81 死亡フラグに殺される日~後半③~
「先程、エリューと話した。全てを……」
その言葉の本当の意味を知っている私は、ロゼスの言葉に電流が走ったような痛みを覚えた。全て――それはつまり、全部を伝えた事を意味している。ガゼロたちには伝えていない事も含めて全部という意味だ。
エリューには、私が過去をやり直している事を包み隠さず伝えたという事。
ロゼスと目が合うと、確認し合うように頷いた。
「2回の死を与えてここで弔う。そして、巨大植物の中に墓を作ろうと思う」
「ロゼスは躊躇わないんだね? ドラゴン殺しというペテロ帝国の悪法に触れて、処刑台で裁かれるかもしれないのに」
アラトマは殺気を隠す事なくロゼスに向けた。
「アンドーラ国の治者は臆病者だね。処刑台に上がるのが怖いと見える」
「そうじゃないよ。無計画で心中なんてごめんだからさ」
ロゼスは敢えてそういう言い方をしているのだろう。普段のロゼスと明らかに違う煽り方をしていた。でも、それはアラトマも同じだった。個人の枠を超えて、国や身分を巻き込んだこの騒動を疎ましく目の敵のように思っているのだろう。だから少しの解釈のズレも許せない程、敏感になる。
私にはその気持ちもよく分かるし、それに口を閉ざすガゼロや爛論の気持ちも分かる。デリケートな問題に反応が分かれるのは、世の常だ。
――――前回より時間をかけて信頼関係を築いたつもりだったけれど、まだまだ仲間意識は薄いのかしら。それとも……。
趣向を変えてみようと思いながら、私は風の剣を作り、それを高く掲げた。
「エリュー、2回我慢してくれるかしら……? 一瞬で終わらせるわ。なるべく痛くないようにやるから」
気持ちを言葉に乗せしっかりとした口調で語りかけると、エリューが頷くような仕草をする。話す事は出来ないけれど、心が通じ合えた気がした。
やり直す前は場面事に自然な感情が溢れ、流されるままに流され運命に翻弄された。やり直した後は、1回目を元に進んでいるからか覚悟が出来ている。まだ怖いと思いつつも、一度辿った道を上からまたなぞるだけ。前回より平気。それが今の私の心境だ。
だから、誰もがやりたがらない事を、率先してやらなければいけないと思った。逃げては駄目だと思った。さっきはロゼスの手に甘えて、私は死から目を背けたのだから。
エリューに向かい、剣をゆっくり振り下ろす。
「――っておい、待て!」
「女性1人に背負わす程、腑抜けじゃありませんよ」
「むしろ俺がやるし!」
ガゼロ、爛諭、アラトマの手が、私の風の剣を掴む。その力強さに剣はびくともしない。遅れて後ろから手が伸びてくる。ロゼスの手だった。
「もちろん、僕もやるよ。一緒に背負う。いいね? 勝手に1人でやろうとしないで欲しい」
ロゼスの声はいつもと同じ調子だったけれど、その時の眼光はとても鋭くて睨まれたような感じを受けた。私の勝手な行動は、ロゼスを心配どころか怒らせてしまったのだと思う。先程から圧が凄い。
ロゼスには申し訳ないと思いつつ、私はガゼロたち3人が揃いも揃って私の剣を止めた事に、思いの外喜んでいた。3人の心を試すつもりはなかった、とは言い切れない。むしろ心のどこかで期待していた。このバラバラだった足並みがワルツを踊るように足並み揃う様を……。
――――たまには無茶をしてみるものだわ。だってこうしてまとまったもの、ふふっ。
込み上げてくる感情に目の奥がじんと熱くなる。
「でも、良かった。これで私たちは秘密を共有する切っても切れない仲間だわ。そうでしょ?」
死亡フラグという絶望終幕の中に幸せの終幕の一欠片を見つけた気がして、私は笑顔で微笑んだ。
「お、おう……」
「え、ええ……」
「あ、うん……」
言わされている感が半端ない言葉だったけれど、上手くまとまったならそれでいい。
その時、エリューも小さく鳴いた。
「どうしたのかしら?」
「あ、エリューが俺たちの事、良い仲間になれるって言ってる」
「ま、少なくとも今だけは良い感じだな」
「……ですね」
ガゼロも爛諭も珍しく笑っていた。その時の雰囲気はとても良くて、居心地が良かった。
「そろそろ……良いかな」
ロゼスの言葉でそれは始まった。
眠るように丸まっているエリューに寄り添い、風の剣を向ける。
優しい剣であれ――――。
この時ばかりはそう願わずにはいられなかった。武器に優しさを求めるなんておかしいけれど。
エリューの2回の死は、前回と違う所もあれば同じ所もある。でも、エリューを想う気持ちだけは変わらない。爛論は前回と同じで鎮痛剤を用意した。アラトマも前回同様、エリューが眠るまで声を掛け続けた。ガゼロは前回とは違い、冷たくなっていくエリューの身体を神炎で温めている。
私の起こした行動で未来が変わった事が原因だった。何万通りある内のたった一つの道であり、未来がない道だけれど。
私とロゼスはその冷えゆくエリューの身体に剣を突き刺した。青緑色の血がとめどなく出てくる。エリューの身体が一瞬ビクッと反応したけれど、痛みに声を上げる事なくやがて眠っていった。
その瞬間を見届けると、皆の表情は一層険しくなる。それは私も同じだった。この毒を恨めしいと思えば顔は引き攣り、水分は蒸発する。乾き切った目にあとどのくらい同じ光景を焼き付ければ、私は涙を取り戻せるのだろうと考えていた。
そんな私の気持ちを嘲笑うかのように、腹に根を張る毒の花が咲く。皮肉な程に艶やかだった。
でも、その花はすぐに消えた。
一瞬だった。
何事もなかったように、一瞬で全てが終わった。言葉もなく。
エリューは2度無事に死んだ。
「エリューは感謝していたよ。ただ、俺たちに向かって心を病むなって言ってた。どういう意味なんだろう?」
「気にするなって事だろ」
「…………もうこれっきりにしたいわ、こんな事」
エリューの身体には無数の蔓が巻き付いていく。鳥の巣のような球体がエリューの墓になったのだ。私たちはその墓を見つめながら、思い思いに話をした。
「この学園の中に6人の幹部の子孫や手下が紛れ込んでいるとなると、穏やかじゃないね」
「ええ、こういう悲劇はまた繰り返されるでしょう」
「チッ、絶対ぇ見つけ出して、燃やす」
「……うん、私も頑張るわ」
その時、私の背後で何かが蠢いた。
「……うん。その調子で……後は……頼む……よ……」
その言葉が言い終わる前に、ロゼスは地面に倒れ込んだ。
ロゼスの異変を感じ取ったのは私だけではない。皆の視線がロゼスへ注がれる。私の心臓がドクンと鈍い音を立てた。
――――ああ、始まってしまった。
私は手のひらを強く握り締めた。
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