11話霊異の階級
廻理が振った木刀が石に少しかすった。完全に跳ね返せてはいないが貴重な一歩前進だった。
「やっと石に触れた…」
ここまで来るのにだいぶ時間がかかったのだ。
「数日前よりは、明らかに見えるようになってきているな。完全に捉えるまであと少しだ」
と師匠が言う。遊びと称してやっている反射神経を鍛える修行だがここまで来るまでかなり大変だった。
石が身体中に命中するからだ。普通の速度でやっていては練習にならないため霊気で腕を強化して投げられた石を跳ね返すのだ。失敗すると運が悪ければ身体に命中する。
「もう身体に当たるのは嫌だぁぁぁぁぁ」
と叫びながら廻理は練習に臨んでいた。
「そんなに声を出すんじゃないぞ?うっかり身体を狙ってしまうじゃないか」
と言いながら師匠は投げてくる。
なんとか石にかすらせられるようになってはきたがまだ完全じゃないためダメージは避けられない。
「さて、治療をしようか、どこを打ったのか教えてくれ」
と師匠がいい巫女の力で怪我を治療していく。師匠の腕は巫女の中でも上位らしく。廻理としても怪我の治りからすごいと実感している。
「それにしても笑ったぞ!見事に急所に命中だったな」
と師匠は笑う。
「狙ったのはアンタだろうが!」
急所に当たった瞬間は死を覚悟したくらいだ。やはり絶対に当ててはいけない場所だと思う。覚えないがもしかしたら一度あの世に行ったかもしれない。
「良く生きてたな?廻理。結構身体が頑丈になってきたんじゃないか?」
と言ってくる。
「もう!」
と言いながら廻理は立ち上がる。
「次こそは跳ね返してやるからな!」
と言い木刀を構える。
「いいだろう、やってみろ!」
と言い師匠が石を投げるのだった。
「一発、打ち返すことが出来たな。このままの調子でいけば大丈夫だ」
結果としては一発だけ跳ね返すことが出来たということにだけだ。
「たった一発だけだったか…」
もう少し当てることが出来たらと思ったがそうそう上手くはいかない。
それから数日間かけて廻理は、石を跳ね返せるようになる。
「そろそろ君も島を出る時期じゃないか?」
と叶絵が質問してくる。
「ええ、そうです。後1週間ですね、この島にいるのは」
そうもう少ししたら4月である。高校生活が始まるのだ。受験もしっかり合格しているので新生活が待っている。
「そうか、まぁ向こうに行っても変わらず修行はあるがこの島と比べたら良い場所があれば良いが…」
と叶絵が言う。
人が少ない場所であれば思い切って修行出来るが、なにぶん目立つことになる。
「そこは後で考えましょう。気にしててもしょうがないですよ」
と言う。
「そうだな。それにしてもいつにもなくポジティブだな?」
「そりゃもう新生活が楽しみじゃないですか。ワクワクしてるんですよ」
そう高校生活だ。霊断士のこともあるが楽しみでないわけがない。
「そうだな、高校生か。早いものだな…」
シミジミとした感じで言う。
「師匠、会ってそんなにたってないじゃないですか?からかわないでくださいよ」
と廻理は微笑む。
「ふふ、そうだな!さてランニングでもするぞ」
と言い走り出す。
「はい!」
と言い廻理もついていくのだった。
さらに数日が経ち
「両腕両足を霊気で覆えるようになりました!」
廻理は、叶絵に報告する。徐々にだが霊気の纏うのもしっかり進んでいる。
「ほぉ、それだけ出来れば中級の霊異と戦うことも出来るな」
と言う。中級…ということは霊異にも強さ的なものがあるということが感じられる。
「中級って強さですか?」
「ああ、初級は巫女の祈りだけでも魂の解放が出来るほどで脅威ではない。だが中級からは、霊断士の力が必要だ。さらには上級ともなると熟練した腕の霊断士が必要だ」
と説明してくれる。
「上級の霊異って言ったらどれくらい強いんですか?」
大体の力量が気になる。
「そうだな、この前廻理が襲われたので中級だな。そして上級ともなれば今の廻理では勝てないと思うぞ」
と言われた。さすがに霊気が完全に使えてない廻理では無理なようだ。
「参考になりました」
「ああ、私なら上級が相手でも余裕だがな。だが上級とはそうそうに会うこともないだろう」
とのことだ。上級は数が少ないようだ。
「では、上級に勝てる師匠は最強ってことですね!」
と言うと返ってきたのは違う結果だった。
「いや、上級が1番強いと言うわけじゃないんだ…その上の存在がいる。私でも良い勝負が出来るとは思うが勝てる確証はない」
「そんなにですか…」
廻理は驚いていた。そこまでの存在がいるとは思わなかったからだ。
「それは会いたくないですね…」
と言うのだった。




