64 ロゼスとトラと訪問者②
視点が変わります。
「……やめろ」
「どうして? こんな時くらい好きにさせて欲しいなぁ。正直言うと、誰も俺とロゼスの関係を気付いてなくて退屈だったんだ。2年も前に俺はロゼスに飼われているのにね? 自分から懇願して契約してもらったんだから、ロゼスを敬うのは至極当然の事だよ」
「白々しい。僕にはどうだっていい事だよ。それよりアラトマ。再度忠告するけどリコリスに余計な事、言ってないかな?」
突き刺さるロゼスの視線を感じ取ると、アラトマは体中に電気が走ったみたいに身体を震わせた。執着と狂気と偏愛を詰め込んだ目をして、ロゼスに言った。
「ロゼスが大好きなリコリスさえ、ロゼスの事を良く知らない。一番ロゼスの事を知っているのは俺だという事実が、堪らなく快感だよ?」
「……やめろ。普通に答えられないのか? その気持ち悪い仮面を脱げ」
「あはッ、これも仮面なのかな? 素顔の俺にも近いけどねぇ? ロゼスの前だけでは、キミに恋い焦がれる俺でいたいんだよ。だから、ロゼスの手足となり情報を集め、2年前から暗躍してきた。ロゼスを知る事を条件に」
「……確かに契約はしたが、それでもお前には僕の事なんか知り尽くせないよ」
「うん。そーゆーところも好きだよ?」
跪いていたアラトマの姿はもうなかった。その代わり、ロゼスとアラトマの距離は、顔が付く程に近い。アラトマがどんなにその変態振りを押し付けようと、ロゼスの顔は変わらなかった。
アラトマは服を捲り、わき腹を見せる。そこには印が刻まれてあった。余程その印を大切にしているのだと分かる。ご丁寧に印を風で覆ってあった。
「俺の称号の力が、己の欲望を満たすだけのこんなに役立たずだなんて、誰も考えないだろうねぇ」
心の奥底で密かな考え事をしながら、アラトマは言った。
アンドーラ国の民は結束しない。
戦争が始まる兆候が見られると、平時と同じように個人主義で動く。報酬の良い依頼を受ける民もいれば、平気で蹴る民もいる。どの国に雇われたいのか、誰に雇われたいのかを自分で見つけ、契約する民も多い。
アンドーラ国の民は、同じアンドーラ国の民の事を恨まない。民は皆、そういうものだと割り切っている。そんな国の治者であるアラトマもまた、個人主義のドライ。ロゼスという雇われ先を自分で見つけて、「俺を飼わない?」と売りにきた男だ。
ロゼスを知る事を条件に、番犬のような扱いを喜んで受け入れて、夜な夜な暗躍を繰り返す。互いにとって実に都合の良い相手であった。
しかし、同時にアラトマはロゼスにとって気の置けない相手でもある。アラトマの称号はロゼスの心の機微や表情を読み取るものだ。読み取る度に悦に浸り、リコリスに余計な事を言いに行く。その事をロゼスはよく知っていた。
嫉妬した時にリコリスの辿ってきた道がロゼスには全部見えていた。その時見えた過去では、アラトマはロゼスの言い付けを無視して、リコリスに接触していた。その事を思い出して、ロゼスは口汚く罵った。
「……本当に信用ならないな、アラトマは。待ても出来ない……主人の命令も守れない駄犬だ」
「最上級の誉め言葉だよ? それ」
予想通りの反応だと思いながら、ロゼスはずっと遠くを見ていた。リコリスの事を思い浮かべながら。
「お前は……。今は僕の力に恋い焦がれ執着しているかもしれないけど、そのうち僕の大事な人にも興味を持つだろう。僕の物や大事にしている人を子供のように欲しがるようになる。そして、気付くんだ。リコリスの価値に……。そんな事が簡単に予想出来てしまうから、お前とリコリスの接触は避けたい」
溜息混じりにそう言った後、ロゼスは自分が余分な事を言ってしまった事に気が付いた。アラトマがにやりと笑っている。
「……そんな事言われると、興味がなくても接触したくなっちゃうねぇ?」
アラトマはわき腹の印を触り、ロゼスを挑発した。
「……もういい! 前置きはこのくらいにして、本題に入ろう。それで、例の件はどうだった?」
ロゼスの人差し指がアラトマの額を優しく叩くと、アラトマの仮面が剥がれ落ちた。
「……うん、予想通りだったよ。それともう一つ……」
アラトマの顔付きは先程とは違い、真剣そのものだった。
授業が始まっても、ロゼスとアラトマのやり取りは続けられた。
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