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ベテラン少女小説家編-3

「だってコージーミステリだったら、最初にすぐ逮捕されるキャラクターは、真犯人じゃないわ」


 栗子は自信満々に独自の推理を披露していた。何の根拠もない推理だが、こうも自信満々に言われると文花も本当のような気がしてしまう。


「元ヤクザの夫は犯人じゃないわ。おそらく血に染まった奥さんを見て動揺したのね。以外と小心者の元ヤクザかもしれない」


 栗子の推理には、何の根拠も無いのに関わらず、文花はコクコクと頷いて聞いていた。滝沢は「コージーミステリを根拠に推理するのやめましょうよ」と呆れた様子で突っ込んでいたが。


 小心者の夫も浅山ミイの死体を見つけた時、動転しれ死体に触り、手を血で染めていた事を思いだした。元ヤクザと言っても夫と似たような行動をとってもおかしくないと文花は思う。


「栗子先生は朝比奈先生が犯人だと思っていますか?」


 ハッキリと文花は聞いてみた。栗子はふふふと上品に笑うだけで答えなかった。自身の作品を盗作ギリギリで真似てる朝比奈について、あまり良い印象は持っていないのだろう。口には決して出して来ないが、そんな朝比奈への感情が文花にも伝わってくる。


「でも栗子先生、動機はなんですか。あのブログみた? 朝比奈先生、被害者と友達だったんですよ。殺しますかね?」


 滝沢は口をちょっと尖らせて反論した。滝沢の意見はもっともだ。夫もそう言っていたし、朝比奈が伊夜を殺す同期はよくわからない。


「まあ、友達って言っても色々あるわ。私とシーちゃんは仲いいけど、女同士だもん。片方が幸せだったら、ちょっとムカつく」


 桃果がそんな事を言って、栗子は目を見開いてビックリとしていた。


「そんな事考えてたの?桃果?」

「まあ、一般論だよ。私達みたくぃに仲がよい女同士の方が珍しいんじゃないの?」


 桃果は見た目はきつそうに見えるが、冷静なタイプのようだった。


「そっかなぁ。私、女同士のドロドロとかよくわかんない」


 滝沢は二人の話題に首を傾けていた。


「そうね。私も女同士でマウント取ったりするのが意味わからない」


 文花も滝沢に同意した。文花は気づいていないが、滝沢もサバサバとしたあまり女っぽく無いタイプだった。


 その後、四人でダラダラと事件について話してみたが答えは出なかった。文花も知っている情報は全て栗子達に話してみたが、余計に混乱するばかりで答えはでない。ただ、文花以外の三人も朝比奈が怪しいという意見で一致していた。文花が朝比奈にされたSNSなどの挑発を話と滝沢でさえも同情されるぐらいであった。


 猫のルカは退屈になったのか、今度は桃果の膝の上に飛び乗り、スヤスヤと眠ってしまっていた。


「伊夜と朝比奈がいた聖ヒソプ学園に潜入できるといいんですけどね」

「は? 文花さん、そこまでするつもりですか?すごい執着心…」


 夫の愛人調査では愛人達の職場に潜入する事もあったので、別に苦ではない。陰キャで芋くさい朝比奈と、学園で目立つ美人の伊夜が友達同士の理由を探るには、内部に入り込み事情を聞くのが良いだろうとも思う。メイクアップアーティストのキリコとは、客を装って接触する事は可能だろうが。


「そういえば私の知り合いであの学園の寮で働いてる人がいた…」


 栗子の呟きに文花は飛びついた。


「本当ですか?」

「ええ。小説の取材をした時に知り合ったの。ちょっと接触できないか聞いてみるわ」


 思っても見ないチャンスである。文花はこの幸運に喜んだ。


「しかし、本当にしつこいですね、文花さん…」


 滝沢は呆れていたが、文花は笑っていた。やっぱり夫にちょっかいを出し、自分にも挑発をしてきた朝比奈が怪しいと思う。私怨と思い込みの調査ではあるが、再び事件を解決して話題になったり、作品のネタにして欲しい。文花がこんな事をしているのも結局、夫の為だった。


 ちょうど話も尽きてきたところでシュトーレンが焼き上がった。焼き加減も完璧で、粉砂糖を雪のように降らせた。出来立てのシュトーレンをみんなで味わったが、夢のように美味しかった。しばし事件の事を完全に忘れて、シュトーレンの儚く溶けていく粉砂糖とどっしり濃厚な生地を味わった。


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