23話最悪の遭遇
廻理と夕、奈々の協力関係を作った3組は、縦に一定の間隔を作りつつ街を進んでいた。
「今の所、変わった様子はないし変な気配もないな……」
廻理は、気配を探りながら呟く。ちなみに、廻理と真輪のペアが先頭で奈々、夕のペアとなっている。
「廻理、中級の霊異よ」
「ああ」
と真輪が言ったので、刀を抜きすぐさま斬りつけ、倒す。
真輪が祈りを捧げている間も常に気を抜かない。周囲の気配をひたすら探る。
「やっぱり凄いなぁ」
と夕の声が霊気で強化された耳に聞こえてくるくらいだった。
かつてここまで集中したことはなかったかもしれないとまで思うほど気が抜けない状況であった。
もしかすると死ぬかもしれないという恐怖をみな感じているが、それを表に出さないように必死に抑えている。
自分達の考えがただの間違いであって欲しいと祈りながら。
しかしついに廻理達は、見つけてしまった。
「まさか……あそこに倒れてるのって」
真輪が小さい声を出す。
「そのまさかだよな…」
廻理は、後ろの4人に気をつけるように合図を出して前に向かう。
そこにいたのは1組の受験者で、明らかに殺されていた。
「これは、酷いな……」
2人とも身体を引き裂かれており、辺りには大量の血が飛び散っていた。殺されてからまだそこまでの時間が経ってないように見える。
目の前で人が霊異に喰われるのを見たことがあったからか廻理は、そこまで死体に恐怖を持ったりしなかった。
「これで、霊断士を殺せるほどの霊異がいるのは確定ね…きっと行方がわからない2人も…」
と真輪が言う。無関係ははずがない。
「チッ……道が崩れているか」
と叶絵が苛立たしげに舌打ちをする。
「これは、嫌な予感しかしないね」
と斎喜も答える。
これは、明らかに仕組まれているものだ。眷属である2人の到着を少しでも遅らせようとしているように見える。
「見てみろ、斎喜。霊異がたくさん出てきたぞ」
と槍を出しながら叶絵が答える。
「それは、困りましたね。無理にでも押し通りますか」
と言いながら剣を抜く。
「風の武型、神風の逆鱗」
「爆火の武型、乱れ火花」
廻理達が、試験で死者を発見した時、彼らの師の戦いが始まっていた。
廻理達は、死体をそのままにして移動することにした。申し訳ないが、埋葬などをしている暇がないのだ。
「もしかすると、近くにいるかもしれないな……」
こちらが気配に気づくと言うことは、向こうも気づくということになる。
全力気配を探りながら元来た道を戻る。夜明けまでの時間はまだ遠い。
太陽が出るまでに、あと10時間近くあるだろう。正直言って地獄のかくれんぼだ。
持っている剣に力が入る。
「はぁ…落ち着かないとな……」
息を吐き、少しでも冷静であろうとする。
圧倒的な強さで試験を終了しようと思っていた自分が恨めしい。
「ん?」
家屋が立ち並ぶ街中の中央…廻理は、他の受験者の気配を感じた。こちらに急ぎながら向かっているように動いている。
だが次の瞬間、受験者2人の気配は糸が切れたかのように消えた。
「は……?」
余りに一瞬のことで廻理は、驚く。奈々と夕も気配を探っていたのだろう。驚きの表情だ。
「すぐに走……れ……!」
廻理は、すぐに逃げるようにみんなに声をかけるがそれすらももう遅かった。
「動け……ない…」
みんながその場から動くことが出来なかった。身体が金縛りにあったかのように動けない。
「この気迫は…中級なんかじゃない。本当に……上級の霊異が…」
夕がガタガタと肩を震わせて呟く。
「新しい子、見つけたね。あの方のために死んでもらおうか」
とこちらに一歩踏み出す。
どんなに全力で挑んでも勝てないであろう存在が目の前に現れたのだった。
日の出まであと9時間。




