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68 とある日の暗躍活動記録~ヤンデレ3人衆①

「裏庭の亡霊」の噂がおさまってから数週間程立った後も、私たちはいつものように暗躍活動に精を出していた。



待ち合わせ場所である教室棟の屋上に向かうと、もうすでに爛諭とアラトマがいる。口を固く結び、眉間に皺を寄せている爛諭とは対照的に、アラトマは「俺も今来たところだよ~」と笑顔で迎え入れてくれた。


「遅れてごめん」


蛇のような視線を這わせる爛諭に臆する事なく謝ると、爛諭の目が少しだけ柔らかくなる。



爛諭は前回のような初対面の人に対する不躾な物言いは殆どなく、その代わり何かを考えるような仕草をして黙る事が多くなった。前回と今の私の行動は違っているのだから、爛諭もそれに影響されているのかもしれないと思ってはいるけれど、実際どうなのか私には分からない。



一方、アラトマは相変わらず変態の仮面をストックしていた。


ふとした瞬間に仮面が外れたり入れ替わったりして性格が変わる事があるけれど、何枚もの仮面とその下にある素顔を含めてアラトマなのだという事を私は前回で学んでいる。だから、アラトマの扱いには慣れているつもりだ。


入学の日に私を貶める発言をしたアラトマが、その夜にはどういう訳か愛想良くしてくれたのも想定済み。ガゼロの部屋で大戦争回避の協力をお願いすると、全面協力すると承諾してくれた。一番興味のなさそうなドライな国の治者アラトマが仮面を潔く脱ぎ捨てて、その時ばかりは貴重な素顔を見せてくれた。



今では貴重な素顔がたま~に見られるくらいには懐いてくれている……と思っているけれど。




そんな良好な関係を築き上げている私たちが今宵集まった理由は、暗躍活動をするためだ。暗躍活動のペア決め方法は毎回違っていて、くじ引きだったり、指名制だったり、ゲームの勝ち負けで決めたりと趣向を凝らしている。


ロゼスとペアになる事が偶然(?)にも多い私が、今日は珍しく爛諭やアラトマと一緒だった。そう言えば、今回どうやってペア決めをしたのかは聞いていない。





教室棟から東の方角を見ると、訓練場に向かう人影を確認出来た。


「4人程いますね」


「俺の仕入れた情報だと6人の男子生徒だったよ~?」


「きっと訓練場で合流するつもりだわ」



私たちは人影が見えなくなる頃合いを見計らい、3人横並びになりながら後を追う。暫くすると、爛諭とアラトマの雑談が始まった。



「これを放っておくとどんな戦争の火種になるのか、少し見てみたい気もするなぁ」


「大した火力にはなりませんよ。馬鹿の火種を馬鹿が相手にして事を大きくさせる、そんなつまらない火種でしょう」


「……それなら爛諭、放っておく?」


「まさか……。つまらないなりにも楽しみはあるのですよ。馬鹿にも見どころはあるのです」


「へぇ。それは興味があるなぁ。爛諭がどう料理するのか」


「私もアラトマのやり方には興味がありますよ。貴方は中身も味も、見た目にも凝るでしょう?」


アラトマと爛諭のやり取りを聞いていると、2人は気が合う似た者同士だと思えてくる。火種を生むだろう男子生徒たちに毒舌を吐きながらも、2人の目は同じようにギラギラと輝いているから。



でも、そういう私もきっと、2人と同じ目をしているのだ。


学園の規則に引っかかる事だと分かっていても、仲間と戦争の火種を摘み取るこの“暗躍活動”という行為が私は好きだ。歴史の小さな歯車を変える一端を担っていると思うとやりがいを感じるし、この無意味な雑談だって楽しいと感じている。



――――なんていうか、青春みたいな感じがするのよね。



風を切って進む2人の横顔をチラッと見ると、笑みを浮かべているような気がした。暗くて表情が読みにくいけれど、居心地がとても良い。



――――そう言えば、この3人で前回謎のフラグを立ち上げたけど、あれは一体何のフラグだったのかしら……? 私が感じた限りでは、大戦争にも恋愛にも属さないおかしなフラグだったわ。



小首を傾げながら考え事をしていると、アラトマが声を掛けてきた。


「そう言えば、リコリスは最近ロゼスに会ってないの? 俺が入学初日にあんな事を言ったから……?」


「……そういう訳じゃないわ。むしろ、アラトマには感謝しているのよ」


「え? 何で……?」


私とアラトマの話を爛諭は興味深そうに聞いている。進んだり立ち止まったりして対象の男子生徒たちと付かず離れずの距離を保ちながら、私たちは話を続けた。


「私がロゼスの事をどれだけ大切に想っていても、私にはロゼスの事がよく分からないの。ロゼスが今どういう感情を抱いてどんな状況にいるかなんて事、考えても結局は想像でしかない。だから、ロゼスの状況を教えてくれるアラトマの存在は、私には有難いわ」



ずっと伝えたいと思っていた事を素直に伝えると、アラトマの反応が気になって顔を何度もチラチラ見てしまった。暗闇でもどことなくアラトマの顔が喜々として見えるのは、気のせいだけではないだろう。




「……ハハッ、俺ってロゼスの状態を判別するものとして使われていたの? それは光栄だなぁ。だって、俺がロゼスの事が大好きで1番ロゼスに詳しいって言ってるのと同じだよ、それ」


「……言われてみればそうね。その才能、欲しい位だわ。羨ましい」


笑顔で言うと、アラトマは急に黙ってしまった。



「……アラトマ、そこ赤くなっていますよ」


アラトマの耳を指差して爛諭がくすりと笑った。


「…………!! って、この暗闇の中、何で赤くなってるって分かるの? 俺は騙されないよ、爛諭」


「フッ、心は意外と冷静でしたか」



前回のヤンデレ3人衆のような病み方は今の私たちにはなかった。でも、前回も今回も共通しているのは、2人と接していると似た波長を感じるという事だ。


「アラトマもロゼスの事が好きなのね。爛諭がガゼロを好きみたいに……」


2人のじゃれ合いに気が緩み、ついうっかりして口を滑らせてしまった。





その瞬間、爛諭の鋭い眼光が私を射貫く。


「――今何て言いましたか?」





――――しまった! 私の馬鹿!


慌てて平然を装うものの、身体中心臓の音が響いていて煩い。




爛諭がガゼロとの関係や深い話をしてくれたのは、私が死ぬ前、つまり前回の事。



爛諭とガゼロの関係を聞いた前回の私は、爛諭に『ふふ。大好きなのね、ガゼロの事』と言った。

それに対し、爛諭は『……。男同士で好きとは言わないのでは?』と言ってきた。


つらつらと交わした言葉が思い出される。


『私の知っている前世せかいでは、男同士だろうと女同士だろうと、恋愛や結婚の自由を許されている所があるのよ』


『……博聞強記はくぶんきょうきの王の称号を持っている私でも、そのような話を見聞きした事はありません。そんな世界が…………本当に? でも、覗いてみたい気もします、そんな世界を。私のガゼロへの思いが、恋愛感情かは分かりませんが……。貴女に対しての思いなら、はっきり分かります。友達以上でも以下でもない事は』



そんな会話をした記憶がついこの間のように感じる。思い出としてはっきりと心に残っている。




でも、今回の私は爛諭とそんなに深い話をしていなかった。する必要がないとさえ思っていた。知ってしまった情報をまた手に入れるよりも、知らない情報を集めるために奔走しようと決めていたから。どう転んでも死んでしまう運命なら、せめて一つでも多く情報を集めようと思っていた。



だから、今の私が知らない話をするのは、避けなければいけないと気を付けていたのに……。


この致命的なミスを爛諭は見逃したりしないだろう。



――――それでも、何もしないよりは良い。猫100匹程被って対応するわよ! しおらしく!



唾をごくんと飲み込む。



「ご、ごめんなさい……。想像のままに……。好き勝手言ってしまったわ」


「駄目だよ、リコリス。そういうのは心の中だけに仕舞っておかなくちゃ、ね?」


アラトマが私と爛諭の間に入り、空気を和まそうとしているのが分かる。あまりに自然にアラトマがムードメーカーとしての役割を果たそうとするので、爛諭はそれ以上追求する事なく目の前のするべき事に目を向けてくれた。







「…………いましたよ。彼らですね」


目的の男子生徒たちを確認すると、私たちはおもむろに足を止めた。先程まで存在した雑談を楽しむ空気は一瞬にして消える。


夜闇やあんに紛れて状況を把握し、暗躍者としての顔に挿げ替え機会を待つ。


男子生徒たちの周りが少し明るかったのはラッキーだった。彼らの内の1人が習いたての控えめな魔法、小光玉ライトを使っている。おかげで標的が良く見えた。


しかも油断しているからか、男子生徒たちの話し声は小声ではなく、普通よりやや大きい声だった。耳を澄まさなくても自然に会話が聞こえてくる。




「おい。お前たちはアンドーラ国出身だと聞いた。今ならこの僕が契約してやってもいいぞ。もちろん報酬は出す。だから3年後の大戦争時には、ユリネス大公国のルーガス家の盾となり僕と国のために戦え」


「……断る。アンドーラ国の他の民はどうだか知らないけど、俺らは自分で雇用先を見つけるから」


「あ、あの……。僕もテトラと同じ考えで……す」


「ああ? ルーガス家の誘いを断るだって? お前ら馬鹿だなァ」


「くく、可哀相に。このまま見逃すわけにはいかないって事だよぉ? 意味分かるぅ~?」



ユリネス大公国出身の生徒たちは4人がかりで2人の生徒を取り囲むという卑怯な行為に加え、勧誘にも失敗するという醜態を晒している。素直に身を引けばいいものを、脅迫までしていた。


事態の収拾どころか一触即発しそうな雲行きを見兼ねて私が飛び出そうとすると、爛諭はそれを静止して首を振った。


「まさか馬鹿の火種が、よりにもよってユリネス大公国出身の生徒から生み出されようとは……。虫唾が走ります。でも、今日の暗躍活動のメンバーに私が選ばれた理由がやっと分かりましたよ」


「あれ、爛諭に言ってなかったっけ? 今日の件は俺が見つけてきた火種なんだ。爛諭と俺はメンバーとして直ぐ決まったんだけど、残り1人が中々決まらなくて。相手が6人いるから人数も多い方がいいのに、ロゼスもガゼロも2人して冷たくてさ」


「それで私に……?」


「今思えば、あの時のロゼスとガゼロの様子、確かに変だったな~。普段そっぽを向いている2人があからさまに結託なかよくして、用事があるって逃げてさ。冷たいでしょ? あ、アンドーラ国の生徒2人は俺が引き受けるよ。何か企んでいるようだし、お仕置きしないとね」

読み終えて「頑張って」や「続きは?」と思った方は、ブックマークして下さいね。広告下の☆☆☆☆☆☞★~★★★★★にして評価宜しくお願いします。正直な感想に飢えてます。『111回以上婚約破棄されましたが、まだ婚約者の座を死守しています』☞https://ncode.syosetu.com/n1599he/の方も読んで下さると嬉しいです。

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