28話どうやってでも
霊異の男によって突き出された。拳によってドンっと音が鳴り砂煙を巻き上げる。
「廻理ーーーーー!」
真輪が大声で叫んだ。目からは涙さえ溢れる。
砂埃が晴れれば見えるのは、廻理の死体だろう。そしてその後は、全員で廻理の後を追うことになる。
「よくも廻理君を…許さない、あの野郎!」
普段、気弱な夕に怒りが湧き上がっていた。
「ええ、許せない…」
奈々も武器を構える。
そして砂埃が晴れる……みんなが一様に廻理の死体を見ることを覚悟した。だがその中で見えたのは……
上級の霊異を投げ飛ばした廻理の姿だった!
拳が頭に当たるまで数秒前……
わざと戦意喪失した振りをしたが、うまくいったようだ。大根役者だったらどうしようかと不安だったが、騙せている。
頭の中で、過去のことを思い出す。走馬灯のようにも感じられる。たしかに目の前に来る拳は当たれば死なのだから。
「廻理、ある事を教える。私らしくない教えかもしれないと思うがな」
修行を行なっていたある日、師匠に言われた。
「これから先、どんな敵に会うかわからない。コテンパンにやられることもあるだろう。だがな絶対に諦めるなよ。どんなに意地汚くても生きろ!ズルくて良い、相手を騙しても良い。潔く死のうとは思うなよ」
そう師匠は言った。
そう、ならどんな手を使ってでも俺は、上級の霊異であるこの男に勝たなければならない。
攻撃が確実に決まると思った時に、隙は生まれる。相手の動きを読むことも出来る。霊異の男の攻撃は、避けられない速度ではない。
「はぁぁぁぁぁぁ!」
廻理は、男の拳を避け、そしてその腕を掴み取り背負い投げする。師匠に教えられた体術だ。
ドンっと音が鳴った後、男が倒れる。
「こいつ、まだ戦う気力が!」
投げられた男は驚く。
廻理は、距離を取りながらはっきりとした声で言う。
「武器に頼ってるようじゃ三流だよ。自分の身体でどうにか出来なければならない」
その姿はあの日の師匠春神叶絵と同じもの。廻理は、決して諦めてなどいない。
「廻理!あなた、生きて…」
真輪は、嬉しかった。パートナーは生きておりまだ、諦めてなどいないことが。
「廻理…本当に凄い人と巡り合えたものね」
「うん、僕も良い人に会えたと思うよ」
奈々の言葉に夕も同意する。
「「なら、自分も覚悟を決めなければ」」
2人も武器を構えなおす。
今ならやれる気がする……折れた刀を構え、霊気を集中してかき集める。
「そんな武器で来るのか。私をどこまでも馬鹿にしたいようだね」
「何とでも言ってくれ……風の武型、神風の逆鱗!」
廻理の目が緑に光る。
気がつくと廻理には、風が纏われていた。この土壇場で成功させたのだ。
「まさか…そんなことが、あるわけがない…。まだ子供が!武型の技を」
男は驚いた。それだけのことを廻理は、やってのけたのだ。
「来いよ!霊異」
廻理は、折れた刀を前に向けて構え言う。
「死に損ないガァァァ」
男が廻理に向かって、突撃してくる。
一撃でももらえば危ないであろう攻撃を廻理は、ひたすら回避する。武型の技によってどうにか動けているのだ。
「はぁぁぁぁぁぁ!」
隙を見つけた時は、風で攻撃を加え少しでもダメージを与える。
「私達も祈りを!」
真輪が未怜と星羅に声をかけて構える。少しでも今戦っている廻理の力になることをするのだ。
「ええ!」
「わかった」
と2人も手を構える。
「「「我らを守りし、霊断の者に力を。命に害をなす霊異に裁きの光を……」」」
3人が力を合わせ祈る。
「くうっ!たかだか巫女なりたて、3人で私を消せると思うなよぉぉぉぉぉぉ!」
廻理を突破して巫女の方を先に殺すことにする。
「なっ!しまった……ぐっ、身体が」
武型の技で体力を使った廻理では、追いつけそうもない。巫女達が殺されそうになる。そうなれば、廻理達の負けは確定だ。
だが、男が巫女に辿り着く前に見たのは宙に咲く火の花だった。
「なんだ…?これは…」
と次の瞬間に、花は爆発する。
ドンッドンッ!
と続けて男の周りで爆発を起こし、動きを止める。
「爆火の武型……乱れ花火……」
息絶え絶えな状態の奈々が技を放った。初めて使用する武型に身体がついていかないのだ。
「どうなってるんだ!こいつらぁぁぁぁぁ」
男の怒りがさらに強まる。まさか自分をここまで追い詰める者が出るとは思わなかったからだ。
「もう、動け……ない…」
奈々が倒れ気を失う。
「奈々!」
「後は、僕がどうにかするしかない!」
夕は、大剣を持ちながら巫女と男の間に立つ。
「残ったのが君で助かったよ。君は彼らよりも弱いようだしね」
男が笑いながら前に出てくる。夕を見て舐めているようだ。
「夕、逃げろ!」
と廻理が叫ぶ。まだ立ち上がることが出来ていない。
「私の勝ちだ。これであの方にも認めてもらえる!」
と言いながらも夕に向かって拳を振るう。
「逃げるわけないだろう、廻理君!君みたいになることは難しいけど、それでも…力の武型……剛力の一撃」
夕が呟いた瞬間、吹き飛んだのは男の方だった。
「なっ…に?」
吹き飛びながらも見えたのは、元の華奢な少年ではない。武型により筋肉が膨張し屈強な体格になった少年であった。
「かはっ……廻理君あとは、頼む」
元の姿に戻った夕が倒れ込みながら、呟く。
「夕!」
「今は祈りに集中して」
星羅が声を発するが真輪がすぐさま注意する。
男にもダメージはかなり入っているはず……折れた刀で出すならこの技を…
「風の武型…貫風の剣!うぉぉぉぉぉぉぉ!」
折れた刀に刃が付いたかのように風が纏う。
「くそっ……!」
廻理は、そのまま霊異を横なぎに切り裂く。上半身と下半身で分かれた霊異の男が悪態をつく。
「「「二度と彷徨うことなかれ!」」」
そこに巫女の祈りが降り注ぐが、男はまだ消えていない。
「そんな!まだなの?」
未怜が驚いたように声を上げる。
前では男の身体が再生していくのだ。
「私も死んだと思ったが……まだ運は尽きてなかったか」
「くそ……もう身体が…」
廻理が膝をつく。ここまででかなり限界を超えてきたのだ。動くことが出来ない。
「もう演技でもないみたいだね。さっさと殺さないとね。忌まわしい太陽が出てくるから。だけど今度は油断しないよ、君を粉々に吹き飛ばすくらいの一撃をあげるよ」
と言い拳が廻理に向かってくる。
もう避ける力も残っていない。もし避けれたとしても後ろの真輪達に当たるのだ。
もう全て出し切った…
絶対絶命……廻理は、目を閉じてその瞬間を待つ。
しかし、痛みはこない。ただ風が吹いていた。
「よく頑張った、廻理!」
優しい声が聞こえ目を開ける。
「貴様は…」
そこには、男の腕を片手で受け止めている女性……師匠春神叶絵がいた。
「師匠…」
安心したためか、力が抜ける。
「もう大丈夫だ」
師匠の声を聞き廻理は、意識を手放すのだった。




