メンヘラ地雷女編-1
数年前のクリスマスの事である。あの頃はまだ新婚だった。
夫も恋愛小説を書いてはいたが、まだ文花に夫の不倫が発覚していなかった頃だった。
ケーキとチキン、ピザを作って夫婦二人でお祝いした。
文花も夫もキリスト教徒ではなかったが、この頃はまだ夫婦仲が良かったので世間で幸せなカップルの様なイベントも健気に実行していた。
「うまいよ、文花ちゃん」
夫はチキンにかぶりついて、ニコニコ笑っていた。
この頃はまだ文花も料理スキルも高くなく、チキンも市販の素を使ってあげた。実際ジャンクフード好きのバガ舌の夫には、そっちの方が喜ばれたわけだが、文花は気づいていなかった。
「本当? 市販の安いお肉と素を使っただけなのに。私ももっとお料理の勉強をしなくちゃね」
「いいよ、いいよ。文花ちゃんはこのままで」
「そう?」
そうは言っても数日前にシュトーレンを作ろうとして失敗した事はちょっとショックではあった。焼き加減が上手くいかない。周りは焦げているのに、中はべちゃっとしている。
夫の姉の菜摘からは、シュトーレンが好きだと言うことを聞いていたので、余計にショックを受けた。
さすがに失敗したものを食べさせるわけにもいかず、全部捨てた。料理ひとつとっても難しい。
結婚生活は楽しい事ばかりではなく、こんな風に努力や我慢する事も必要だと思う。
「ところで何でクリスマス祝う事になってるのかしらね」
文花ももぐもぐとチキンを食べ後につぶやいた。
「聖書にはイエス様の誕生シーンは出てきたけど、誕生日なんて出てきてないんだよ」
夫は過去に小説の取材の為に聖書を読んだ事があるらしく、少し自慢気につぶやいた。
「まあ、何はともかく祝うではないか」
夫はワイングラスにワインを注ぎ、二人で乾杯をした。
「私、本当にあなたと結婚して幸せだわ」
文花はワイングラスを傾けながら呟いた。
「浮気とか借金とかしたら許さないわよ」
「しないって」
夫も笑ってワインをゆっくりと飲んだ。
「本当?」
「本当さ。誓うよ」
しかし、その数ヶ月後、夫の不倫が発覚した。
この男の口の軽さは、信頼出来ないと文花は思った。
それ以来、夫婦仲は氷河期状態になった。こんな風にクリスマスを一緒に祝う事など無くなってしまった。