きよ」

「どうぞ」


 朝比奈が犯人という意見の一致とこのシュトーレンのおかげか、島崎はすっかり文花について警戒心を解いていた。


 仕事そっちのけで捜査も協力してくれるという。それはどうかとも思ったが、島崎の朝比奈への私怨は文花と同等かそれ以上のようだった。既に朝比奈が在校時の資料などをかき集めて揃えていた。職権濫用の行為ではあるが、それを咎めるはずもない。むしろこれだけ揃えてくれていてありがたいぐらいだ。文花は品行方正な捜査をするつもりはなかった。

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