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11 一日の終わりと忍び寄る影①

第一章の物語はゆっくり単調に進みます。

「――――あ、いけない」


身体の熱が引いた後、お父さまとの約束を思い出した。


ピーロットのお店に行かないと、もうすぐ鐘が4回鳴るわ。

遅れてしまったらお父さまに心配をかけてしまう。


駆け足で心見の森の外へ向かうと、すんなりと森を抜け出る事が出来た。

橋に続く裏道にはもう兵士たちの姿はいなかった。ロゼス様と無事合流して引き上げたのだろう。


――――はぁはぁ、んはぁ、はぁはぁ……。


かかとの少し高い靴で走ったから足が痛いけれど、それでも今は走りたい気分だった。走るのを止めてしまったら、きっとロゼス様の事ばかり考えてしまう。

今日起こった出来事はたくさんあったのに、勝手に頭の中でロゼス様との会話が再生されていく。


それなのに、3年後の事を思うと今度は不安になる。

色恋メーターは放っておくと、両極に針を行ったり来たりしている。恋ってとことん人を駄目にするんだわ。


そんな状態でも、走っている時だけはまだマシだった。11歳の身体はすぐに息が上がってしまうけれど、行ける所まで走った。


鬱蒼とする道を抜けると、行きにも見かけた低い柵がある。その柵を越えて道なりに行くと、モナス島国とステラ島を繋ぐ橋が見えてきた。


未来の障害ハードルもこの位の高さだと良い。

そう願掛けをしながら、軽々と柵を飛び越えた。


橋を渡る頃には、昂っていた気持ちもだいぶ収まっていた。





橋を渡り終えた先にあるこの場所からは、濃淡を使い分けて夜色に染まっていく空がよく見える。鼻先を掠め食指を動かしたのは、夕食ディナーの匂い。

体の汗や熱をステラ島の夜風が優しく拭っていく。それがとても気持ちが良い。夜の空気に包まれた街の中を、上を見ながら歩いた。


「綺麗な星……じゃなかった」


この世界の人々は、これを星とは呼ばないらしい。「天命を待つ命」と呼び、また書物にもそう書かれていた。


死んだ人の命が、新しく「生まれ変わる」か、それとも「舞い戻る」か、天命を待つ間にああやって光っているのだと書いてあった。詩人みたいに考える世界だと感心したけれど、実際はどうなのだろう。


もし、この世界で死んだら――――。その未来さきを考えると、脳裏にお母さまの姿が過ぎった。


「今日は内容の濃い1日だったから、感傷的になっているのだわ」


高揚した気持ちと湿っぽい気持ちが混ざり合っている。


待ち合わせ場所に着くと、そこにはもうお父さまがいた。私に気付いたお父さまが、安堵の表情を浮かべて駆け寄ってくる。


「リコリス。あまりに遅くて心配した」


安堵の表情から一転、眉はつり上がり、口をへの字に曲げて不機嫌そうな表情に変わった。


「お父さま、ごめんなさい」


慌てて謝ると、お父さまはそれ以上追求しなかった。


どこに行っていたのか、誰かと会ったのか、会っていたなら何を話したのか、何をしていたのか。一人娘の様子を聞くテンプレ質問をお父さまならするはず。

けれど、お父さまは何も言わなかった。無言で屋敷のある方向へ歩いていく。


以前のお父さまなら知りたがると思っていたわ。

お母さまが亡くなり心の結び目がきつくなってしまったのだとしても、私を気遣い外に連れ出してくれたのはお父さまだ。


なんだか様子がおかしいと思ってしまうのは、気のせい?


「お父さま、今日は懐かしい場所に行ってきました。どこだと思います?」


お父さまは振り返る事もせずに、黙々と歩き続けている。それでも私は話を続けた。


「昔、お母さまと一緒に行った心見の森に行って……」


努めて明るく話し始めると、お父さまは振り返った。




「あ……ああッ…………」



こんなお父さまの顔を知らない。お父さまにこんな形相が出来るだなんて、信じられない。


――――どうして? 


“心見の森”に反応したのかしら? 

確かにあの森は神秘的で、この世界にとって大切な場所だと思うけれど。


それにしたってこの変わりようは……。


恐怖で身体が動かないのは初めてだわ。


お父さまの真っ直ぐに伸びた背筋はどこにも隙が無く、話しかけられる雰囲気ではなかった。

それでも視線を私から右横下方に向けてくれたおかげで、金縛りが解ける。


あれ、お父さまの首元にある葉の模様、蔓が伸びて大きくなってる? 


その模様を見ていると、頭が鈍器に殴られたように痛み、眩暈がしてくる。

案外、気のせいではないかもしれないわ。



蔓が伸びて葉が増え大きくなったら、花が咲く。花が咲いたらどうなるのかしら――――? そんな疑問にさえ悪寒が走る。身体は警鐘を鳴らすように冷たくなる。

今後、何らかの布石を打つ必要があるのだろうと思った。


「思い出の花2」のゲームが「思い出の花」のゲームの裏で、ひっそりと確実に動いているのが分かる。どうしてか説明する事は難しいけれど、ただただ自分の直感がそう告げている。


お父さまの沈黙は随分と長かった。


私がいつまでも話の続きをしなかったからか、お父さまはまた屋敷の方へと歩き出した。暗闇に靴音を響かせながら、私もその後を追った。

読み終えて「頑張って」や「続きは?」と思った方は、ブックマークや広告下の☆☆☆☆☆☞★~★★★★★にして評価宜しくお願いします。


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