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79 死亡フラグに殺される日~後半①~

お風呂から出た私とロゼスは、時間よりも早めに決闘場へ行った。ガゼロ、爛諭、アラトマはもう来ていて、巨大植物ジャイアントプラントの影に隠れていた。


「遅かったですね」


「予定より早い時間だよ」


爛諭の言葉にロゼスはにっこり笑って返した。それでうまく収まりそうだったが、ガゼロが一言付け加えた。


「匂いが同じだ……。鼻に付く」


「匂い?」


意味が分からなくて周りの反応を見渡す。ロゼスはガゼロの一言を聞いても、穏やかな表情を浮かべていた。爛諭は気まずそうな表情、アラトマはこの状況を面白がっているように見える。ガゼロは気に入らないというような顔をして、そっぽを向いてしまった。


アラトマが私にこっそりその理由を教えてくれる。



「ロゼスと一緒にお風呂に入ったの? 同じ石鹸の匂いがする」


「あ……」



――――いけない。ここで動揺しては……。



そう思っていても、ここにいる誰もがその事実に気付いていると思うと、恥ずかしくて穴に入りたくなる。私はすっとぼけた振りをして「ぐ、偶然よ。オホホ」と取り繕うので精一杯だった。


ロゼスがこうなる事を見越してお風呂に誘ったかもしれないと思うと、中々の策士だと思う。ロゼスの様子を探るために視線を向けると、首を傾げられて笑顔を向けられた。真相は闇の中だ。




緩んだ空気を引き締めるように、爛諭は静かな声で言った。


「来ましたよ」



皆の視線が標的に注がれる。巨大植物ジャイアントプラントに身を潜め、フードを被った人間のやる事を見据えた。その人間は前後左右に忙しなく視点を動かして、挙動不審な動きをしている。周りを警戒しているのだろう。



「あれが幹部の子孫の使者か? 強敵には見えないな」


「もう殺っちゃおうよ」


「……もう少し待ちましょう。情報を完全に搾取してからですよ、殺るのは」



声を潜めて会話したせいか、フードを被った使者には聞こえていないようだった。暫くするとその使者は決闘場の真ん中で呪文を唱え始めた。


隙だらけの使者を見て、ガゼロは「俺だったら今攻撃する」と言った。痺れを切らしたのか、ガゼロは苛立っているように見える。そんなガゼロを宥め、爛諭は「あの呪文は興味深いですよ」と言った。


「呪文にしては、古臭い感じがするわ」


「ええ、それはそうでしょう。今はもう魔法は廃れていますが、あれは魔法が全盛期だった頃の魔法です」


爛諭の瞳が大きく見開かれ、使者を興味深そうに観察している。爛諭が廃れた魔法に詳しい事を私は初めて知った。


――――楽しそうだわ、爛諭。こんな顔もするのね。



長々と唱えるその呪文を耳で聞きながらそう思った。爛諭から使者へ視線を戻すと、いつの間にか空間に大きな穴が開いている。



「何だあれは……!?」

「闇の通路だよ……」


ロゼスが小さな声で呟いた。ロゼスの言葉に皆が注目する。


「本当に存在するとは……。文献でしかその存在を知りませんでした」


「手下も中々やるね。血界の意味ないじゃん」


「……それで闇の通路を使って何をするんだ? まさかドラゴンを呼び出そうって訳じゃないよな?」



野獣の勘なのか、ガゼロは鋭い。私もロゼスも顔色を変えないように取り繕ったけれど、思わずガゼロに視線を向けたのは一緒だった。


「おいおい、本当にそのまさかかよ」


闇の通路と呼ばれた穴からは傷付いたドラゴン、エリューが出てくる。エリューは手下を見るなり怒り狂い、暴れている。死にそうでもドラゴンとしての矜持プライドは失われてはいなかった。



――――私、どこからエリューがやって来たのか知らなかったわ。でも、今やっと分かった。



前回の私はアラトマと邂逅かいこうした後に決闘場に来た。その時にはもうエリューはいた。だからずっと不思議だった。学園の外から入ってきたのなら、どうやって入って来れたのか。学園の血界をすり抜けるなど容易くはないのに。


この知らない尽くしは精神上良くないものだと知っているから、少しでも知ろうと私とロゼスは待ち合わせ時間を早めに設定した。


そして今、エリューがこの学園に来た経緯を知った。知れて良かったと思っている。



瀕死のエリューに対して見下しているような態度の使者に、私は侮蔑の視線を送った。


「許せないわ」


考えるよりも先に身体が動いた。それは私だけでなく、4人も同じだと分かる。

視界の両横には、並んで飛び出した皆がいた。



――――いつ動くのかは打ち合わせしていなかったけれど。頼もしいわ。



その後は打ち合わせ通りに使者を取り囲んだ。囲まれた使者は驚いたように周りをぐるぐると見渡している。


「逃げ場はない。覚悟するんだな」


「くそ、どこから情報が漏れた……。来るのが早過ぎるじゃないか!」


使者は怒りをぶちまけて、ブツブツと呟いている。その使者の腕を爛諭は素早く掴んで封じた。


「ブツブツと呟いている言葉の裏で、呪文を呟いていますね? お見通しですよ」


「そうそう、まずは黙ろっか」


アラトマが使者の口を潰した。拳を軽く口に当てたように見えた攻撃は、そんな生易しいものではなかった。使者は口からボタボタと血を吐き出している。傷付いた口では上手く話せないようで、もごもごと言葉にならない言葉を言っていた。命乞いかもしれない。でも、それを許す者はここにはいなかった。



アラトマ、ガゼロ、爛諭の3人は、飴と鞭を使い分けて使者から情報を聞き出している。

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