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おうち遊び

「……3、2、1、はい、業務しゅーりょーーう!!」

 最後の「う」を言い終えるのと同時のタイミングで、ボクは自宅からリモート接続している会社端末の接続を切った。

 金曜日の17時。長かった1週間がやっと終わったのだ。これから楽しい楽しい週末タイム! もう月曜日までボクは、1秒たりとも会社と関わりあいになるつもりはなかった。

 ボクは自宅のパソコンの電源も落とすと、さっそくキッチンへと向かう。週末を思う存分楽しむためにも、まずは腹ごしらえをしないとね。

「ええと、今日は何にしようかなっと……」

 こう見えても、ボクは料理が結構好きだったりする。なので、独り暮らしの冷蔵庫と雖も中身はそれなりに充実しているのだ。

 うーん、キャベツがあるからキャベツのペペロンチーノとかも良いけど、ちょっと匂いが付きそうだしなぁ……。今日はちょっと止めておくかな。あ、鶏肉と卵があるから、お手軽な親子丼にしよっと!

 そうと決めたボクは、さっそく米を研いで炊飯器の急速スイッチを入れる。

 さて、ご飯が炊けるまでの間に下ごしらえを済ましちゃおうか。

 冷蔵庫から鶏肉と卵、それと使いかけの玉ねぎを取り出す。

 まずは玉ねぎをくし切りにして、それから鶏肉を一口大に切る。下ごしらえと言うほどでもないね。

 ご飯が炊けるまであと30分近くあるから、その間にシャワーを浴びちゃおう。時間は有効に使わないとね。


 ボクは鼻歌交じりにシャワーを浴びる。とても気分が良いなぁ! 週末というだけでも気分が良いのに、今日は殊更ウキウキするね! これから月曜日の朝までずっと家に籠って趣味を満喫出来ると思うと、それだけで顔が綻んでしまう。 ……まぁ、人に誇れる趣味ではないってところが玉に瑕だけど。……でも別に他人にわかってもらえなくてもいいんだもんね! ボクが楽しめればそれでOK! 蓼食う虫も好きずき! 他の人は関係なし! もう親の干渉もないからこの週末は思いっきり楽しんでやる! 独り暮らしってほんとサイコーだなぁ!!


 身体の隅から隅まで丁寧に洗い、湯船で十分に温まる。しっかりと髪も乾かして、ボクはまたキッチンへと向かった。

 ちょうど良いタイミングで、炊飯器がご飯の炊けたことを告げる。

「よし、じゃあ、仕上げといきますか」

 親子鍋に水とダシ、酒にみりんに、醤油と砂糖を入れて軽く煮立たせる。準備のしてあった玉ねぎと鶏肉を投入。鶏肉が焦げ付かないように玉ねぎを下敷きにすることを忘れずにっと。

 鶏肉が程よく煮えたところで卵を溶いて、回し入れて……。おぉ、色鮮やかなオレンジ色が食欲をそそるね……っとっと、ご飯ご飯!

 ボクは食器棚から丼を取り出し、急いでご飯をよそう。

「やばやば、卵に火が通りすぎちゃう!」

 親子鍋の様子を見ると、卵はちょうど良い感じの半熟状態!

 火を止めて、鍋の中身を揺らすようにして丼の上に盛り付ける。丼から上り立つ湯気と香りにボクのお腹が反応した。

 うん! 我ながら中々良い出来栄え! 本当は三つ葉とかがあると良いんだけどね。でも今回は仕方なしっと。


 完成した親子丼と冷えたビールをダイニングに運び、テレビをつける。

「では、いただきます!」

 プルタブを引き起こすと爽快な音が部屋に響く。この音を聞くだけで喉が渇いて来る。

 ではまず一口……。

「……くぅ! うまい!」

 それほどお酒に強くはないけれど、こういう時のビールは間違いなく美味しい! 誰が何と言おうが美味しい! 今日は特に美味しい気がする!

 どれどれ、親子丼の味は……。

 半熟卵と鶏肉と玉ねぎとご飯を、いい感じの割合になる様にレンゲで掬う。レンゲの上に作り出されたミニ親子丼を、ボクは零さぬようにそのまま一気に頬張った。

「あっつ! ……でも、うまっ!」

 程よい甘じょっぱいさと香りが鼻腔に抜け、半熟卵のフルフル感がボクの舌を包む。

「ほんとうっま! ボクって天才かも!」

 一人そう言いながら、ボクはビールをもう一口飲む。うぅ、もうたまらないなァ!

 

 それから30分くらいかけて、ボクはテレビを見ながらのんびりと親子丼を平らげた。優雅な週末のひとときだ。

 本当は夕飯なんてとっとと終わらせて、趣味の時間へと突入したいのだけど、このわざと自分を焦らして気持ちが高めていく感じも好きなんだよね、へへ。

 さらに30分くらいかけて夕飯の片付けと歯磨きをする。

 ボクは最後にやり残したことが無いかを確認する。うん、大丈夫! 準備万端! これであとは趣味タイムに入るだけ! 月曜の朝まで一歩も外に出ないで楽しみ尽くすぞぉー!


 ボクはウキウキとしながら寝室へと向かう。

 そして、ゆっくりとクローゼットを開けた。


「……やぁ、お待たせ」

 手足を縛られたままクローゼットの中に閉じ込められていた女の子は、ボクを見るなりその顔を恐怖で歪める。顔は涙と鼻水でベチョベチョ。猿ぐつわをされているので彼女が出来ることと言えば唸る事くらいだ。

「……可哀そうに……」

 そんな哀れな彼女を見て、ボクは少し切なくなった。

 でも、ボクはすぐに気を取り直して、彼女に告げる。

「大丈夫だよ。月曜日までは、まだたっぷりと時間はあるから……。

……ふたりでたくさん、おうち遊び、しようね」

 そう言ってボクは、今日一番の笑みを浮かべて見せた。


※この作品は「カクヨム」でも掲載されています。

https://kakuyomu.jp/works/16816452219020310723

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