触手百合(※タイトルはイメージです)
それは、彼女たちの欲望を満たす。
ぬめりを帯びたそれは、熱を孕んだ液体の中に泳いでいた。
細く、長く、群れを成している。
それが、否応無く彼女たちの口へと誘われた。
「ん、あっ」
「ふあっ」
一本や二本ではなかった。
束と形容しても過言ではない一群が、唇を割って彼女たちの中へと侵入していく。
かすかな生臭さと薬物の匂いが口一杯に広がった。
「んっ、ずっ、んぐっ!」
「ふ、んんっ、ずっ!」
歯を立てて噛み千切ることなど許されない。
そのぬめりを唇へ、舌へ、口蓋へと擦り付けながら、それはさらに奥へと向かう。
喉奥を蹂躙し、食道を押し広げ、胃の腑に至っても尚、己の存在を主張する。
「ふ、は、あっ」
「あ、あっつい!」
最初の一群をなんとか受け入れた彼女たちの額に、玉の汗が浮かび始める。
わずかに白く濁ったぬめりが、彼女たちの唇を汚していた。
それが拭われる間も無く、次の群れが唇を割る。
「んぐ、ずっ、ん! げほっげほっ!」
喉奥を刺激され過ぎたか、一人がむせた。
その勢いに押されて、一筋が鼻腔へと迷い込む。
一瞬姿を見せたそれは、外気を嫌うようにまたずるりと体内へ戻って行った。
「ぐ、んぐっ、んぐっ」
「はあっ、はあっ、ん、ずずっ」
送り込まれる度に、彼女たちの表情は徐々に恍惚としたものへと変わっていく。
液中の群れが全て消え去るまで、蹂躙は続いた。
胃を満たしたそれはやがて姿を変え、彼女たちの身体を変質させるのだ。
「「ごちそうさまでした!」」
空になった丼を返した二人は、開けっ放しの出入口をくぐって外へ出た。
夏の昼下がり、太陽は容赦なく照り付けている。
二人は眩しさに目を細めて息を吐いた。
「あー、お腹おきたー!」
「暑っつー……」
「やっぱり、暑い時には熱い『かけ』よねー」
「いや、それでも今日は温め過ぎた。もうちょっと温めにしとくべきだった」
「あんた、汗っかきだもんねえ。あーほら、拭いたげるからじっとして」
「かたじけない」
「それにしても、いくら噛まないのが通だって一遍に押し込み過ぎ! 何むせて鼻から出してんの」
「え、嘘!?」
「一瞬だけね」
「不覚……」
「大丈夫だって。多分、私しか気付いてないから!」
「……それが一番の問題なのだがな」
「え? 何か言った?」
「……何も言ってない! あ、そんな事よりもだ!」
「何?」
「大なんぞ頼みおって、ダイエット中とか言ってなかったか?」
「う、うどんは別腹!」
「確かにそのうどん腹は触り心地が良いがな」
「ギャー! うどん腹言うなー!」
「身体はうどんでできている。腹はうどんで脳もうどん。うどんはコシが命だが、うどんのせいでおまえの腰にはメリハリが無い」
「あ、あるわよ! ちゃんと!」
「……」
「何で黙るのよ!?」
「さ、バカは程ほどにして帰ろう?」
「私が始めたんじゃないよ、もー」
「お手をどうぞ、お嬢様」
「も、もう!」
伸ばされた腕に腕を絡め、ついでに指と指が絡み合う。
濃紺のプリーツスカートを翻して、二人は来た道を戻り始めた。
もうじき昼休みも終わる。
※タイトルはイメージです。感想には個人差があります。
以下、県外の方向けの注釈。
注1)生臭さと薬物
イリコだしにショウガは鉄板。
注2)お腹おきた
讃岐弁で、満腹になったの意。
注3)今日は温め過ぎた
自分でザルにうどんを入れて湯通しする店です。好みの温度にできます。
注4)噛まないのが通
「うどんは喉越し、噛むのは邪道」と熱烈に主張する一派がいます。
注5)うどんは別腹
甘い物も別腹。カロリーがががが。
注6)うどんはコシが命
喉越し一派と対立しそうですが、口舌喉の全てを使ってコシも味わうので対立しません。
注7)脳もうどん
「うどん脳」(正しくは「ツルきゃらうどん脳」)という謎のマスコットキャラが存在します。「ゆるキャラ」ではなく「ツルきゃら」らしいです。