16話試験開始前
「いよいよ、明後日から霊断士の試験が始まる…調子はどうだ?」
「ええ、身体の調子はバッチリです!後は、適度の緊張感を持って臨みたいですね」
と廻理は師匠に答える。
試験が行われる場所には師匠が連れて行ってくれることになっている。どんな場所でやるのかというのも気になるものだ。
学校も当分休むことになるが、先生が上手いことやってくれるようだ。学校関係者の中に霊断士の関係者がいるととても助かる。
「それにしても、技に関してはあんまり出来なかったな…実戦じゃ役に立たないかも」
師匠から技を教わっていたのだが、やはり期間が短いこともあり習得に至らなかった。中級の霊異が相手なら問題は無いだろうが…
「さて、それじゃあ帰るとしようか…明日は、ゆっくり休んでおけ」
と言われ帰ることにした。
部屋に帰り着き、少し横になる。今日は師匠は来ていないため身体を伸ばせる。
「そういえば、師匠が入学式の時に撮った写真をくれたんだったか…アルバムに入れておきたいな!」
と言い本棚からアルバムを取り出す。
アルバムをめくりつつ、写真を入れられるところを探す。
「よし、ここに入れておこう」
と言い写真を挟むと最初の方に戻ってみる。
「なんとなく写真を見たくなったなぁ」
写真は、廻理がもう忘れてしまって覚えていない頃のものばかりだ。そこには、今は亡き廻理の両親も写っている。
「あんまり覚えてないもんだな…」
両親と笑顔で撮られた写真を見ながら呟く。
写真を見ていると気になる人物が写っていた。
「誰だろうか?この女の人は…俺に姉なんていないし」
全く記憶にない人物が写っていた。でも明らかに知っている気がする。
「師匠?いやいや、こんなに細い子が師匠なわけないしな。一体誰なんだろうか…」
と呟いていると、頭に頭痛が走る。
「くっ…」
『ねぇ、待ってよ!………ねぇちゃん』
俺なのだろうか…誰かを追いかけていた。
『ごめんね、廻理君……もう忘れてください』
と言い頭を撫でられる。
そこで終わった。
「はっ、はぁ…はぁ…今のは何だ。何の記憶なんだ…」
廻理には、全く分からなかった。気がつくと全身に変な汗をかいていた。
試験の前日は、ひたすらのんびりと過ごしていた。いよいよ前日までやってきたのだ。よっぽどのことがない限り死ぬなんてことはないと師匠も言っていた。だが、試験は何があっても採点する霊断士達は助けに入らないらしい。
「巫女ってのも、上手く連携出来たら良いけど…凄い傲慢な奴とかだったら嫌だな」
と考える。巫女は、廻理自身が守らなければならない。巫女は、戦う力がないから霊断士がやられれば死ぬことになる。
良い人がパートナーになってくれたらなと思う廻理だった。
そして当日の朝、師匠である叶絵が迎えにきた。車でだ。
「師匠、車持ってたんですね…俺はてっきり走って行くもんだと思ってましたよ」
と言う。
「君は、師匠に対してなかなか思い切ったことを言うな。私だって免許くらい持ってるさ」
と言う。そして乗れと合図する。
助手席に乗り込みシートベルトを閉める。
「よし、出発だ。今日の夜から開始だからな…今のうちに寝ておいた方がいいかもしれないぞ」
と忠告される。廻理は、したがって寝ることにした。
廻理が確実に寝たことを確認した叶絵は、廻理の頭を撫でる。
「廻理、死ぬんじゃないぞ。何がなんでも生きて戻ってこい」
と言うのだった。死ぬことは、ないとわかっているがそう言わずにいられなかったのだ……
そしてついに到着した。
廻理には、全く今いる場所がわからなかった。
「ここからまっすぐ進め。他の受験者もいるだろう。私はここまでだ」
と師匠が言う。ついに始まるのだな…と廻理は、気合いを入れる。
「はい!師匠行ってきます。ここまでありがとうございました」
「ふふ、感謝は帰ってきてから言ってくれ。何があっても諦めるなよ」
と背中を叩く。
「そうですね。それじゃあ1週間後…」
と言い廻理は歩き始める。
「さて、ついにここまでやってきたな…俺がどこまでやれるのかハッキリする。頑張るぞ」
だんだん目の前に人が見えてきた。おそらく受験者だろう。多くの人が集まっているため、廻理もそこに向かって行くのだった。




