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6 ペテロ帝国の騎士と花紅柳緑(かこうりゅうりょく)の王との出会い②

第一章の物語はゆっくり単調に進みます。

「お前は何者だ? ここで何をしている? しかも、隠形ハイドの初級魔法を使って」


騎士は漸く口を開いた。


「それは――――」


あれ? 上手く言葉が出て来ないわ。どうして?


掴まれていない方の手で、そっと喉を撫でた。喉には風邪を引いた時のような違和感は全くない。それなのに、肩は呼吸の度に上下に動く。


もしかして、酸素が薄くなっているのかしら? そうだとしたら……。


一つの可能性が頭を過ぎった。


「ふっ、怪しいな」


騎士の表情は分からないけれど、その鼻で笑った事が全てだと確信した。


傲慢な騎士を睨み付け、言葉の代わりに目で罵る。そんな反抗的な私の態度に苛立ったのか、騎士はさらに強い力で私の腕を掴んだ。


――――痛い。でも、屈したくないわ。


気付いた上でわざとやっているのだろう。位の高い者は下位の者に対し、気高くあるべきだと私はお父さまから教えられた。だから、余計に騎士の行いが許せない。


息苦しさや腕の痛みに耐えながらも、静かに滲み出る怒りの感情を胸の内に隠す。激昂しては騎士の思う壺。


――――絶対、屈しない。こんな一方的にアウラを使うなんて。話ぐらい聞きなさいよ。



騎士が使っているアウラは、4つの力の内の一つだ。

この「思い出の花」の世界には主に4つの力――魔法、武術、アウラ、称号が存在する。


この世界では、魔法は何も特別なものではなかった。練習すれば平民でも貴族でも王族でも、誰でも使いこなす事が出来る身近な存在ものだ。


大昔には大いなる力を秘めていた魔法も、ある事件をきっかけに時代を経て衰退の一途を辿っていった。受け継がれた魔法の種類は少なく、威力も差ほど強くない。武術と魔法、対等な力関係にあった。


それより強い力があるとするならば、それは称号とアウラだ。


アウラとは、その人だけが持つ「輝き」を意味している。神秘的な力があり、心の有りようアウラの質は変化し強くも弱くもなる。形容するならば、かぜだろう。魔法のように属性がないアウラは、心次第でその姿を変える。


アウラを武器の形にして戦う事も可能であり、また体に纏わせて強化する事も出来た。使い手によってアウラは色々な可能性を秘めている。


諸説は多々あるが、魔法の代替という点ではどの説も一致していた。


平民や並みの貴族には、称号とアウラは使えない。高位の貴族の中でも限られた者と王族などの絶対的権力者の一族だけが、称号とアウラを使う事が出来た。




「何か言ったらどうだ?」


腕を掴んだまま、騎士はさらに顔を近付けてくる。バイザーの隙間から覗く鋭い目に睨まれた。それでも屈したくない。騎士にも気付くように口元だけ笑ってみせた。



苦しくて、一瞬意識が飛びかける。

前世の死の直前の記憶が脳裏に思い浮かぶと、毒々しい感情が沸き上がった。


「待ってください! ルカス・ジュ・エネフィラ様」


大きな声に呼び戻される。目の前には、私と同じくらいの歳の男の子がいた。


その男の子はアウラを軽くいなし、騎士の手を臆する事なく掴んだ。解放された腕には痛みが残っていたけれど、痛みが気にならない程に目を奪われた。


この世界で初めて会う攻略対象者だわ。ゲーム画面で見るよりもずっと綺麗……。


騎士は何も言わずに溜息を吐いた。


「すみません、ルカス様。でも、この子はステラ島から来た子供です。おそらくモナスベリーを摘みに来たのでしょう。このあたりにはベリーの木が沢山ありますから」


その綺麗な男の子は、私の代わりにそう説明した。


私はこの桜色の髪をした綺麗な男の子をよく知っている。


彼の名前は、ユラ・フィラ様。花紅柳緑かこうりゅうりょくの王の称号を持つ、モナス島国の王子だった。「花紅柳緑」とは、花が咲き乱れる季節の綺麗な景色と同じくらい、美しい事。また人の手を加えていない自然のままの美しさを意味している。


ユラ・フィラ様にぴったりの称号だ。


伝統的な王族衣装も、称号に合わせて花飾りをふんだんに使っている。しかし、華美な衣装もユラ・フィラ様の美しさの前では、ただの引き立て役同然だった。


そんなユラ・フィラ様は、私が14歳になる月兎の刻997年に、聖教王都学園の特別級で出会う事になる攻略対象者の1人でもある。第一印象はその美しい顔立ちと、何もかも諦めたような暗い目だった。


今見る限り、そんな感じは微塵もない。

正義感に溢れ、優しさもあり、機転が利く利発的な子だという印象を受ける。花の咲いたような笑顔も魅力的だ。


「ユラ・フィラ様。助けていただきありがとうございます」


痛む腕をさすりながら、ユラ・フィラ様にお礼を言った。


ユラ・フィラ様は私を見てにっこり笑った後、騎士に目で合図をしていた。その合図を受けて騎士はどこかへ行ってしまった。

読み終えて「頑張って」や「続きは?」と思った方は、ブックマークや広告下の☆☆☆☆☆☞★~★★★★★にして評価宜しくお願いします。

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