目醒め
人は何故死ぬのか……。それに対する答えはきっと人それぞれで、考えれば考える程哲学的な答えに辿り着くに違いない。なので、深くは考えず簡単に理由を上げ連ねるなら寿命だったり事故死や病死だったり。或いは誰かに殺されたり物語の中には神様や閻魔さまの手違いで死んでしまうなんて事もあるらしい。
俺の場合も多分この何れかに当たるんじゃ無いだろうか?死んだ事は覚えている。確かに身体が重くなり冷えていき、意識が深い沼にズブズブと沈んでいく不快感。アレは間違いなく死の感覚だろうと直感できる。
そう、間違いなく死んだはずなのだが、私は生きている。正確には俺から私に生まれ変わった……。俗に言う転生だとかいうやつだ。俺の名前は山本優|そして私の名前はエイル・コンシオン。コンシオン子爵家の三男である。
そして爵位待ちともなれば10歳の私には様々なお勉強があるわけで……
「エイル様私の座学中それもテスト中にぼーっとするとはどういう事ですか?」
「ぼーっと何てして無いさ。ただ違う事を考えていただけさ」
一般教養や武術体術魔術テーブルマナーにダンス。それなりに忙しく私のスケジュールは管理されている。私の中に俺の記憶が蘇ってから数日だが、記憶の整理が出来ていないのも過密なスケジュールの弊害だろう。
「なるほど。つまり私の授業など受ける必要が無いと?貴方はコンシオン家の三男なのですよ?もう少し自覚を持って頂かなければ困ります!」
「とは言ってもね私は三男なんだよ?兄様たちは2人ともとても優秀だし姉様も良い縁談が決まりそうだとか。リフも私より優秀で……正直私は万が一の予備なんだよ。そりゃやる気も削がれるってもんさ」渋々テスト用紙にペンを走らせながら2人の兄について考える。
上の兄ウィル兄様は大体のことは出来るし頭の回転も速い。料理が絶望的に下手糞な事を除けば理想の兄だ。下の兄のアルティ兄様はウィル兄様大好きのブラコンだけど、ウィル兄様並に下手をしたらそれ以上に人心掌握術が優れている。あの2人が居ればまずコンシオン家は安泰だろう。
「ウィル様もアルティ様も確かに優秀ですがエイル様より優れているとは思いませんが?コンシオン家もエイル様が継がれるのが宜しいかと」
「専属教育係からのリップサービスとして受け取っておくよ。私は座学より体を動かす方が合ってるからね。お堅い仕事は兄様達に任せておくよ」
おっと、この問題は引っ掛けだな。問題の焦点がずらされているし、危うく引っかかる所だった。
「可愛げのない方ですね。ウィル様もアルティ様も少し煽てればコロッとやる気を出して下さったのですがね……」
やれやれと首を振る私の専属教育係もといレリィー
・ドクトゥーレ。5〜6年位前から座学を中心に様々な事を学んでいる。
「そんな事言ってると御父様に言いつけるよ?それよりはい。これ採点よろしく」
一応全て埋められたけどどんなものだろ?8〜9割は解けてると思うけど。
「……よくお喋りをされながらこの問題を解けますね。適当な解答だったら次回は倍の時間を座学にしますよ?ひとまず採点しますので本日の座学はここまでとします。では失礼致します」
テキストに軽く目を通して回答欄が埋まってるのを確認してレリィーは終業を告げる。
不意に空いた時間で再び思想に耽る。
何故人は死ぬのか?
何故私には死ぬ前の記憶が蘇ったのか?
何故俺の人格が目覚めたのか?
答えを出すには余りにも手掛かりの少ない難問である。