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お茶会には王子が二人来ている。
オレンジの髪に青い目をしたイケメンが第一王子のオーキッド。
恥ずかしそうにオーキッドにしがみ付いている銀髪に青い目をした可愛い子が第二王子のロータス。
王子二人が来たのでまず地位の高い私とヴィユノークが挨拶をする。それが終わると他の人達も挨拶を始めた。
私とヴィユノークがすぐに下がったけど他の人達は何が何でも王子と繋がりを持とうと必死にアピールをしている。
けれどそれは王子だけではなく精巧に作られた人形のように美しい容姿を持ったヴィユノークにも女が群がっていたし、下級貴族の男たちは公爵家であるヴィユノークに取り入ろうと頑張っている。
みんな大変ね。
私は他人事のようにその光景を見ながらふと思った。
乙女ゲーム『ガーネット』ではオーキッドは国王だった。確か王妃様はロータスを生んですぐに亡くなっている。産後の肥立ちが悪くて。
そのせいで母親の死を自分のせいだと思い込んだロータスは今は可愛いけど『ガーネット』ではかなりやんちゃというか素行がかなり悪かった。そこをヒロインが更生させるのだ。
オーキッドは十五歳で即位している。
国王陛下は病死だと『ガーネット』では簡単に説明されていた。
王妃様を深く愛していた陛下は王妃様を失ってから徐々に衰弱はしていた。だからロータスは父の死も自分が原因だと考えるようになるのだ。陛下がロータスを避けていたことがそれをより強く思わせたのだろう。
オーキッドは今年で十五歳。ならば陛下の死はもうすぐそこということか。自分の死を悟って私とロータスの婚約話を持ち上げて来たのかな。
さすがに国の暗部に関わる人間を王妃にはできないからロータスの婚約者にと考えたのだろうけど。
若くして王になる息子の助けになるようにしたかったのかもしれない。
でも『ガーネット』ではフィンスターニス家はオーキッドの後見人を務めている。まぁ、だから『ガーネット』のオルテンシアは学校でやりたい放題だったのかもしれない。
「フィンスターニス嬢」
地味な上、分厚い眼鏡をかけているような令嬢に誰も用はないだろうと隅の方でお茶会の様子を眺めていると声をかけられた。
視線を向けると茶髪に、鼻の頭に雀斑のある少年が知らない間に私の前に来ていた。少し考え事に没頭しすぎたわね。
「何でしょう」
彼は子爵家の子息だったな。
フィンスターニス家の者は毎年更新される貴族名鑑を読んで、暗記させられるので誰がどの家の子でどこの家と血のつながりがあるかまできっちりと覚えているのだ。
オルテンシアは記憶力が良い。『ガーネット』でのオルテンシアの成績は中間ぐらいだったので期待していなかったけどもしかした目立たないように隠していたのかな。てことは私も学校ではそれぐらいの成績になるように調整した方が良さそうだ。
だってオルテンシアの頭なら余裕で首席になれそうだもん。
「少しお話がしたくて。ダメですか?」
「私なんかよりも折角王子が来ているのですからそちらとお近づきになってはいかがですか?」
私がそう言うと少年は少し困った顔をする。
「あちらはちょっと、その、僕のような下級貴族では恐れ多くて」
少年、君の目の前にいる人間は公爵家の人間なんだけどね。王族の次に偉いんだよ。
私の見た目で御しやすいと思ったのかな。ヴィユノークの予言が当たった。
さて、地味で根暗なオルテンシアとしてどう捌こうかな。




