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96 とある日の滞在記録~爛論編③~

R15なので規定上あまり生々しいのは書けません。残念です。☜☜

その上に座る形で降ろされる。その隣にロゼスも座った。


そう言えば、前にもこんな風に並んで話した事があったわ。懐かしい。


そんな事を思いながら、隣に座るロゼスを見遣る。


私の視線に気付いて、ロゼスは笑った。その顔も、大人の姿も、ちょっとした所作も、何もかもが新鮮で、ロゼスから目が離せなかった。その全部に惹かれている。何より夢でも会えて嬉しいと心の底から思っている自分がいた。


「……しい」


「リコリス?」


「夢でも嬉しいわ……」


「夢? 夢じゃないよ。僕とリコリスが結婚するのは現実だ」


私の両頬を優しく包んだ手とは違い、ロゼスの顔は怒っているように見える。


「僕は何があってもリコリスを諦めないし、夢なんかで終わらせない」


その言葉に、胸の奥がじんと熱くなった。


うん、そうだったわ。久しくロゼスと話していないから、自分が何処へ向かって歩いているのかたまに分からなくなる。簡単に言うと、ご褒美不足。

でもね、ロゼス。弱っている人間ってとても脆くて寂しいのよ。すぐ迷子になってしまうの。だから――――。


「私を繋ぎとめておいてね、ロゼス様」


「2人の時は敬称はいらないって約束だったよね?」


「ロゼス……」


名前を呼ぶと満足したような笑顔を見せた。しかし、すぐにまた不機嫌そうな顔に戻る。


「さっきの言葉……繋ぎとめておいてって、どういう意味かな?」


ゾクッとする視線、低音の囁き、ロゼスの全てに気圧される。

私なにか変な事を言ったかしら? 


「あ、あの……ロゼス?」


「さっきのリコリスの言い方だと、繋ぎとめておかないと逃げるっていう意味に聞こえるよ。結婚するだけでは繋ぎとめる事は出来ない? リコリスは僕をその気にさせるのが本当に上手だよね」


「え? そんなつもりで言ったんじゃ――――」


射貫くような鋭い視線が私の身体を縫い留める。その間に口を塞がれてしまった。


長いキスだった。ロゼスの舌が割って入ってくる。


「あ……う…………んん」


舌が絡めとられる。予想もしない大胆さでロゼスは口内を侵してくる。

その勢いのまま、ロゼスは私をベッドに押し倒した。


服越しでもロゼスの身体は熱かった。


名残惜しそうに離れた唇が、今度は耳に吸い付く。


「ひゃっ……ん」


ロゼスの舌が耳から首筋に吸い付く度に、変な声が出た。


夢なのに感じてしまうなんて事、あるのかしら……。欲求不満? 

それとも……媚薬の効能か副作用……。うん、きっとそのせいだわ……。


身体は正直で、力が入らない。


「あ……可愛くてつい、ごめん。こういう事は結婚後にたくさんするべきだった。お楽しみはとっておくよ。今日はゆっくり休んで……。リコリスは少し疲れているみたいだから」


離れようとするロゼスの服を咄嗟に掴む。


「待ってロゼス…………。一つお願いしてもいい?」


「…………良いよ」


ロゼスは私に覆い被さるような体勢のまま、そう言った。


「うん、ありがとう」


この夢は現実により近付けた再現性の高い夢だ。夢なのに夢と思わせてくれない夢。私には怖いくらい幸せを与えてくれる夢。


――――覚めたくない夢。


「私が現実の世界でも頑張れるように、ご褒美をくれる?」


ロゼスの目が一瞬だけ大きく見開いた。


「その言葉、久し振りに聞いたよ」


「え?」


「僕に何をして欲しいか言ってみて」


「じゃあ……抱きしめてくれる?」


両手で赤くなる頬を押さえながらも、ご褒美の催促を恥ずかしがりながら言っている自分の貪欲さに驚いた。私ったら図々しいわ。けれど、これはきっと夢だから。


ロゼスは「そんな事で良いの?」と物足りないような顔をしながらも、私の要望に応えてくれた。

私の耳元で「可愛い、可愛い」と何度も言いながら、抱きしめてくれた。ベッドに横たわる私たちは暫くの間、互いの熱を移し合いながら過ごした。


――――あたたかい。


夢の中の時間、私はロゼスに抱きしめられながら過ごした。


◇ 


十分な時間をそうして過ごしていると、ボーンボーンと急かすように鐘の音が鳴った。


「時間だ……」


「うん」


夢から覚める時間だと言われたみたいで、複雑だった。名残惜しい。

上半身を起こすと腕を引かれて、ロゼスの上に倒れた。「愛してる」と囁かれた耳が熱い。

夢なのにこんなにも温もりを感じる事に、私は泣きそうになった。


ボーンボーンとうるさく鳴っていた時計の音が止まる。すると、私の視界はぐるぐると回るように動き、見えていた景色が全部混ざってしまった。


枝分かれする未来の一部の夢が閉じていく――――。




目を開けると夕闇が広がっていた。それからいい香りのする長い髪。私は誰かに背負われているようだった。


「あの……?」


「起きましたか?」


「ら、爛論なの? ごめんなさい、私寝ていたのかしら?」


「そうですね。気持ちよさそうに花畑で寝ていましたよ。余程いい夢を見ていたのでしょうね。称号の力で貴女のいた場所は知っていましたが、いつまでも帰ってこないのでリーナさんの代わりに迎えに来ました」


気まずい。だらしない寝顔見られたかしら……。


「そ、そうだったの……。ありがとう。もう一人で歩けるわ」


爛論は私を降ろしてくれた。地面に足が付く。私の視線は低く、地面も先程よりも近かった。


11歳に戻ったのね。


「ねぇ、爛論。あれは媚薬なんかではなかったわ。良い夢が見られる睡眠薬だったみたい」


「そうですか。私とした事が、配合を間違えてしまったようです」


「……そういう事にしておくわね。ありがとう、爛論」


爛論は妖しく笑うだけで、何も言わなかった。

そう言えば、爛論はどこまで私を知っているのかしら――。


「爛論の称号の力は、私の考えや夢の内容まで分かるの?」


「いいえ、私が分かる事は、貴女に起こった事や居場所、行動くらいです。心や夢の中は読めませんので、ご心配なく」


その言葉を聞いてほっとした。夢の内容は私のご褒美だ。誰にも知られたくない私のご褒美。大切にしまっておこう。ロゼスとあんな事やこんな事していたなんて、絶対に知られたくない。


「それにしても、風が強いですね」


「アカネイラ先生も言っていたわ。蒼天の節にしては珍しいって」


「あれは――――?」


「どうしたの? 爛論」


「いえ、見間違いでしょう。夕闇の刻限ですから、亡霊の類の一つや二つ……」


「ちょっと怖い事言わないでくれるかしら、爛論」


爛論がにやりと笑う。その顔がお化けみたいで、私は帰り道をひいひい言いながら帰った。

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