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体調は順調に回復した。
主にヴィユノークが面倒を見てくれた。
父は忙しい合間を縫って会いに来てくれた。前世の記憶が戻ってから初めて会った父に平謝りされたのは驚いた。
私の中には前世の価値観と今世の価値観が存在し、混在している。その折り合いをつけるのに苦労した。ただ、オルテンシアとしての記憶があるのでここでの生活はすぐに馴染めた。
ネットがないのはかなりキツイが恋愛小説が豊富だし。まぁ、良しとしよう。
それよりも私の未来について考えないといけない。
まずは婚約だ。
王家は影の王家とも呼ばれ、常に王家の為に暗躍するフィンスターニス家との絆をできるだけ深く繋ぎとめておきたいと考える。そこで第二王子と私の婚約の話が持ち上がる。
これはあくまで推測だ。
なぜなら乙女ゲームのオルテンシアは婚約していたからだ。
ヒロインが攻略対象者に選ぶ誰かと。だから実際、誰と私が婚約するかは現時点では分かっていない。ただ、第二王子との婚約の話が浮上しているのは知っている。オルテンシアの記憶に父が母とそんな話をしていたのを聞いていたからだ。
「浮かない顔だね。どうかした?まだ具合が悪い?」
私の為にリンゴの皮をむいてくれていたヴィユノークが手を止めて私の顔を覗き込む。かなり近い。
「そうじゃないの。ちょっと嫌なことを思い出しちゃって?」
「嫌なこと?」
ヴィユノークは無表情のまま首だけをこてんと横に傾けた。
「実はね、この前お父様とお母様が話しているのを聞いちゃったんだけど私と第二王子の婚約話が出てるんだって」
「‥…嫌なの?女の子はみんな王子様と婚約できることを望むよ。たとえそれがスペアの第二王子でも」
現在版、ヴィユノークだ。かなり毒舌で容赦がないよね。貴族や王族の二人目の子は確かにスペアという考え方もある。万が一長兄に何かあった場合に備え、長兄と同じことを学ばせるのだ。
でも彼ほどはっきりとスペアと口にはしない。ましてや相手は王族だ。
「関係ないよ。王族でも。地位の高い人と結婚したところで幸せになれる保証なんてないじゃない」
「姉さんは幸せになりたいの?」
「当たり前じゃない。あなたは違うの?」
ヴィユノークは「俺は姉さんが幸せならそれで良い」と即答した。
重症だな。シスコンは。
「私はヴィユノークにも幸せになって欲しいよ。大切な弟だもん」
「・・・・・ありがとう」
あれ?もしかして迷惑だった?
表情は変わらないから分かりにくいけど彼の声質に微妙に不満の色が見えた。
どうしてだろう?」
「婚約のことは心配しなくていいよ。僕から父さんに言っておくから」
「えっ、でも」
「姉さんは良いから休んで。まだ万全じゃないでしょう」
そう言って私はヴィユノークに寝かされてしまった。
仕方がない。ここは大人しく言うことを聞いておこう。実際、本調子じゃないのは事実だし。