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33 男の嫉妬と悪夢

――――天井? なぜガゼロは天井を見てるの?


ガゼロは低い声で威嚇した後、天井を睨みながらアウラを滾らせた。私には天井を見ている理由がさっぱり分からない。


その直後、大きな地震が起きた。


「あっ」


慌ててしゃがみ込んだ私と違って、ガゼロはずっと天井を見て立ち尽くしている。


机の上に置いてあったガラスのコップが床に落ち、割れた破片が床に散らばって、協和音の良い音が部屋の中に響いた。


――――揺れが止まった? この世界で地震なんて初めてだわ。


「リコリス、お前そろそろ帰れ」


「あ……うん。そうするわ。長い事お邪魔してごめんね」


唐突にそう言われ、返事をする。ガゼロも私の顔をみて説明が足りないと気付いたのか、言葉を足した。


「もう少し話していたかったが……上に住んでるいけ好かねえ奴がさっきからずっと見てきやがる。殺気と嫉妬が見苦しいな、ロゼス」


――――え、ロゼス? じゃあ5階にロゼスの部屋が?


もう一度天井を見た。


――――迂闊だったわ。もしかしたら、ロゼスに会話が筒抜けかもしれない……。


そう思うと、途端に恥ずかしくなった。


ん? いやいや、待って。会話が筒抜けならまだいい。


ロゼスには不信感を与えたくない。誤解もされたくない。そんな気持ちがあるのに、私は大失態を犯してしまったのかもしれない。だって先程ロゼスと別れたばかりなのに、もう別の男の部屋にいるだなんて最悪じゃない。浮ついた女だと思われたくないのに……。


先手を打ち、フラグを折り、大戦争回避する。そん事で頭がいっぱいだった私は、恋愛面においては軽率だった。


長居は無用だわ。


ガゼロに挨拶をしてから、そそくさと部屋を後にした。




特別寮の建物から外へ出ると、ひんやりとした風が身体を撫でた。影の跳躍(シャドウリープ)を使い、少し離れた木の上まで跳躍する。


そのまま帰る事も出来たけれど、どうしても気になる事があった。


「大丈夫かしら……」


特別寮の方角を見た。


私が部屋を去れば、ロゼスはもう干渉しないだろう。王の器の持ち主であるあの2人の事だから、あれ程の事で喧嘩はしないはず。


でも、ガゼロはあの男たちをどうするのかしら? 


それについては想像が全く出来ない。男たちは何を話し、ガゼロはその処分をどうするのか。それ次第では今後の対応も変わってくる。


「上の階でロゼスも見張っているから、流石に殺しはしないわよね」


残忍酷薄の王の称号を持つガゼロだから、少し心配になった。強い称号は莫大な力を与える代わりに、大事なものを奪っていく。


ロゼスと同じようなリスクがガゼロにもきっとあるわ。派手な事にならなければ良いけれど。



散々考えた結果、見渡せる目(オーバーアイ)の力を使う事にした。案の定、眩暈と激しい頭痛に襲われる。


「今日最後だから、堪えて――――」


力は暴走しながらも、色々な音や声を拾っていく。激しい頭痛に意識が吹っ飛びそうになった。それでも特別寮だけを見据えていると、段々と周波数のようなものが正しく調整されていくのが分かる。


安心して身体がふらついた。足が滑る。


木の上から落ちていく中で、私はガゼロとその男の声を聞いた。



「わああ゛…………、やめ…………ぉォ! 」


「第一王子…………の仕業か…………。しかし、妙だな。アイツは…………だから誰かが…………はずだ。それ…………だ? 」


「い、言えま…………たら…………れます。慈悲を…………ぉ」


「どの道お前は…………ぬ。俺に称号の…………なよ? 残忍…………の王の…………は、お前…………屑が大好き…………だ。力を…………たら俺には止め…………ない」


「あが…………、ぎゃあ…………ひっ」


「…………なんだ? この葉の…………は…………」


段々とアンテナがズレたように声を受信出来なくなった。言葉が途切れて分解されていく。


見渡せる目(オーバーアイ)の力が消えると同時に、体中が痛み始めた。木から落ちた直後は割と平気だった痛みも、声に集中する必要がなくなってからは痛みが増した。身体にかなりの衝撃が加わったのだと今更ながらに気付く。


――――痛い。


身体は少しも動かせなかった。眩暈と激しい頭痛、身体中の痛みで、もうすぐ途切れる意識を必死に掴むのが精一杯だ。


――――帰らなくちゃ……いけない……のに……。


指の先に植物の葉が触れると、意識は途切れた。



◇◇ ◇◇



目が覚めると、私の部屋だった。


服装は黒装束のままだったけれど、身体の傷は手当てがしてあった。眩暈も激しい頭痛も、緩和している。枕横には、見覚えのある上品な木の入れ物があった。中を開けると、塗り薬が入っていた。


――――これ、見覚えがあるわ。3年前にユラがくれた塗り薬と同じ……。


蓋を開けると、モナスベリーの甘い香りがふわりと漂う。


「私を運んでくれたのは、ユラ?」


部屋を見渡したけれど、ユラの姿は見つけられなかった。私の手当てをしてすぐに帰ったのかもしれない。


今日中にでもお礼を言い行こう。


微睡まどろみの中でそんな事を思いながら、もう一度眠りについた。





浅い眠りだったからか、おかしな夢を見た。


学園の生徒たちが私を見て何か呟いている。私の耳でもはっきりしない声だった。夢だから仕方ないのかもしれない。夢だと分かっていて見ている、そんな夢だから。


そんな事をぼんやり考えていると、私の周りにいる生徒たちの声はさらに小さくなった。浅い夢は不安定で、何の脈略もなしに移ろいゆく。


――――あれ? 首に葉の模様があるわ。


鼓動が跳ねたように速くなる。私の気持ちなどお構いなしに、葉の模様はそのつるを伸ばし葉を増やしていく。


――――紅く咲いた。


あっという間に大輪の花を咲かせた模様は、合図だった。周りの生徒たちは化け物のような形相をして、私に襲いかかってきた。


逃げても逃げても追いかけて来る。足が縺れて上手く走れないのは、夢だからかもしれない。盛大に転んでしまた。


――――死ぬ。


殺される。この花に……。




「――――お父さま!」


上半身を思い切り起こし、掴むように手を前に出して叫んでいた。呼吸は走り疲れた後のように乱れていたけれど、少し時間を置くと落ち着いた。


カーテンの隙間から旭光きょっこうが射している。朝の訪れを嬉しいと感じるのは初めてかもしれないと思いながら、思い切りカーテンを開けた。

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