90 血の秘密
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「リコリス、少しいいか?」
タイミングよくアカネイラ先生が私に尋ねた。
「あ、はい。アカネイラ先生」
先生に名前を呼ばれて嬉しくなった。
やっと癒しスポットでお話し出来るわ。嵐も去ったし。
にこやかに視線を向けた先には、すらっと長い足にごついロングブーツを履いて、足を組んで座っている先生がいた。短パンからロングブーツまでの間は筋肉質の太ももが見える。赤くて長い髪は艶があり妙に色っぽいけれど、美丈夫の雰囲気も持ち合わせている。
そんな先生に見られると、初めて会った時のような緊張感が身体を走り抜けた。
「私に何か聞きたい事はあるか?」
先生だって私に色々と聞きたい事があるはずなのに、教え子になる予定の私を優先させてくれるところは、さすがアカネイラ先生だわ。
その気遣いに礼を述べ、有難く質問させていただく事にした。
「アカネイラ先生、お言葉に甘えて質問させていただきます。私の質問は2つです」
私は、前回自分でもよく分からなかった事について尋ねた。
眠り草の花粉についての手紙の事と、私の血が血界を通す事をどうして知っていたかという事だ。もちろん、今のアカネイラ先生が前回の自分の身に起きた事を完璧に説明できるなんて思ってはいない。枝分かれした道の自分の行動なんて誰にも予測出来ない事は、知っている。
けれど、1回どうしても聞いてみたかった。
アカネイラ先生は腕を組み押し黙った後、ソファにもたれかかっていた背筋を正して答えてくれた。
「うーん、手紙の事なら予想だが、私やリーナが書けない状況にあったか、あるいは殺されたか。代筆でオーレア卿または幹部の子孫か使者が書いたかもしれない」
「先生は前回、死んだ可能性があるという事ですか?」
「ああ、そうだ。同じ手紙を何回も書いて寄越す程、私はマメではないんでね」
前回の先生が逃げたり殺されたりする可能性があるという事を考えると、身体の内側が恐怖で冷えていく。先生は私の師であり、強くて騎士の資格も持つ魅力的な女性だ。リーナだって、元暗殺者という肩書がある。決して易々とやられるような人たちではないと思っていたけれど。それ程、敵が強くて敏かったのかしら。
そう考えると、私が過去をやり直している事を伝えて良かったと思った。対策が打てる。
「次の質問だが前々回の私が、リコリスの血が学園の防御システムである血界と相性が良いと言った理由か……。当てはまる理由は1つしかない。お前の母親の出生に関係する事だ」
「お母さまの?」
この話が始まった時、一番反応したのが私ではなかった。控えるようにしてソファの脇に立っているリーナの様子が目に見えておかしかった。目は瞬きを忘れてしまったように動かない。
「リーナ、どうしたの? 顔が真っ青だわ」
「私が先程リーナから聞いた事を話すよりも、事情を知るリーナから直接聞いたほうが良いだろう」
「僕もそう思います」
ユラが同意すると、リーナは申し訳ない程度に前へ歩み出た。
「……分かりました。お話します」
応接室が本来の静けさを取り戻す中、私はリーナに注目した。
「リリス様は、千年前に滅びたステラ島国の王族の血を引いています。表面上の歴史では、千年前にステラ島国の王族は当時のペテロ帝国の皇帝に殺された事になっています。しかし、王の子1人だけは生き延びていたのです。モナス島国の当時の王がかくまってくれたおかげで……」
想像していたより話のスケールが大きくて、私は微かに震える手を悟られないようにぎゅっと握りしめた。
お母さまの状態が良くないと知った時から、私は毎日のようにお母さまと話をしていた。けれど、お母さまからその話を聞いた事も、その事を匂わせるような話を聞いた事は一度もない。
ただお母さまは私の夢を聞いたり応援してくれたり、来世や転生前の話をしただけだった。
お母さまの胸の内を聞く事はもう出来ないけれど、大事な話を聞かされなかった事に胸が少しチクンと痛んだ。
「リーナはどうしてその事実を知っているの?」
「リリス様がお亡くなりになる前に、知りました。私を信頼してくださったんです。そして、血の秘密を知りました」
「血の秘密……。ステラ島国の王族に血の秘密が?」
「はい。ステラ島国の王族の血を引く女性だけに発現する力があるらしいのです。それは猛毒よりも猛毒な血の力です。称号の力さえも凌駕するとおっしゃっていました。それ故、短命だったり身体が弱かったりするらしいのです」
そこまで言うと、リーナは言葉を止めた。
私のために情報を整理する時間を与えたのだろう。今の私は、きっと酷い顔をしているに違いない。
それでも役に立つ情報が手に入った。前々回、アカネイラ先生がどういう経緯でこの血の秘密を知ったのかは定かではないけれど、きっとどこかでこの血の秘密を知ったのだろう。今回はそれがリーナ経由だっただけで。
お母さまは本当にその血のせいで、佳人薄命の如く短い将来を終えたのかしら……。もしかして、私も? ううん、私は至って健康だわ。そもそも血を受け継いでいるのかもあやしい。転生者だし。
考えれば考える程、頭がぐるぐるしてくる。不安になった。千年前から血筋を繋いでいても、その間に薄まってしまったかもしれない。ほとんど効力がないかもしれない。そんな不安が付きまとう。
私の不安を一早く気付いたのは、他でもないリーナだった。
両膝を絨毯に付けて私の手を握り、私の顔を見上げる。俯いている私と視線がぶつかった。
「大丈夫ですよ。リコリス様はその血を受け継いでいます。むしろ丈夫で何よりです」
それは優しい言葉だった。背中をそっと押してくれるような言葉。自分の血が役に立てると言われたみたいで、武者震いを誘う言葉。
うん、そうだわ。こういう事はきっと深く考えては駄目なのよ。私に血の力があるというのなら、その薄い血でも何でも使わなくちゃ。称号の力さえ凌駕する血の力は、むしろ良い兆しだわ。
これでロゼスを助けられるかもしれない。
「それに、リリス様はリコリス様の事を案じて、血の秘密を打ち明けられなかったのです。決して信頼していなかった訳ではないのですよ」
「ふふ、いつもリーナには見透かされてしまうわね、私の気持ちを」
感謝の言葉の代わりに、リーナの手を握り返した。
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