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可哀想な女編-3

「私の事がよっぽど不幸に見えるようねぇ。格好のカルトのターゲット? でもそんなものに縋っても夫の気持ちが絶対返って来ない事はよくわかってるのよ」


 文花は、静かな声で香保にいい放った。声がとても冷静だったが、怒りや悲しも、どうしようもない妻の怨念のようなものが滲んでいて、香保も少し怯え始めた。


「今のところは、夫は不倫辞めているのよ? それでも妻に元には帰ってこない。よっぽど私は、嫌われてるのねぇ」


 そう言ってふふふと薄ら笑いを浮かべた。カルト信者の香保相手に何で本当の事を話しているんだろう。思わず本音が漏れてた。文花自身は気づいていなかったが、不倫はしていないのに関わらず、家に夫が帰って来ない状況が、想像以上に心理的ストレスを与えていた。その上、夫は朝比奈にちょっかい出されている。事件も今のところばヤクザの直志が逮捕され、朝比奈が犯人だという証拠もない。夫婦の問題も事件の状況も中途半端なところで、何も動いていなかった。


 文花は薄ら笑いをやめ、鬼のような形相で、パンフレットを指差して言った。


「そんなに尊師様にパワーがあるなら、ここで祈ってみたら? 私が入信する様に。本当に尊師様にパワーがあるなら、出来るでしょう?」


 文花は極めて冷静に香保を挑発した。夫の事まで持ち出してカルトに勧誘してくるとは腹にすえかねる。自分はこんな下らないカルトの為に、夫に不倫されているわけでは無い。他人の不幸に漬け込んで、最低な行為としか思えない。もしかしたら、香保も教祖に洗脳状態なのかもしれないが、同情は全くできなかった。香保は朝比奈に似ているので、余計に腹に怒りが溜まっていく。


「そこまで言うなら、わかりましたよ! いいですよ、私がここで祈りますよぉ!」


 文花の挑発にのった香保は、プリプリと怒りながら、呪文のようなものを唱え始めた。


「尊師様さまぁ、どうかは文花さんが救われるように導いて下さい〜。エンジェル達よ、尊師様がパワーを出せるようサポートしてくださいっ!文花さんの旦那さんが家に戻りますようにっ! 文花さんがエンジェル万歳教に入りますようにっ!」


 ウンウン唸りながら祈りの言葉も言う香保を文花は氷のように冷ややかな目で見ていた。本人は真剣そのものだが、側から見ていると茶番のようにしか見えない。こんなアイドルのような教祖の力があるとも思えないし、単なる石や木と変わらない偶像にしか見えなかった。


 香保は目を開けて、祈り終えていた。単に言葉を発しているだけなのに、ゼイゼイと息を切らしていた。ご苦労様だなぁと文花は冷ややかに思う。


「で、祈り終えたの?」

「祈り終えました! 今から文花さんも入信したい気分になっているハズです!」

「いいえ、全くそんな気持ちになっていないわ。相変わらず興味がないわね」


 文花はエンジェル万歳にパンフレットをグシャグシャに丸めて香保に放り投げた。


「お引き取り下さい」


 半ば無理矢理、香保を家から追い出した。香保はそれでも怒りながら、何か喚いていたが、無視して追い出した。


 そんな目に見えない力があったらとっくに夫の心が自分の元に帰るよう祈っている。そんなものは無い。夫の心は、誰もコントロール出来ない。例え妻だとしても。

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