7話馴染みはじめる霊気
交番の掲示板でポスターを見た廻理は、その後少しジョギングを行い公園に来ていた。
「この場所であのおっさんが喰われたんだよな…もしかしたら俺も喰われてたかもだけど」
かなりのピンチを師匠に助けられて、霊断士になるための修行を始めて…
なんだか流されている気がしないでもないが自分で決めたんだもんなと思った。
ここで廻理は思いついたことがあり、口に出してみる。
「なあ師匠、いるんだろう?出てきてくださいよ、聞きたいことがあるんです」
すると師匠が現れる。
「ほぉ、私が付いて来てることに気づいていたか…少々お前見くびっていたかもしれない。それで聞きたいこととは?」
どこか嬉しそうにしている。廻理は、なんとなく師匠がいるんじゃないかと思って呼んでみただけでいなかったら恥ずかしかったな…と思った。
「師匠、霊異の被害って一般人にも及びますよね?実際に一般人が霊異に殺された時とかはそれを揉み消したりするんですか?」
「そうだね…死んだ時の状態にもよるんだが、今回の場合は死体も何も残っていないから行方不明ということになった。だが、もし死体がかなり綺麗な状態で残っていた時は事故に見せかけたりすることもあるな」
確かにおっさんは行方不明になっていた。師匠の説明についてとても納得できた。
「そうなんですね、説明ありがとうございます。でもそんなことになった時に遺族とかを見るのは辛いですね…」
真相を知らない遺族とそれを知る霊断士、苦しむことが多いだろう。
「その通りだ。伝えて信じてもらえる内容ではないからな。時々、その辛さに耐えられなくなる霊断士も出てくる」
そんな辛さもあるのだな…廻理はこれから自分がそのような険しい道を乗り越えていかなければならないことを想像する。
「そういえば、俺は明日には実家に帰らないとなんですよ…修行とかどうしたら良いんですか?」
「そういえばそうだったな、心配することはない。私がどんなことをするかメモをまとめて来ているからな」
と言いながら師匠はメモ帳を手渡してくる。
「なるほど、ありがとうございます」
「私が見てないからと修行をサボるなよ?時々、君の故郷に様子を見る行くからな。サボっていたなら地獄を見せてやる」
ヒィ、怖いよ師匠。実はこの人がラスボスとかじゃないよな。
「明日帰るのなら今日は休んだ方がいい、寝坊しては大変だからね」
「わかりました!また、お会いしましょう師匠。その時までに、さらに力をつけていられるように頑張ります」
と言い今後廻理が住むことになる街で出会った命の恩人に一旦の別れを告げるのだった。
翌日飛行機に数時間ゆられ廻理は、故郷である夜島に帰ってきた。
「ようやく着いたな、なんだか長い旅から帰ってきたような気分だ…」
そう思うくらい廻理にとってこの数日間は深いものとなっていた。
空港からは、バスに乗ってのんびりと家に向かう。利用者はほとんどいないため貸切のような状態だ。
そしてついに家に帰り着くことができた。
「ばあちゃん、ただいま!」
元気良く扉を開けてただいまの挨拶をする。
「おや、帰ってきたかい。おかえりなさい廻理、受験頑張ったねぇ」
玄関に祖母が歩いてくる。70歳を超えているのだが、その足取りは軽く背筋もしっかりと伸びている。昔はさぞ美人だったのだろうという面影が感じられる。事実、写真で見た昔の祖母は美人だ。
「お父さんとお母さんにも挨拶しておいで」
「うん!」
廻理は、両親の遺影に手を合わせて受験を頑張れたことを感謝する。写真の両親は笑っており勉強を頑張ったことを褒めてくれているように見える。
祖母と昼食を食べた後、廻理は部屋でゴロゴロしていた。
修行のいつ行うかについて考えていた。
「うーん、ばあちゃんには体力作りって言うとして時間は夕方とかがいいか…さすがに夜に外に出ると怪しまれるからなぁ」
祖母は、そこそこ勘の鋭い人である。油断はできない気がする。
「それじゃあ、どんなことをしたら良いか師匠の作ったメモ帳で確認するとするか」
と言いながらメモ帳の1ページ目を開く。そのページには、大きな字ではっきりと書かれていた。
『走れ!』
「雑だなおい!」
詳しく色々な情報が書いてあることを期待してたのに結果は走れのみである。師匠らしいとは思ったが…
「まぁ、しょうがない。まずは体力が大事って言ってたからな。ひたすら走るとしようか」
ジャージに着替えて、外に出ようとする。
「おや、出かけるのかい?廻理」
「うん!受験期間で体力落ちたから走ってこようかなって」
「そうかい、気をつけて行くんだよ」
と声が返ってくる。体力作りであることに間違いはないからな嘘はついてない。
走ってみると色々な景色が楽しめるために中々良いものだと思った。
家から少し離れた所にある川で休憩をする。
「そういえば、師匠は川の水を拳で人が通れる大きさに吹き飛ばしたよな」
廻理も師匠を真似て拳に力を集中させるイメージを持って拳を突き出すが川に変化はない。
「まぁ俺にはまだ出来るはずもないよな。腕に霊気を纏わせるのにもどれだけ時間がかかるやら」
と笑いながらランニングを再開する。
この時、廻理の指先に少しだけ霊気が集まっていたことに気づくことはなかった。無自覚ではあるが廻理は、本当に少しずつ霊気が身体に馴染んできていたのだった。
本人がそれに気づくのはもう少し先になりそうだ。彼は、今はただひたすらに体力をつけることに集中して走るのだった。