24話逃走の選択
「新しい子を見つけた。あの方のために死んでもらおう」
廻理達の目の前にいる、くたびれた着物を着た男はそう言った。
「上級、それに人型……しかも自我があるなんて最悪だ」
夕の呟きが聞こえる。
「師匠が言っていた……俺じゃまだ勝てない存在…」
廻理は、師匠である叶絵が言ったことを思い出していた。
巫女達は、3人共身体を動かすことすら出来ない状態だ。あの真輪ですら怯えているように見える。
こんな状況で戦うことはほぼ不可能。廻理は、1つの選択をする。
「霊気よ…」
全身に霊気を纏っていく。
「なんだ、私と戦うというのか?死を覚悟するものと思ったが、骨のある若い芽もいるんだね」
と男は、廻理が戦闘態勢に立ったことに少し驚きつつも余裕を崩さない。
霊気を纏ったことで身体が動きやすくなったことを感じる。
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
廻理の武器である刀に霊気を大量に集めて出力を上げていく。
「まだ武型の技は使えないけど、これだけ霊気があれば…」
廻理が刀を男に向かって振り下ろした瞬間、周辺をその斬撃で吹き飛ばし、壊れた家の破片や地面の石、砂などが舞う。
「そんな攻撃効かないよ……へぇ、やるじゃないか」
砂埃などが晴れた時、そこに廻理達はいなかった。
廻理は、霊気を纏った斬撃で周辺を吹き飛ばした瞬間に周りに声をかける。
「死ぬ気で走れ!」
夕と奈々、それぞれが己の巫女を抱えて走り出す。廻理も、真輪を抱えてすぐに走った。
最悪を想定した時の脱出手段だ。ここまで上手く行くとは思わなかったが、少しは時間を稼げるだろう。
足に霊気を集中させ、必死に走る。追いつかれれば死ぬことは確実だろう。
それぞれが死ぬ気で走ったので、夕や奈々とはぐれてしまう。
街中の一軒の家に飛び込む。
「とりあえず、隠れるぞ。おい!真輪しっかりしろ!」
と言い真輪の目を覗き込む。
「はっ、はっ…ごめんなさい。呼吸が止まるかと思ったわ。あれが上級の霊異……あんなのがいるなんて…」
真輪は、早くなっている呼吸を少しでも落ち着けようとしている。
「大丈夫!とりあえず、逃げる事は出来たから…ゆっくりと吸って…吐いて…」
廻理は、真輪の背中に手を添えながら耳元でささやく。
「ふぅ…なんとか落ち着いたわ」
数分後真輪は、呼吸が整った。
「それは良かった…他の人たちは大丈夫だろうか」
夕や奈々のペアを心配する。
「それは、わからないわね。あんな化け物を見てしまったら…」
真輪の顔にも普段の余裕はなく恐怖が張り付いている。
どこかで、強敵が出ても勝てるだろう……そんな思いがあったのあったのかもしれない。だが現実は、やはり甘くなかった。
「どうにかならないものか…」
もし師匠がいてくれたらなぁ…と思わずにはいられない。
「霊異の気配はないから大丈夫そうだ…」
「どうにか、朝まで見つからなければ良いんだけど…」
朝が来れば霊異の力は弱まり撤退するだろう。しかし、助けが来るとも限らないが安心感はある。
「そうだ、試験だから周辺に霊断士が待機していてもおかしくないはずだよな?」
疑問を口にする。
「ええ、そうね。そこそこの強さの霊断士が待機してると思うんだけど…」
真輪が言うことが確かならもう助けが来てもおかしくない……では、なぜ助けが来ないか。
「まさか、外にはもっと霊異がいる?」
受験者を助けられないように仕組まれている可能性がある。嫌な予感しか無い。
廻理の予想は当たっていた……
「あらかた倒したか!」
今回、斎喜は巫女を連れてなかったが叶絵がいたため問題がなかった。さらに叶絵は、霊断士と巫女の両方をしっかりとこなすことが出来ている。
「あら、ふふふ」
声が聞こえてくる。
「叶絵さん、まさかあいつは!」
「ああ、奴が出てくるとはな…」
師匠2人の前には扇を持った女性が立っていた。
「あら、ふふふ。久しぶりねぇ2人とも。大きくなったじゃない…でもごめんねぇ。可愛い子供達を助けには行かせないからね?」
と扇を構える。
「霊異に堕ちた裏切り者……さっさと通してもらう」
叶絵も武器を構える。
「あら、ふふふ。叶絵ってそんな性格だったかしら?まぁ良いわ、始めましょうか。心霊術、滅びの舞!」
「叶絵さん!」
「ああ、気を抜くなよ!2人でいかねば厳しい戦いになる」
戦いが激化していく……




