表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/50

可哀想な女編-7

 キリコのメイクスタジオから、伊夜が亡くなったセミナー会場のビルは近かった。


 何か関係があるかはわからないし、犯人が現場に戻ってくる可能性は低いが、行ってみる事にした。ビルの前まで来ると、知った顔を見つけた。


 藍沢が清掃員らしき青い制服を着た老人と何か話し混んでいた。聞き込みだろうか。だとしたら、藍沢が元ヤクザの直志が完全に犯人だとは決めつけていない事にもなる。


 文花はそっと彼らの様子を見ていた。話が終えると、清掃員らしき老人は、ビルの中へ入って行ってしまった。


「文花さん、何やってるんですか」


 藍沢は鋭い目で光らせて睨んだ。


「それに何ですか、そのメイクや髪型は。まるで浅山ミイみたいだ。生き返ったみたいで気持ち悪いな」

「浅山ミイのメイクを完コピしてみたのよ。夫が気にいると思ってね」

「殺された人間のメイクを真似るなんて悪趣味にも程がありますよ!」


 藍沢はイライラとしていた。確かにそうかもしれないが、自分はさほど趣味が悪いとは思わなくなっていた。こうして藍沢に浅山ミイに似てると言われて、メイクファッションを夫好みに変える事も悪くないと思い始めた。以前はこんな事は無駄な行為だと思い込んでいたが、これで夫の気持ちが自分に戻るのなら安いものだ。


「ところで藍沢さんは何をしてるの?」

「このあたりで当日、怪しい女が彷徨いているという情報を得ましてね。そうだ、奥さんみたいなカーキ色のコートにジーパン、白シャツの地味な女らしい」

「私の事を疑ってるの?」


 その藍沢の口調からは、ありありと自分に疑いが向けられているのを感じた。


「私は当日セミナー客と一緒にいたのよ。完璧なアリバイね。しれにどうせ殺すんだったら、伊夜じゃなくてより夫にちょっかいをかけていた朝比奈の方を殺すわ」


 薄ら笑いを浮かべて言ったが、藍沢は再びイライラとし始めて文花を睨む。


「しかし有益な証言ね。元ヤクザじゃなくて朝比奈が犯人なんじゃないの。あの女、私とそっくりなメイクとファッション挑発しに来た事があるのよ」


 藍沢はこの話を身を乗り出して聞いていた。興味はあるらしい。


「やっぱり朝比奈が犯人でしょ。人の夫にちょっかい出す女に碌な人間はいないでしょ。動機は、そうねぇ。キラキラしている伊夜様に嫉妬して殺した感じじゃないの。あの女、人のもの何でも嫉妬して欲しがりそうじゃない」


 自分ではある程度筋が通っている憶測だと思ったが、藍沢は吹き出して笑っていた。


「それは無いな、奥さん」

「なぜ?」

「朝比奈佳世には硬いアリバイがある。当日、キリコのスタジオでキリコや安優香と友達同士で集まってたんだよ」

「友達同士で庇いあっているんじゃない?」

「それは無いね。当日、キリコの客が時間を間違えてメイクスタジオに訪ねている。朝比奈の姿もばっちりと見ていたそうだ。つまり、完璧なアリバイ。同様に朝比奈の友達のキリコ安優香もアリバイがあるって事だ。残念だね、奥様」


 藍沢は再び笑っていた。


 アリバイがある?


 やっぱり元ヤクザ直志が犯人?


 しかし、藍沢自身が当日不審な女がいた事を調べている。何か疑問があって調べていたのだろう。


 という事は、朝比奈が犯人の可能性も藍沢は考えているのだ。


 アリバイは本当?


 やっぱり朝比奈が疑わしい。


 私怨でもあり、証拠が無い思い込みだが、やっぱりあの気持ち悪い女が犯人だとしか思えない。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ