59 暗躍日和、再び①
自室に戻ると、記録の魔法を使って日記帳に綴る。前回死んだ後の出来事から今に至るまで全部、記入していく。もちろん、さっき起きた事も。
――――アラトマは「手遅れ」だと言っていたわ。それはフラグが立った事を意味するはず。そうだとしたら、螺旋階段で私がした行動がフラグを立ててしまったという事かしら? そんな些細な事で……!? う~ん。
腑に落ちないと感じて、私はこの問題を保留にした。
フラグが立った事でエリューの出来事の日に死ぬ運命にあるとしても、それまでの間にまだ拾える情報があるのだと自分自身に言い聞かせる。
記録の魔法で綴っている間、私もまた筆を執った。
アカネイラ先生に大事な事を問うこの手紙もまた、運命の一欠片を握っているのだと思うと書く手が震える。良い言葉が中々見つからなくて、私は何度も手紙を書き直した。
教え子である私が、上級の家庭教師であるアカネイラ先生を欺けるなど簡単にはいかないと思いつつも、私はこの手紙に一種の賭けをした。
「手紙の答えを聞くのが楽しみだわ」
ナイフで指先を切ると、手紙に血を垂らす。思い余って切り過ぎた傷口からは血が勢いよく滴った。血を吸った手紙は紅い手紙花へと姿を変えて、夜の風に流されていく。
その後は暗躍するための準備をした。身体を清潔に洗い、黒装束に身を包み髪をまとめる。制御装置を外し窓を開けると、心地よい風と夜の粒子が舞い込んできた。
ロゼスとの待ち合わせ時間まではまだ時間があったけれど、一足先に教室棟の屋上へ向かった。
「まだロゼスは来ていないみたいね……」
待ち合せ場所の教室棟の屋上で強い風に煽られながら夜空を仰ぐと、手が届きそうな天命を待つ命たちが物言いたげに煌めいていた。
――――ああ、私もあそこにいたんだわ。
感傷に浸りながら目を閉じて、見渡せる目の力を使った。
暗殺を企てる者の声、罠に嵌めようとする者の声。呪いや儀式の音に、溢れ出す憎悪が私の肌を突き刺す感覚は相変わらずだった。それに加え、風の音と私の服が靡く音が聞こえる。
足元の教室棟に注意を向けると、見渡せる目の力は別の音を拾い上げた。教室棟で喚き命乞いする声と聞き覚えのある声に、耳を疑った。
教室棟の窓はどこも割れていない事は確認済みだった。どのようにして声の主、もといロゼスは侵入したのだろうと思うと、すぐに自分の落ち度に気が付いた。ロゼスはアラトマと同じ、瞬間的に移動する事が出来たのだ。
――――急がなくちゃ。
窓を静かに割り中へ入ると、すぐさま中心部から真っ逆さまに落ちていく。地面と衝突する寸前で風をクッションのように使い、物騒な凶器を振り回している男の上に上手く着地した。
「ぐへ……」
潰れた声と同時に男は気を失った。それから私は風でその男を縛り上げた。
「お見事」
ロゼスは笑いながら拍手した。
――――待ち合わせの意味ないじゃない……。
不満気な表情を作ると、ロゼスは「リコリスが来る前に先に片付けようと思って。ごめんね」とさらりと謝った。
視線をロゼスから地面に転がっている男達に向けると、私が片付けた男以外はロゼスにこっぴどくやられ、満身創痍だった。気を失いながらも呻き声を上げている。痛々しい傷からは、手加減された痕跡が見当たらなかった。
――――この男たちの企みをガゼロが聞く前に命が尽きてしまったら、本末転倒だったわ。
そっとロゼスを見る。
「……やり過ぎだと思うかな? でも、僕はそうは思わないよ。この家畜以下の男たちは僕たちの未来を脅かす種であると同時に、帝国の転覆を狙っている罪人でもあるんだ。これでも軽過ぎるくらいの処罰だよ」
私の心を読んだみたいにロゼスは言う。芥屑を見るような視線でその男たちを見下ろしている。そのロゼスの姿に冷酷無比な未来の皇帝の姿を見つけてしまい、急に怖くなった。
「……ロゼス」
「リコリスは心配になるくらい甘いよ……。だから僕みたいな狼に食べられてしまうんだよ、最終的に……」
「……善処するわ」
真面目に返すとロゼスにもっと笑われてしまった。
「いや、そんなリコリスも好きだからこのままで良いよ」
ロゼスは私の頭に軽くキスをした後、着々と準備を進めていった。転がっている男たちに風で作った羽を付ると、ロゼスは彼らの身体を窓ガラスにぶつけて割った。
――――うん、容赦ない。
「ぐ……へ」
教室棟にガラスが割れた音と男たちの断末魔のような声が響き渡る。
ロゼスのやり方はもう暗躍とは言えなかった。誰かに見つかっても、その対処法に困らない程度の実力は持ち合わせているのだろう。それにしても派手なやり方だった。最初から最後まで男たちに手加減しなかった。
ロゼスは男たちの身体を風の羽で浮かせると、割れた窓ガラスから特別寮の方へと運ばせた。最初は適当に扱われる男たちが少し気の毒だと思っていたけれど、ロゼスが作った風の美しい羽を見ていると、次第にどうでも良くなってしまった自分がいる。
「風にこんな使い方があるなんて知らなかったわ」
感心して言うと、ロゼスは私にも風の羽を付けてくれた。男たちの羽が嫌悪に塗れた黒色だったのに対して、私の羽は淡い桜色だった。
つくづく風は心の有り様なのだと思い知る。
ロゼスは自分自身にも黒色の羽を付けると、小光玉の魔法で私たちの周りを照らした。羽ばたく私たちの周りを付かず離れずの距離を保ちながら、小光玉は浮遊する。
割れた窓ガラスを抜けて裏庭に出ると、あっという間に足が地面から離れていった。
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