17 シラー・ペルビアナ号に乗り、いざ学園へ①
勢いよく部屋から出ると、廊下の先にお父さまの姿が見えた。
「……行ってらっしゃい。たまには手紙を寄こしなさい。良いね?」
念を押すようにお父さまはそう言われると、胸が痛んだ。
3年前の出来事の日――――お父さまの裏の顔を見てしまった日から、お父さまとの接触を控えていた。アカネイラ先生の授業で忙しかった事もあり、休みの日も疲れて部屋で休んでいたから、仕方ないと言えば仕方ない。
お父さまの方も、私と積極的に関わろうとはしなかった。遠くから私をそっと見守る姿勢を貫き通していた。
「お父さま、行ってきます。私がいないからといって、無茶な事はやめて下さいね?」
「ほう。無茶とは?」
「お酒を飲み過ぎたり、一晩の過ちを犯したり……?」
「ははっ、そうだな。約束は守ろう」
お父さまと軽く冗談を交わした後、挨拶をして別れた。玄関先では使用人のリーナが待っていた。
「リコリス様。アカネイラ様から手紙を預かっています」
私はリーナから手紙を受け取ると、かばんの中にそれを仕舞った。
「ありがとう、リーナ。行ってくるわね」
普段通りに振舞い、挨拶をして出かける。
ステラ島では移動手段に馬車は使わない。ペテロ帝国の支配下に置かれていてもそれに倣うのではなく、お父さまは島の人々に合わせて地に足を付けて歩く。そんなお父さまの考えを私も受け継いでいる。
「どうかお気をつけて……。リコリス様……レディ」
リーナは私の姿が見えなくなるまで、深々とお辞儀をしていた。
今生の別れでもないのに、リーナがまるでそうであるかのように接するから、私までしんみりとしてしまう。
「まあ仕方ないわね。聖教王都学園には厳しい規則があるし、3年間は島から出られないから……」
慣れ親しんだ緩やかな下り道を抜けて、船に乗る為に港へ向かった。
聖教王都学園がある島は、ステラ島の真下、南の方角にある。
そこはステラ島やモナス島国同様、固有の植物が茂る自然豊かな場所だ。
一度そこへ入学すれば、3年間は出られない監獄のような世界が待っている。卒業するまでの間、家族や親戚が死のうとも葬儀の為に島を出る事は許されていなかった。さらに、如何なる理由でも退学は認められていない。
病死しても、3年間は島から出る事は出来ない。何者かに殺されても然り。死人としてさえ出る事は叶わない。そんな規則に縛られた場所だった。
何千年間と変わらない規則の中で、たった3年を過ごす。
脱走する事も不可能だとアカネイラ先生は言っていたわ。もしそこから逃げ出す事が出来るとしたら、それは「戦争が始まった」時だけとも……。
厄介な規則だとは思うけれど、学園生活の中で得た情報を持ち出されて戦争の道具にされても困るから、規則は理にかなっているのかもしれないわね。
そんな事を考えていると、いつの間にか港へ着いた。聖教王都学園行きの船はすぐに見つかった。
「わあ、無駄に豪華だわ……」
その豪華客船は、真っ赤なボディに黒のラインが引いてあった。所々に金色の装飾が施してあり、機能は最新式の物を搭載。武装に特化しているようだった。
各国が金も口も出して作った豪華客船なのだと一目見て理解った。
アカネイラ先生の授業のおかげだわ、船一つとっても特徴が掴めるのは……。
派手な赤色に黒のラインは、ペツィート王国らしい目立ち方。
金色の装飾は、無駄に着飾って富を主張したがるペテロ帝国の下命。
機能は最新式で武装に特化しているのは、付け入る隙を一切見せないユリネス大公国のやり方。
分析結果は大体そんなところだった。
ロゼス様のような皇族や王族、またそれと同等の身分の人や貴族も乗せるから仕方ない事かもしれない。それにしても仰々しかった。
「あ、ステラ鳥だわ。別れを言いに来たのかしら」
ホロロウと鳴いている声を聞きながら、このステラ島の自然を目に焼き付ける。
戦火のステラ島は見たくないと思いながら、私は船員にパスを見せた。
その船員はパスを確認すると、一方的に話しかけてきた。あまりに気安く身振り手振り話すから、船の案内書だけ貰って少しずつ距離を置いた。
蟹歩きで離れると、案内書を見ながら船に乗り込んだ。
案内書の表紙には「シラー・ペルビアナ号」と船の名前が記載してあった。
案内書を読み進めていくと、挨拶の言葉や船員についての自己紹介、船の見取り図や設計秘話などが丁寧に書かれていた。また、船の完成は各国の協力があったからだと感謝の言葉が述べられている。
案内書の裏面には、立ち寄る港の順番が書かれている。右回り経由と左回り経由に分かれていて、時間や立ち寄る順番も違っていた。
この船は左回り経由の欄にチェックが付けられている。ステラ島を出発した後、他国の港に2つ程立ち寄ってから目的地の島へ行く事が詳細に書かれていた。
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