51 ドラゴンと5人の絆②
「どうしたってこんなの……詰みじゃない」
声を絞り出して言うと「そうですね」「そうだねぇ」と言葉が返ってきた。2人は私ほど慌てふためいていないように見える。
「……そもそも、毒をドラゴンに入れた使者とやらを処罰するべきです。何なら私が証拠として提出したいところですが、相手がドラゴンとなると研究すら出来ませんね。代わりに、その使者とやらを釜茹での刑に処し、どのくらいの時間で人間が溶けるのか時間を計りたいくらいですよ」
不気味な笑い声を響かせて、爛諭が毒吐いた。アラトマも負けてはいない。
「なんならもうこのドラゴンの存在を隠してしまえば良いんじゃない? 折角皆寝ているんだし、ドラゴンに手を貸してこっそり埋葬すれば、隠し通せそうだけどね。それから使者全員と幹部を殺してさ」
「アラトマも相当腹黒いですね」
「いやぁ、爛諭には負けるよ」
詰みかけた事態に2人のボルテージは驚く程上がっていく。狂気染みた2人の発言は、慌てふためくステージをすでに越していただけだと気付かされた。
この2人って何だか性根が似ている気がするわ……。
そんな私も2人の事をとやかくは言えなかった。ただでさえロゼスの事が心配で不安定な精神状態なのに、今の“詰んだ”絶望的な状況が追い打ちをかけている。
『ふふ、可笑しいわね。努力が全然報われないんだもの。もう詰んじゃったわ。悪法なんて滅べばいい~。後は野となれ山となれ~』
『あっはは、だよねー。本当悪法だよー、イライラしちゃうなー。ハハッ、殺るか』
『フフッ、確かに面倒ですね。フフ、完全同意です。フフフフフ』
愚痴と笑いが止まらないのは、私だけじゃなかった。
ヤンデレ3人衆の出来上がり――――ではないとだけ言っておくわ。
ただ、確実に変なフラグが1本立った事は間違いなかった。大戦争にも恋愛にも属さない謎のフラグが――――。
そんな不協和音のような笑い声が空気を満たす中、ドラゴンの鼻息が私たちにかかった。ドラゴンも私たちのやり取りに笑っているように見える。アラトマがドラゴンに確認するような視線を合わせた。
「え? うん、分かった」
アラトマの目が真剣になる。
「ドラゴン……。名前をエリューと言うみたいなんだけど、感謝してるってさ。ドラゴン1匹のためにこんなに人間が親身に考えてくれたのは、なんと千年振りだって。それに俺たちの事、良い仲間だって言ってる」
アラトマがドラゴンの気持ちをそう教えてくれた。
――――あれ、どうしてだろう。泣きそうな程、嬉しいわ。攻略を間違えた事もあったけれど、上手く築けた関係もあるのだと認められた気がして……。
小石が跳ねる音がする。
「あ……」
ロゼスとガゼロがいた。
――――ロゼスの様子がおかしい?
ロゼスの瞳は仄暗く、人形のように冷たくなっている。どことなくゲームで見たロゼスに雰囲気が似ていた。隣にいるガゼロの表情もぎこちなくて、いつもの覇気がない。
それに、血生臭い。この2人に何があったかと聞かなくても、2人の服を見れば一目瞭然だった。
「首謀者の命はロゼスのために残しておいたよ。どうだった? 強くて手古摺った?」
アラトマは意味深な笑みを浮かべた。
「いや、全然。ただ胸糞悪ぃ奴だった……」
ロゼスの代わりにガゼロが答えた。
――――ロゼスは何を見ているの? エリュー? もしかして、会話をしているの?
「あー、そう言えばロゼスは出来るんだっけ……」
アラトマは頬を膨らまして不貞腐れた。
「それはどういう意味ですか? アラトマ」
爛諭がそう聞くと、アラトマは渋々説明してくれた。
「ロゼスは今エリューと話してるけど、俺にはロゼスとエリューが何を話しているのか理解出来ない。俺とエリューが話す時は、エリューは人間の言葉を使い、俺のレベルに合わせて話してくれる。でも、ロゼスは古代語を使ってエリューと対等に話しているんだよね」
「まさか……古代語を?」
爛諭の目は驚きのあまり見開いて、それ以上質問する事はなかった。その場にいる誰もが口を閉ざしてそれを見守った。
――――どうしてかしら。ロゼスとエリューが古代語で会話しているだけでドキドキする。まるで一枚絵を見ているようだわ。
最初はそんな光景に見惚れていたけれど、時間が経つにつれて胸に仕舞い込んだ不安が生き物のように動き出して、胸の中を這いずり回る。不安が大きくなっていく。
――――まさかロゼス、1人で背負おうとしているの? そんなの、あ……。
ロゼスが視線を私たちの方へ向けた。
でも、ロゼスとは不思議なくらい視線が合わなかった。私たちの方へ顔は向いているのに、誰とも目が合わない所へ視線は向けられている。
「今、エリューと話し合った。エリューの意志を汲み僕がエリューを尊厳死させようと思う。エリューは毒に負けて精神を消されるくらいなら、俺の手で死ぬ事を望んでいる。人間以外の生き物に自殺という概念はないから、そうする事も出来ないエリューのためにそうしようと思う。それに、ペテロ帝国の法律を他国にも押し付けた事はどう見てもペテロ帝国が悪い。皆を巻き込むわけにはいかないから、僕が罪を背負おう」
――――随分勝手だわ。相談もなしに……。
「……そうやって眠りについたドラゴンは、またすぐに毒のせいで狂暴になり襲いかかってくるんだろ? それもお前が葬るっていうのか? ロゼス」
ガゼロが冷ややかな視線をロゼスに向ける。ロゼスは動じる事なく「そうだ」と答えた。
「ロゼス、私も貴方が背負ったものを一緒に背負うわ」
ロゼスに否定される前に風で剣を作り、自分の意志は固いのだと意思表示する。
私に続く形でアラトマが言った。
「俺にも出来る事あるよ。エリューが眠りにつくまでずっとお話してあげる。退屈しないように。だから、もうそろそろ仲間に入れて欲しいなぁ」
「なら私にも出来る事がありそうですよ。私は痛みがなるべく和らぐように鎮痛剤を用意しましょう」
爛諭もそう言って話に乗っかった。
「……俺はドラゴンの咆哮ってやつを拝みたい。一方的に尊厳死させられるのは、ドラゴンの矜持が許さないんじゃねーの? エリュー!」
ガゼロはにやりと笑い、エリューを挑発した。ロゼスがドラゴンの返事を聞く前に、ドラゴンはガゼロの神炎の鎖を噛み砕いた。
言葉は話せなくても、そのエリューの行動を肯定だと受け取ったガゼロは後方へと下がった。咆哮に備え私も構える。
エリューは尊厳死を望むというよりはむしろ、その死に様を焼き付けるような最後を望んだ。ドラゴンという圧倒的な力を持つ生き物として、人間の心に傷跡を残すような最後を――――。
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