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殺人事件編-4

 ノートを書き終わったと同時に夫から電話がかかってきた。


「もしもし、文花ちゃん?」


 夫は、朝比奈の家にいる事を馬鹿正直に話した。

 文花は鬼のような顔で、パソコン画面の朝比奈のブログを睨みつけた。


「そう、それで? 可哀想な猿真似二番煎じ少女小説家と不倫でもするのかしら?」


 文花はチクリと嫌味を言った。浅山ミイの時も桜村糖子に脅されて可哀想だと後先考えずに彼女の家の行っていた事を思い出す。苦い水でも飲んだような気分だ。ちっとも嬉しくない。


「朝比奈佳世ちゃんは、今とてもショックを受けているんだよ。可哀想に。親友が突然死ぬなんて」


 その親友が死んだ場所に文花も居合わせた事など夢にも思っていないようだった。まあ、今回は自分が疑われていたわけではないが、夫の目先の事ばかり優先する偽善に辟易としてしまう。今、朝比奈の側にいる事は優しさなのだろうか。妻を一人残して女の元に駆けつけている男は、本当に優しいのか文花にはわからなかった。


「へぇ。もう不倫しないって言ったくせに女の所に行くのね…」


 夫のこうした偽善は、ある意味不倫する事よりもタチが悪く、力が抜けてくる。不倫はしない、恋愛小説も書かないなどと宣言していたが、人間の本性などそう簡単に変わらないようだ。


「うるさい。困ってる人間の側にいるのが人として正当な行為だろ。それに佳世ちゃんの家にはお手伝いさんもいるし、そんな不倫なんてしないさ」


 夫は怒っているのか、悲しんでいるのかよくわからない声を出していた。


「あなた、気をつけて。その朝比奈は伊夜さんを殺した可能性だってあるのよ?」

「それは君の私怨だろう。親友を殺して、何で佳世ちゃんが得するんだい?」


 確かに。言われてみれば「憧れの対象の伊夜様」を殺してしまう事は、朝比奈にとって本当に得する事なのかわからなくなった。今ネットで少し目立っていても、長く続くようには思えない。文花の強く訴えているカンもグラグラと揺らいでいく。


「もう、文花ちゃんは執念深いし、疑り深いよ。もう少し僕を信頼してくれよ」


 夫は明らかにイライラとした声を出して電話を切った。


 そんな事を言われても文花は納得はできない。あれほど不倫をされたら、そう簡単に夫を信頼できない。


 事件の事は、もちろん気になるが、夫を素直に信じられなくなっていた自分に文花は愕然としてしまった。


 それは不倫女の責任ではなく、文花自身の心の問題だった。


 自分の心がこんなに愛がなく、冷え切っていたとは。やっぱり自分は夫を愛しているのかわからなかった。


 そんな自信までグラついてしまった。

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