25話それぞれの覚悟
「あら、ふふふ。焦ってるんじゃないかしら、叶絵?可愛い弟子が心配で集中出来ないのかしらね?」
と女性が優雅に舞いながら声をかける。美しい女性だ。見た目も服装も舞も。誰もが見惚れることだろう……彼女が霊異でなければ。
「風の武型、神風の逆鱗!……貴様と戦ってる暇はない」
槍を構え風を纏う。
「そうねぇ…気持ちはわかるわぁ。もう大切な人を失いたくないものねぇ。絵理みたいにね。無力なあなたは何も出来なかったし」
女性が扇を振るった瞬間に、黒い針のような物が叶絵達を目掛けて飛んでくる。
「貴様が絵理さんのことを言うな!お前があんなことをしなければ…」
風を操り、黒い針を弾きながら叶絵は、吠える。
「あら、ふふふ。そんなに怒ってたら私には勝てないわよ?弟子も死んじゃうものねぇ」
煽るように女性の霊異が叶絵に声をかける。
このままでは、廻理の元にたどり着けない……叶絵は、どう動くべきか迷う。相手は、上級の霊異の強さを格段に超えているのだ。
廻理までも失いたくはない。あの日、自分は誓った筈だ。大昔のように感じる過去を思い起こす。
無力だったかつての自分……失った大切な人…
「やるしかないか…絵理さん、私に力を貸してください」
「あら、ふふふ。むしろやる気が出てしまったわね」
とニコニコと微笑みながら霊異の女性が言う。
「ほんの少しの時間なら大丈夫……太陽の武型……」
と叶絵が、呟いた時に爆発が起きる。
「爆火の武型、乱れ花火!」
斎喜が敵に向かって技を放つ。
「斎喜……」
「先に行ってください、叶絵さん。こいつは、俺がやります」
と言い武器を構えている。
「しかし、君1人では!」
「俺も眷属になった。あの頃の様に無力じゃないんだ!だからどうか、俺の弟子もお願いします」
斎喜は、力強く宣言する。
「くっ…わかった!だが絶対に死ぬんじゃないぞ、斎喜。君の弟子も絶対に助けるからな」
と言い爆発で隙が出来た霊異の女性を突破して先に進む。
「お願いしますよ。叶絵さん…俺は、こいつを倒す」
自分の速度では足手まといになると思っていた。ならばどうするべきか…自分がここで戦う選択をとる。
「あら、ふふふ。油断しちゃったわね。まぁ間に合わないんじゃないかしらね?斎喜君だっけ?君も強くなったのかしら」
扇を振るいながら声をかけてくる。
「あんたを殺せるくらいにはなったかもね。爆火の武型、憤激の剣!」
斎喜と女性の霊異が激突する。
「真輪…大丈夫か?」
廻理は、自らのすぐ近くに座るパートナーに声をかける。
「ええ、今は落ち着いてるわ。でもまた遭遇したらどうなるかわからない…」
真輪は、答える。
確かにここまで鍛えてきた廻理でさえ、動けなくなるような恐怖を感じたのだ。真輪が動けなくなるのは当たり前と言っていいだろう。
「師匠に鍛えてもらってなかったら死んでたな…」
かなり大変だったここ数ヶ月の出来事を思い出す。だけど実戦でいきなりここまでの強敵と戦うことになるなんて誰が予想出来るだろうか?勘の鋭い師匠でもここまでのことは予想出来ないだろう。
「これからどうするの?」
「見つかったら絶対死ぬよな…今は隠れながらも他の人と合流したいけど、もしかしたら俺たち以外は、すでに死んでるなんてことがあってもおかしくない」
廻理と真輪の2人では勝つことは出来ない。むしろ受験者が全員生きていたとしても厳しいと思われる。
「状況は、絶望的か……こんなにあっさり人生が終わるなんて嫌ね」
と真輪が苦そうな顔をして言う。
「そうだな……でも完全に死ぬと決まったわけじゃないだろう?だから最後まで命を燃やさなければ駄目だ」
廻理は、真輪の肩に手を置いて声をかける。まだ生きているんだ、なら今できる最善を全力でやる。
「そうね。私が折れたらあなたは、霊異1体でさえ倒せない…私もあなたがいなければ生きられない。行きましょう!」
真輪の瞳に火が灯ったように見えた。
廻理は、霊気で周囲の気配を探りながら建物を出て歩き始める。もしも、はぐれた時のための集合場所を決めておいたのだ。みんな無事ならば合流することも可能かもしれない。
「ここら辺にはいないみたいだな…急ぐぞ」
真輪を抱えて走り出す。真輪の速度では、逃げ切れないかもしれないので廻理が運ぶことにしたのだ。
慎重に街中を進み、
そして待ち合わせの場所に到着する。
「この建物だったな。誰か来てればいいけど…」
と言いながら建物に入ると、剣を構えた少女が立っていた。
「奈々か?」
廻理が聞くと
「廻理?」
と帰ってきたので相手がわかった。
「ああ、無事だったか…また合流出来てよかったよ」
と声をかけると
「良かった。君達がいなかったから心配だったんだ」
奥からは、夕や巫女たちも出てくる。
無事に全員合流を果たしたのだった。




