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29 悪児(オニ)ごっこ③

そう言えば――――。


ゲームの中のロゼス・エンペストは、感情をほとんど見せなかった。


育った環境のせいもあるかもしれないけれど、一番の原因は“完全無欠の王”の称号を手にしていたからだろう。無口で冷酷な皇子として振る舞っていた。


中でも印象的だったのは、武術学の授業の時に剣で相手を半殺しにするという場面。ゲームの序章にしてはかなり過激な演出だった。血がべったり付いても動じず、無表情で生徒を見下ろすロゼスの一枚絵スチルに、強烈に引き込まれたのを良く覚えている。


完全無欠の王の称号を手にする事で、莫大な力を得たロゼス。感情を希薄にした無口で冷酷な王は、ゲームの世界では私に心を開いてはくれなかった。


でも、今はどうなのだろう。3年前の出来事イベントが上手くいったからなのか、ロゼスと私の距離は近付いている気がするけれど。


ロゼスをじっと見つめると、ロゼスもそれに気付いて私を見た。


「ねぇ、ロゼス。完全無欠の王の称号を手に入れたの?」


「もちろん」


「でも、ロゼスの喜怒哀楽の感情がはっきりと分かるわ。どうして?」


「ああ、それは……。完全無欠の王の称号を手に入れると莫大な力が手に入り、それと引き換えに感情は希薄になると言われているね。場合によっては、精神をやられて操り人形になる事もあるらしい。でも僕は、その原則さえ支配した。人形では世界は変えられない。感情が無ければ、人の心に訴えかける事も出来ないから……」


ロゼスの宝石のような青い目が、強く光った。


――――私が血の滲むような努力をしている間、ロゼスもまた頑張っていたのだわ。約束を守ろうとしてくれただけでも嬉しい。


「ありがとう、ロゼス」


「2人で大戦争を止めると約束したからね。それに、リコリスだって3年間物凄く頑張ったんだよね。さっきの悪児オニごっこで、それが全部分かったよ」


「ロゼスには及ばなかったわ……」


「及んだら困る」


そんな風に言われて顔を見合わせると、私たちは笑い合った。



それからロゼスは、小光玉ライトの魔法をふわりと浮かべた。私の小光玉ライトだけでは不十分な明るさだったけれど、ロゼスのおかげで明るくなった。


ロゼスの綺麗な顔が良く見える。


「続きは歩きながら話そう」


繋いだロゼスの手は冷たくて、私から熱を奪っていく。


「あの……話って?」


沈黙に耐え切れなくて思わず聞いてみた。ロゼスは暫く黙っていたけれど、寮が見えてくると私の目の前で立ち止まった。


「3年前リコリスは、約束を破ったら結婚して責任を取るって言っていたよね。そうじゃなくて、大戦争を止めた先の未来で僕と結婚して欲しい」





あまりに突然過ぎて、喜びよりも疑う気持ちの方が正直大きかった。可愛くない反応だって事は分かってる。


平和な世界で恋愛をして、今度こそ幸せになる事が私の願いなのに。この場では、嬉しいって言葉がなぜか不釣り合いのような気がして何も言えなかった。



――――ああ、そっか。ロゼスの目が深淵のように昏いからだわ。プロポーズを申し込む人の目じゃないもの。


先程まで宝石のように輝いていた青い目が、今では人形のように感情が見えない。




「返事をする前に一つ聞かせて。ロゼス、どうして貴方はそんな目を?」


ロゼスの心に踏み込んで聞くと、ロゼスはいつもの顔に戻った。何でもないという顔は、これ以上聞くなとも読める。


「……返事はいつでもいいよ、分かっているから。大好きだよ、リコリス。君との新しい約束は、僕に生きる力を与えるんだ」


もっともな事を言って、ロゼスは話を終わらせようとしている。


――――私の質問に答える気なんてないんだわ。ロゼスの嘘吐き。今にも泣きそうな顔をしているのに。その“何でもない”顔は“抱え過ぎて困ってる”顔だって、知っているんだからね。



完全無欠の王の称号を手に入れた者よりも、その周りの人間が“利を得る”とアカネイラ先生は言っていた。莫大な力を得る代わりに大きな代償を伴うその称号は、主に政治的利用の目的で使われる事が多い。


感情が希薄になった王は操り人形のように扱いやすいとの事だった。どうやらペテロ帝国は、称号人格に乗っ取られた王の操り方を知っているらしい。


だからロゼスは、その称号に抗い原則を支配しようとしたのだろう。


でも、アカネイラ先生の言葉を借りるなら、『原則を支配しても、またそこから別の原則が生まれる』という事なのよ。いたちごっこの繰り返しで、手に負えない称号だって先生は嘆いてたわ。完全無欠の王の称号に今も必死に抗い続けているのだとしたら……。これがロゼス攻略の鍵かもしれない。



「……私、その日が来るのを待っているわね。約束よ、ロゼス」


「リコリス……。うん、幸せにするよ」


ロゼス、貴方が背負ったものを私も背負うから。だから――――。





背伸びをしてロゼスの頬にキスをする。


悪児オニごっこの報酬です。差し出せるものが思いつかなかったから……」


「じゃあ僕からも」


ロゼスは私の唇にそっとキスを落とした。


そんな……不意打ちだわ。ズルい。


恥ずかしくて俯いていると、ロゼスはさらりと言った。


「男女間の悪児オニごっこでは、勝者は敗者に何でも1つお願いが出来るっていう特別規則があったよね? 通常規則とは別で」


あ、さすがはロゼス「様」だわ。抜かりない。それに、何だか嬉しそう?


「特別規則の方の報酬は、また今度くれる? 今日はもう帰るから、寮でゆっくり休んで」


「う、うん。送ってくれてありがとう。また明日」


話ながら歩いていたからか、気付けば一般女子寮がすぐそこに見えていた。別れの挨拶を手短に済ませて、ロゼスと別れた。


夜空にはいつの間にか“天命を待つ命”が光っている。その光はまるで祝福の光のようだった。

読み終えて「頑張って」や「続きは?」と思った方は、ブックマークや広告下の☆☆☆☆☆☞★~★★★★★にして評価宜しくお願いします。正直な感想に飢えてます。『111回以上婚約破棄されましたが、まだ婚約者の座を死守しています』☞https://ncode.syosetu.com/n1599he/の方も読んで下さると嬉しいです。


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