10話遊びという名の修行
師匠と再会した次の日から廻理の修行には師匠である叶絵が合流した。
「さあ廻理、出来るだけ急いで霊気を使いこなせるようにやっていくぞ。ひたすら鍛えるのみだ!」
腕組みをしながら師匠は廻理に声をかける。
「ちくしょう!合流した途端にこれだよ。死んじまう」
苦悶の表情を浮かべながら廻理は、ひたすら腕立てを続ける。
「ほぉ、喋る元気があるのか廻理。ならばもっと重りを加えるとするか」
と言いつつ師匠は廻理の背中に腰を下ろす。突然のことで廻理は、バランスを崩して顎を打ち付ける。
「おっと、どうした?私では重りにはならんかったか?」
と声が聞こえるが廻理はあえて答えない。
重いなんて答えたら答えたで碌な目に合わないと考えられるからだ。
喋ると酷い目にあうと思うので廻理は、ひたすら黙々と腕立てを続ける。
廻理の霊気は現在、手を覆うことが出来ているため腕立てもかなり楽になってはいるが重り、もとい師匠が乗っているため辛くなってきた。
廻理の腕立てが続かないのを感じ取ってか師匠は廻理から降り休憩を取らせてくれる。
「休憩だ。休んだら少し遊ぶとしよう」
「わかりました」
遊ぶと言っても楽しいものとはとても思えない。遊びという名のしごきだと思っておく。
地面に座り込み手をプラプラとしていると師匠は服から大きめの石を何個も取り出していた。
「うわっ、どうりで思いと思ったよ。いつ間にそんな数の石を…」
と廻理は驚くのだった。
「それにしても廻理、お前の頑張りに関してはかなり評判しているぞ?時々、習いたいという奴がいるがすぐに諦める」
「そうですか?ありがとうございます!」
そりゃあんたの修行はキツイぜとは言えない。だけどそれくらいやらないと強くなれないのも事実だ。廻理は、そこはしっかりわかっている。
「休憩終了だ。さて厳しい修行でキツイと思うから遊びを取り入れることにする。楽しみながら強くなる。大事だろ?」
と笑顔で言ってくる。
「どうか遊びで済みますように…」
と廻理は祈るのだった。
場所を移し廻理達は海に来ていた。
「私が石を投げるから君はしっかり打ち落とせ。シンプルな遊びだ」
と言いながら叶絵は廻理に木刀のようなものを渡してくる。
「わかりました。あんまり強く投げないで下さいよ?霊気を、身体に纏えないから当たったら大怪我します」
と言っておく。手加減を知らないかもしれないからだ。
「安心しろ。致命傷じゃなければ私が治療するから」
「その致命傷をくらいそうだから言ってるんですよー!」
堪らず返した時、すでに叶絵は石を投げようとしていた。
ブゥーン!
廻理の顔の真横を風が通過し、後ろにあった巨大な岩に石がめり込んでいる。
「すまん、手が滑った」
と涼しい顔で師匠が言う。
「絶対わざとだ…」
と廻理は言うのだった。
「さて、そろそろ一発くらい打ち落とせてもいいんじゃないか?」
師匠が投擲する石を打ち落とそうとするが、上手くいかない。今の所一回も木刀に捉えることが出来てない。
「適当に振って当たるようなものじゃないしな…」
と考えいた所で師匠から声がかかる。
「良し、交代しよう。見て学ぶことも大切だ」
と言い木刀を取る。
「じゃあ投げますよ」
と言い石を師匠に向かって今出せる全力で投げる。
自分で驚くスピードが出て石が飛んでいくがそれを叶絵は打ち落とした。
「容赦無く私に向かって投げたな?廻理」
と怖い笑みを浮かべて見てくる。
「わかってましたよ。撃ち落とされる事くらい」
と打たれたがドヤ顔で返事する。
「廻理と私の差はなんだと思う?」
「シンプルに動体視力かなと思います。霊異と戦ったりしてる師匠と一般人の俺じゃとてつもない差です」
と答える。実戦経験が大事とは良く言ったものだ。
「そうだな、だから今後は反射神経も鍛える必要がある。いくら鍛えたからと言っても不意打ちが無いわけじゃない。霊異に正々堂々なんて通じないからな」
経験があるのだろうなと思いながら廻理は話を聞く。
不意打ちで死ぬとかやだなと思いながらしっかり鍛えないとなと気合を入れる。
「さて今日はここまでにしておこう。反射神経についても頭に入れて何かしらで鍛えておくように」
「はい!」
と言いながら廻理達は帰る。
途中で廻理と別れた叶絵は、自分の人差し指を見ながら呟く。
「まさか廻理の投げた石で人差し指が少し痺れることになるとはな…こんなに速くここまでの威力を出せるか」
一級霊断士である叶絵の指をたった一本ではあるが痺れさせるのはすぐに出来る事ではない。
「まだまだだがな。成長が速いのも師匠としては少し寂しいものだ」
と言い普段は見ることがないような嬉しいような悲しいような表情で歩いていくのだった。




