一条と彩川、二人の美少女。
ブックマークありがとうございます。
なんにも決まってませんので、こういう展開が見たいとかあったらどんどん言ってください!
なるべく取り入れますので!
本当に来やがった。
「先生、ここ分かりませんー。教えてくださ―い……」
半泣きでそう俺に言ってくる彩川が居る横で、
「先生、シルバーマンは、主人公の親友役の俳優が変わっているの、分かりましたよね? なんか前作までと違って真面目そうなキャラになっちゃいましたが、彼はいい味出してるんですよ。彼は本当に心底いい人で、どんな時でも主人公に味方してくれて……」
と、マシンガンのように言葉を繰り出す一条の姿。
なんだこの絵面。
教室に、我が校が誇る二人の美少女生徒と俺だけというのは、外から眺めれば天国なのだろうが、こっちは仕事だ。
しかも一人には脅されてるし、一人にはあんまり関わりたくないし。
勘弁して欲しい。
「あー……とりあえず落ち着いてくれ、二人共。あのな、一条。今の時間はあくまで彩川への補修の時間なんだ。分かるか? お前は今、俺の仕事の邪魔を――」
と、とりあえず後で話を聞くからとごまかそうとしたのだが……
「私、一条さんがそんなに喋るの、初めて見た……」
しかし俺のそれは彩川にあっさりと介入されて終わる。
俺、立場弱いなあ、おい……俺、一応三十代男性で、一回り君たちより年上なんですけど? 俺、君たちの担任で内申点とか俺の自由に決められるんですけど?
「……別に、教室で喋る必要性が無かったから」
この、SNSで人と人との繋がりを自慢するのが全盛の時代に、孤高とも取れる発言は、流石一条としか言いようがない。
「えーなんでー? ……っていうか、授業中に喋る声より、今の声の方が可愛いね!」
「……どうも」
一条は褒められたのを照れてるのか否か、先程までは向き合っていたのに、急に顔を逸らした。
なんだお前、かわいいなおい。
「というかせんせー。なんで一条さんとそんなに仲良さげなんですかー? 昨日までは普通だったと思いますけど」
「うん? ああ、まぁ色々あったんだよ、色々」
適当に誤魔化す。事情を説明するのが面倒くさいし、一条の口から俺のラノベの情報を言われるのも嫌だし。
「色々って、なんですか。私、気になります!」
「色々だよ、色々。それより彩川、どこがわからないんだ?」
「あ、えっとーその。まずこの感じの読み方が分かりません……ひでとし? 人の名前……?」
「――英俊。それはえいしゅんと読むの。特に優れた人という意味よ」
俺が教えようとしたら、一条が彩川に教えた。
「え? そうなのせんせー!?」
「ああ、そうだ。高校生が知ってる言葉ではない気もするが……良く知ってるな、一条」
「まぁ、読書や映画鑑賞をしていれば分かります」
「一条さんすごいねー! 本読めるんだー! あたし、漫画本の読み方も分からないのに!」
「……えぇ……」
一条が彩川にすごい顔を向ける。幻滅というか……ドン引きしていた。そんな未開の部族と初めて接した現代人みたいな顔をするな、一条。
「いや、別に漫画くらい読めるでしょう、彩川さん?」
「えー無理。だって、漢字多いし、コマ? があるじゃん? あれもどこからどう読めばいいのか良くわからないし」
「そ、そう……」
またもドン引きする一条。引いてやるなよ……。
「でも、意外だなー。一条さんって、オタク? なんだー。あたし、趣味はカラオケくらいしかないから、そんなに熱中出来るものがあるの、羨ましいなあ」
あ、なんかやばそうなフレーズだぞ、彩川、それは。
俺は気付いたが、時既に遅しだった。
「オタク……オタク、ね。そもそも何を持ってオタクと定義するべきなのか、良く分からないわ……例えば年に100本くらい映画を見たら映画オタクって感じかも知れないけど……でも3日に1本ってよっぽど記憶力がないと、どんな映画でもせいぜい覚えてるのはあらすじとよっぽど印象に残る場面だけでしょう? それに違うパターンで言えば、同じ映画を10回見て、モブのセリフまで丸々覚えてるとかでも、それはそれでオタクと言えるんじゃないかしら? それに私個人の感覚で言えばそっちの方がなんかオタクって感じがするわ。あくまで私個人の感覚だけどね。まぁ私はシルバーマン1は20回は見たけれど、まだ大した事ないと思うわ」
と、そこまで一息で言い切った一条は、今度は俺と彩川が引いてる事に気付いて、顔を赤くする。
「ご、ごめんなさい、先生。彩川さん。つい熱くなってしまいました」
頭を下げて謝ってくる。
俺もつい、引いてしまったが、しかしその熱は大切にしたい。
大切にしてあげたかった。何故なら俺も昔――いや、今はこの話はいい。
「いいよ、一条。謝るなよ。その熱、俺は好きだな」
だから、俺が今やるのは、俺がやるべきことは、一条の肯定だ。
「う、うん。そうだよ。私、一条さんが、そんなに熱い人だなんて、知らなかったもん! ほんとに熱い人って感じで、私も好き!」
彩川も良いやつなのか、そんな一条を否定しない。
「……ありがとうございます、先生、彩川さん」
一条はまだ照れくさいのか、顔を赤くしていたが、でも晴れやかな顔をしていた。
そうだ、それがいい。
それでいい。
「でも、一条さん。そのシルバーマンってそんなに面白いの?」
彩川は本当に気になったのか、一条にそう聞く。
一条は、さっきの早口を反省したのか。
「……ええ、とっても」
と短く返事をするだけだ。しかし、その実、随分と語りたがっているように見える。
「今度、一緒に見ればいいんじゃないか? 二人で」
なので、俺が提案してみた。
「……え」
「……いや、それは……」
しかし微妙な空気が流れる。
なんだよこの空気。
十代の女の子なんて、一緒の空間に居て適当に何か話してれば、勝手に仲良くなるもんじゃなかったのか? いや、知らんけど。
その微妙な空気のまま、数十秒の沈黙が流れ……
「……先生、一緒に見てくれませんか?」
と、急にすごい事を言いだした。
「……なんで俺が?」
「提案したのは先生でしょう。言い出しっぺの法則ですよ」
「そうそう。せんせー、大人でしょ? せんせーに場所とか用意して欲しいです! 視聴覚室とか借りて欲しい! 家で見ててもスマホとか見ちゃって集中出来ないから、そういう集中出来る環境作ってください!」
……マジか。
マジか―。
「せんせー、お願い! お願いお願い!」
うっ、クソ。彩川め。俺の袖を掴んで、うるうるした目で見てきやがって。
しかも体揺らして、甘えた感じだから、破壊力が抜群だ。見ないように見ないようにしてきた彩川の胸も、不可抗力で揺れてるのが分かる。分かってしまう。つまりは見てしまう。
もうちょっと彩川は自分の体の事を把握しておいて欲しい、頼むから。
しかも俺が胸を見たのを見たのか、一条が俺の事を微妙に睨んで来てるし。何だよ。お前のスレンダーな体も魅力的だ、とか言ってやればいいのか? そんな事言った瞬間に学校クビになるから絶対言わないけど。
「……わかった、わかったから。借りてやるから。それで、お前らいつが空いてるんだ。部活は……お前らやってないのは知ってるけど、バイトは?」
「やってないでーす。カラオケが好きなので、カラオケ店員になろうかなと思いましたけど、親に止められました。酔っぱらいに絡まれたらどうするって」
「私もやっていません」
「なるほど。じゃあ、いつでもいいのか?」
「はい」
「いつでもだいじょーぶです!」
「分かった。なる早で視聴覚室の予約取れたら連絡するよ」
とは言っても放課後なら基本的に空いてる気もするがな。うちの学校には漫研やら映画研究会やらもないし。
「……というか、一条、お前いい加減に帰れ。俺は彩川に補修しなきゃならんのだ」
「……はい。わかりました」
俺がそう言うと、一条も今度大好きなシルバーマンを大きな視聴覚室の画面で見られるとあってか、上機嫌なまま、帰っていった。
●
そうして、残されたのは俺と彩川。
「さて、それじゃあ補修再開だ、彩川」
「はーい……っていうかせんせー」
「なんだ?」
「せ、せんせーと一条さんって付き合ってるんですか?」
「ぶふぉ」
急にぶっこんできた彩川に、俺は変な声が出てしまった。
いきなり何言い出すんだ、こいつは。
「何を言うんだ彩川、お前」
「だ、だって、昨日までは普通だったのに、急になんか仲良しな感じじゃないですか、だから、付き合ってるのかなーって」
顔を赤くしながらそう聞いてくる。なんだよ、お前が照れんのかい。
「んな訳あるかっ! 俺と一条が、付き合える訳ないだろ。先生と生徒だぞ俺たちは。特に一条みたいな美人が、俺みたいな冴えない男に興味持つ訳ないだろ」
俺が必死に言うと、彩川はやっと納得したようだ。
「そ、そうなんですね。結構お似合いな感じですけど……だったら、いいです」
と、彩川は安心したような笑みを浮かべたあと、しかしまた不安そうな顔になって……
「でも、それじゃあ先生って彼女さんいないんですか?」
と、聞いてきた。
「……大人をからかうんじゃない。というかそれ、逆セクハラだぞ」
勿論、彼女なんかいないけどな。
「あうっ。しゅ、しゅみません……えへへ、よかった……」
俺がちょっと咎めると、彩川はわかりやすくシュンと落ち込む。
……可愛い奴だな。そうやってわかりやすいところが。最後、何言ってるかは良くわからなかったけど。
「ほれ、次の感じ読み取り問題やれ」と促せば、「はーい……」とまた素直に頷く。
この素直な感じは、きっと社会に出ても可愛がられるだろう。彩川の将来は、きっと明るいに違いない。
「……せんせー、これなんて読むの? はいじる……?」
「だし、な……」
頭の方がちょっとだけ、心配だけども。