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「何してるの?」
さっきまで美しい令嬢たちに囲まれていたのに気が付いたらヴィユノークが私と少年の間にいた。
えっ?瞬間移動?っと思わず疑ってしまうほどだ。
さっきまでヴィユノークがいた方を見ると令嬢たちが置き去りにされていた。彼女たちも何が起きたのか全く分かっていないようだ。
「ねぇ。俺の義姉さんに、誰の許可を得て話しかけているの?」
「うぇ、あ、えっと、あの」
びしびしとヴィユノークから殺気が伝わって来る。可哀そうに、少年は青ざめてがたがたと震えている。
「ヴィユノーク、虐めちゃダメよ。君もさっさと行きなさい」
「は、はい」
逃げるように少年は走り去った。
「ちょっと、ヴィユノーク。痛いんだけど」
ヴィユノークはハンカチを取り出したかとおもうと私の手をごしごしと拭きだした。
「どこを触れたの?ちゃんと綺麗にしないとね」
そんなばい菌みたいに扱わなくても。
ヴィユノークってかなり過保護ね。
「どこも触られてないよ」
「本当?」
「本当よ」
「害虫が多いんだから油断しないでね」
あまり人が好きでないのは知っているけど今日はいつも以上に辛辣ね。
二人でそんなことをしていると視線を感じた。
令嬢たちが向ける奇異や嫉妬の視線ではない。何だろうと思って視線の先を探ると第一王子がいた。
彼がこちらを見ている。
「義姉さん」
くいっと顔を掴まれて強制的にヴィユノークの方に向けられた。
「どこを見てるの?俺がいる時は俺を見て」
ヴィユノークが今度は構ってちゃんになった。何だ?情緒不安定なのか?まぁ、フィンスターニス家に貰われて来た時の環境とかフィンスターニス家の環境とか色々複雑だから仕方がないけど。
「はい」
義姉として義弟を安心させなくてはいけないので取り敢えず従うことにした。
ヴィユノークは彼も視線に気づいていたようで第一王子を睨んでいる。
止めなさい。
相手は王族だよ。
幾らフィンスターニス家でも不敬罪で咎められるからね。
「義姉さん、もう帰ろうか。俺たちの役目は終わったでしょう」
まぁ、確かに。王子たちの周囲にいる人間の観察は終わった。実際、彼らが誰を選ぶかはまだ分からないけど。
即決で決めることでもないので気長に見守るしかないだろう。王家の為に余分なのは排除しないといけないけど。それがフィンスターニス家の役目だし。
あぁ、平和な日本が恋しい。
「これ以上はここに居ても意味がないよ。不快なだけだし」
人嫌いのヴィユノークには確かにきついだろう。彼は見た目がかなり良いから黙っていても令嬢たちが群がって来るし。
「そうね、帰りましょうか」