32話今この瞬間を…
本日、スマホのようなユニークスキルで異世界を生きる
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巫女の服を着た少女……名前は春神叶絵。
彼女が抱えているのは、同じく巫女の服を着た女性だった。
「治って!お願いだから治って!」
叶絵が必死に女性の傷を治そうとするが、それは叶わない。
「もう良いのよ、叶絵。それよりもお願いしたいことがあるの……」
「絵理さん……死なないで…」
叶絵の頬には涙が伝う。
「……お願い、絶対に復讐なんて考えないで。あいつには、夫も私も勝てなかった……」
女性の目からも涙が流れている。近くにある夫の亡骸に目を向けていた。
「私は、あいつを許したりしない。あの霊異を、それに裏切り者も…」
「お願いだから、戦わないで……あなたは幸せになって……そして大切なものを見つけてね」
彼女の命は後わずか、それは誰にでもわかることだった。
「幸せなんていらない。2人が居なくなったら私は……」
「きっと、あなたなら幸せを見つけられる……だがら、太陽の武型を……使ったら駄目だからね。あなたでは使いこなせない……」
女性は、叶絵の頬に手を当てて懇願する。
「私が足手まといにならなければ……私さえ…」
「叶絵、そんなこと…言ったらいけない…。あなたが無事で私はとても嬉しいんだから。さっきからお願いばかりでごめんね。……あの子のこともよろしくね」
徐々に絵理の目の焦点が合わなくなっていくのがわかる。
「待って、絵理さん!」
「ご……めん…ね、…叶絵。ごめ……ん…ね、か……」
最後まで言い終わることなく、絵理の瞳が閉じられる。
「あ、ああ、あぁぁぁぁぁぁぁ。絵理……さん、うわぁぁぁぁあぁぁあ!」
叶絵の瞳からはこれまでに出したことがない量の涙が出てくる。
「夢か……10年以上も前なのにな。どうやっても忘れることはできないな」
睡眠から目を覚ました叶絵は、自分の汗に驚く。うなされてしまっていたのだろう。
大切な人を失う瞬間とは、いつまで経っても忘れられないものだ。それは叶絵程の実力者であっても関係ない。
「未だに、あの霊異の居場所はわからない。だが、この前遭遇した裏切り者……奴が出てきたことは何かのきっかけになるはずだ」
素早く着替えを済ませた叶絵は、外に出る。眷属と呼ばれようとも鍛えるのは大切だ。
「あ、おはようございます!師匠」
朝のかなり早い時間だ。だが、弟子である廻理は、すでに起きて修行をしていた。
「早いな、廻理。君なら未だに布団の中、夢の中だと思っていた」
叶絵は、少し驚きつつ言う。
「なんでか、目が覚めたんですよね。それに、もう助けられるばかりは嫌だから」
弟子の真っ直ぐな視線は、かつて見た大切な人を思い出すようなものだった。
「ふふ、1人での修行もつまらないだろう?私も付き合ってやろう」
「ええー、師匠とかぁ……やるしかないか!お願いします!」
若干嫌そうな顔をしながらも廻理が答えてくる。
「早速いくぞ?気合を入れてかかれよ!」
と言い叶絵が廻理の方に向かう。
絵理さん、見てますか?
私はあなたの願いを破ってきた。だけど一つだけは言える。今、私は本当に大切なものを見つけた。今、この瞬間がとても大切だと思える。
相変わらず、師匠にはコテンパにされる。
なんでも師匠は、風の眷属とか言われる凄い人らしい。
「あなた、知らなかったの?」
と真輪に言われてしまった。
眷属の弟子というのは、とても誇らしいものだと思うが、やはり修行は、とても厳しい。
「動きが止まって見えるぞ!」
と言われ、師匠にパンチをもらう。
「グハァ!」
地面に大の字に倒れながら、俺もそんなセリフを言ってみたいわと思わずにはいられない。
「そういえば廻理、ここを経つ準備は出来ているのか?」
「まぁ元々荷物なんてないようなものだからいつでも大丈夫ですよ」
真輪に回復してもらい、立ち上がりながら廻理は師匠に答える。
学校もあるため、住んでいる場所に戻らなければならないのだ。
休みすぎると誤魔化しが大変になるため、出来るだけ避けたいものだ。
「真輪ともそろそろお別れかぁ」
と廻理が呟く。試験で組んでいただけで、後から巫女は派遣される。そのため、ここで真輪とはお別れになるのだ。
師匠が言うには、真輪の巫女の腕はかなり優れており、活躍間違いなしとのことだ。
「案外、すぐに会うこともあるかもしれないわ。その時は、よろしくね」
と真輪が言う。
お互いに死と隣り合わせの戦いをすることになる。今日会った者と明日無事に会えるかはわからないのだ。
だが廻理は、確信していた。きっと真輪とも無事に再会出来るだろうと。
試験が終わり、元の日常がやってくる。
学校で担任の咲季の話を聞き流しながら、後ろの席でボーッとする。大変だったし、これくらいは許してくれるだろう。
特に教室で変わった様子はない。廻理の席の後ろに机と椅子が一つ置かれたくらいだ。
前の席の悠も元気そうだった。休みでどうしてたんだ?と聞かれたので、事前に用意した言い訳を言ったら信じてくれた。悠の説得はかなり楽なものだ。
「皆さん、お気づきとは思いますが、後ろに机が置かれてますね。実は、今日からこのクラスに1人仲間が加わります!」
突然の転校生が来ると言う展開に廻理は、驚く。
前の席の悠は、大興奮だ。
「おいおい、廻理!転校生だってよ。どんな子だろうか?」
「さあね。男子か女子かもわからないからなんともね…」
と廻理が言ってると、教室に確実に知っている女子が入ってくる。服装は、廻理が知っている巫女の服ではなく、制服だ。
凛とした彼女を見て、教室が静まり返る。
「初めまして、朝道真輪と言います。両親の仕事の関係でこの街に引っ越してきました。これからよろしくお願いします!」
と言い廻理の方に視線を向ける。そして微笑んだ。
前の席では、悠がこっちを見たぞと喜んでいたが廻理は、スルーする。
とんでもなく早い再会だなと廻理は、笑ってしまうのだった。




