53 称号の運命と野獣
次で一先ず終わります。
「リコリス。この先お前は、ロゼス以外の誰かを好きになったりする可能性はあるのか?」
その言葉の意味を瞬時に理解出来た。
どうして理解出来たのかは分からないけれど、前から渦巻いていた不安が居場所を見つけて、落ち着いたからだろう。そんな感覚で何となく私は分かってしまった。この未来、ロゼスが死ぬ運命にあるという事を。
もし私の推測が当たっているとしたら、さしずめロゼスに私の事を託されたのかもしれない。
頬を掴んでいるガゼロの手に優しく触れた。
「ねぇ、ガゼロ。貴方、ロゼスに頼まれたのかしら? 死んだら私を頼むって……。そう言えば、アラトマも言っていたわ。ロゼスが手遅れだって」
思った事を正直に話すと、ガゼロは笑った。
「……鋭いな。ロゼスの言う通りだ。あいつはリコリスがそこまで深読みする事を知っていた。お前たちは本当に……邪魔したくなる程仲が良いな」
「ふふ、ロゼスらしいわね。ねぇ、ガゼロ。私はロゼスが死ぬ運命にあるとしたら、それを避ける方法を探すわ。まだ起きていない未来に心を砕くのは、時間の無駄だから」
「ああ、その方が賢明だ」
ガゼロは私の答えに満足したように笑った。
「ロゼスの称号は神にも等しい強い力があるが、制約やリスクも存在する。雑魚曰く、称号が奪われる事があれば、ロゼスの死に直結するらしい。あいつもその事までは知らなかったみてぇだな。もちろん、俺自身も初めて聞いた情報だ」
「完全無欠の王の称号は、莫大な力を得る代わりに感情を希薄にさせ、その者を操り人形のように変えてしまうというリスクがあるわ。それなのに、称号を奪われても死ぬというの? そんな事って……」
――――酷いわ、あんまりよ。称号の存在意義が、全く理解出来ない……。
「称号なんてのは、称号を与えられた本人に恩恵をもたらすのではなく、称号を持つ者の周りの人間に恩恵をもたらす忌々しい産物だな。俺にとっては……」
ガゼロの顔があまりにも悲しそうだったのを見て、私はロゼスだけではない事を悟った。
「……ガゼロ、貴方にもあるのね? そのリスクや制約がロゼスと同等ではないにしても……。貴方にも抱えているものが……」
「……俺の事は、別にいい」
「良くないわ。誤魔化さないで」
仏頂面して言い逃れしようとするガゼロの顔をがっちりと掴むと、ガゼロは大人びた表情をみせた。射貫くような瞳と目が合う。
――――あ、不意打ち。その顔はずるいわ……。
無防備だった心にガゼロは土足で上がり込んでくる。それがちっとも嫌だと思わなくて、むしろ当たり前だと思っている自分にびっくりした。
意識をすると、腹の底から這い上がってくる熱気に体を奪われる。
――――好きだという恋愛感情がなくても、どうして熱は上がるのかしら。自分の手が届かない場所で、こんなにも心が反応しているなんて、あり得ないわ。例え私が主人公でガゼロが攻略対象者だとしても。
「こんなの……。困るわ……」
ずっと押さえ付けていたものが反発して、心を奪おうとしてくるなんて。
ガゼロは私を見ると、意地悪そうに笑った。
「……俺にもまだ可能性があるって事か」
震える手をガゼロに掴まれると、胸の中に抱き留められた。ふと背後から聞き慣れた声がする。
「――――何してるの?」
その声は酷く落ち着いていて、酷く怒っている声だと思った。
「ロゼ……ス……」
私の声を掻き消す程の張った声で、ガゼロは言った。
「ロゼス、お前言ったよな。お前が死んだらリコリスを俺に託す、と。だから俺は、お前から奪う事にした。お前がくたばる事前提で、簡単にリコリスを手放すって言うなら、俺が今リコリスを奪っても良いって事だ。俺はお前の気持ちなんて汲まねぇよ。仮にも残忍酷薄の王の称号の持ち主だ。残酷に奪い尽くしてやる。それに……リコリスも満更じゃなさそうだぜ?」
ガゼロは私の腰をさらに抱き寄せて、ロゼスに対して臨戦態勢をとった。
――――ちょっと待って……。ここまで頑張って積み上げてきたものが、崩れてしまうわ。言わなきゃ、ガゼロに。誤解を解かなきゃいけないのに……。
背中越しから伝わるロゼスの視線が痛くて、何て言えばいいのか分からない。
人間関係は積み上げるまでは時間がかかるのに、崩れ去る時は一瞬だ。恋愛が絡めばそれは尚更。お茶の時間やエリューの事件で築き上げた信頼や好感度が一気に急降下していく。
ガゼロは黒曜石の瞳に一筋の金色を帯びた目をして、ロゼスを見据えていた。
たった今、私の最も望まない形でガゼロの恋愛フラグが完全に立ってしまった。
心はロゼスと共にあったはずなのに、事の真相を深追いし過ぎて、ガゼロの恋愛フラグを綺麗に立ち上げてしまったわ。私が今からやるべき事は、このフラグを折り何とか上手くまとめる事。
それからガゼロを仲間に引き戻さなくてはいけないわね。優しさに付け込んで、しれっと何事もなかったように……。そんな残酷な事を、ガゼロに強いなくてはいけないなんて……。
ロゼスの誤解も解かなくてはいけない。ロゼスの嫉妬心をこれ以上刺激しないように、この場をおさめなくちゃ。ダークサイドに落ちる前に。
私に出来るのかしら、そんな事。
夜はまだまだ終わらなかった。まるでエリューの事件が前菜で、メインディッシュはこれからなのだと言われているようだった。
それでもやるしかないのだと自分を鼓舞する。
「……ガゼロ、やっぱり訂正するよ」
最初に口を開いたのは、意外にもロゼスだった。
「僕があんな気弱な発言をしたから、ガゼロの中の野獣を叩き起こしたみたいだね。後悔してる。ガゼロにリコリスの髪一本でも託そうとしたあの時の自分が、今ではこんなにも憎いよ」
冷たい声が夜の空気に響いていく。
「自覚はあるのか……。今度気弱な発言をしたら、俺はもう遠慮はしない。お前の喉元に噛み付いて殺してやる。称号の力や敵がお前を殺す前に、俺がその命を終わらせてやるよ」
「はは……。うん、分かった。仲間としてその意見、受け入れよう。でも、残念ながらガゼロでも僕には勝てないよ」
「チッ、そういう所が気に食わねぇ……。勝手に死んだら許さないからな。リコリスを一人残して死ぬ事は絶対許さない。称号如きに振り回されるんじゃねぇぞ、いいな!」
「いつから野獣はそんなに優しくなったのかな? 僕の心配までして……。それとも本心は別にあるのか……? どっちにしても、キミが死んだってリコリスは悲しむよ」
「俺は称号や敵に殺られる程、軟弱じゃない。それを理由に仲間を抜ける程、腰抜けでもない。ぺツィート王国の未来も懸かっている」
2人の関係はまるで水と油だった。混ざり合う事はないけれど、それでも妥協点を見つけたように感じられたのは、良い兆候だ。
――――私の杞憂に終わりそう。この場は上手く切り抜けられそうね。
肩の力を抜くと、タイミングを狙ったようにガゼロは顔を近付けてきた。
「そもそも俺は、恋愛感情と自分のやるべき事を切り離して考えてるからな」
ガゼロが一言何かを呟くと、首に圧迫感を感じた。手で触ると、金属質の重厚なチョーカーのような物が首に付いている。外そうとすると、ガチャガチャと音が鳴った。
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