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俺(の義母)が大活躍!

「……くん、リョーくん!」


 「……んん?んあ!?」


 聞き慣れた声がして目を開けるとそこには穂南さんが心配そうに俺を覗き込んでいる……のだが巨大て豊かな胸のせいで顔がよく見えない。というか後頭部に感じる柔らかな感触に俺は猛烈に嫌な予感を覚えた。

 

 「ひ、膝枕なんかしなくていいから!?」


 「気持ちよさそうに寝てたから起こすの可哀そうだし、まだ寝顔を見ていたかったな~」


 頬に手を当てて朗らかに笑う義母のマイペースに呆れて怒りも湧いてこない。俺は諦めて周囲を見渡した。


 今まで読んできた異世界転生の世界観そのままの光景だ。石造りの家が軒を連ねていて目の前の大通りには様々な中世の武具を装備した人間が大勢闊歩している。


 「これからどうするの?お母さんよく分からないからリョー君に任せるね」


 「まずは冒険者が集うギルドみたいな場所があるはずだから、そこに行くべきだろうな」


 ファンタジーものの作品には必ず存在するギルドという組織はこの世界にも必ずあるはずだ。そこで仲間を引き入れたり酒を飲んでる冒険者から有力な情報を得たりする貴重な場所になっているのが定石だ。


 「この大通りを歩いている冒険者達に付いて行ったらたどり着くだろ」


 よく見ると冒険者は全員同じ方向に歩いている、その行き着く先にギルドがあるはずだ。

 「行こう」


 歩き出そうと前へ一歩踏み出すとふいに右手を包み込まれるような感触がして振り返ると穂南さんがその柔らかな手で掴んでいた。


 「こーら、勝手に一人で行くと迷子になるわよ?」


 「……放してくれよ」


 「でも手を繋いだ方が……」


 「放せって言ってんだろっ!!」


手を思いきり振り払った後穂南さんの驚きに満ちた顔を見て俺は自身のした事を後悔した。


「っ……」


気まずさに耐えかねて俺は何も言わずに歩き出した。


「ま、待って」


 後ろから慌てて付いてくる穂南さんを見ずに前だけを見て歩き続けた。だから公衆の面前で恥ずかしい事するなよ……。



「おお……!すげぇ……!!」


目的のギルドは大通りの突き当たりにあった。


どうやら酒場も併設しているらしく、中からは酔った冒険者の声が外まで聞こえている。


「……すごく立派な建物ねぇ」


穂南さんも圧倒されているようだ。


木製のドアを開けると強烈な酒の匂いが鼻の中に入ってきて思わず手で鼻を摘んだ。


右手に受付があり沢山の冒険者らしき人々が受付嬢と話し込んでいる


「ようこそ冒険者の街フールのギルドへ!何か御用でしょうか?」


「ええと……俺達この街に今日来たばかりで何も分からないんですけど」


 「まだ冒険者の登録はしていませんね?でしたらまずは登録を済ませましょう。こちらの球体に手をかざしてください」


 受付カウンターのすぐ横に二つ置かれている鉄製の丸い球体が台座から離れてふわふわと浮いている。どんな原理で動いているのか分からないがてもファンタジーっぽくって見ているだけでテンションが上がる。


 「わぁっ!なんだか漫画の世界みたい」


 嬉しそうに手を差し出す穂南さんとは対照的に恐る恐る手を翳すと丸い球が淡い光を放ち急速に回転し始め、台座の目の前に置いてある紙に文字が浮かび上がってきた。


 「そちらの石の球体は個人のステータスを計測する魔法道具の一つでそちらの紙に転写されます」


 豊かな胸を持つ受付嬢はびっしりと文字で埋め尽くされている紙を手に取り目を通した。


 「……えぇっ!?」


 「え?どうしました?」


 「れ、レベル八十!?す、すごいですよこれはっ!!」


 震える手でこちらに紙を差し出したので見てみる。


 『神谷涼太郎 レベル:七十 適正職業:戦士 ※穂南のスキル発動時のみ 固有スキル:なし』という簡潔な字で書かれていた。


 「え、えぇ!?ほ、本当ですかっ!」


 さっきは母親と異世界で冒険という憂鬱を抱えていたがそんな気分は吹っ飛んだ。やっぱりこの異世界では俺が主人公なんじゃないか!……ん?この注意書きはなんだ?


 「すっごーい!りょー君そんなに強いの!?お母さん嬉しいっ!」


 「ちょ、く、苦しいっ……!」


 俺の頭を抱きかかえながら飛び跳ねる度に柔らかな胸が顔に押し当てられる。というか息が出来ない。


 「え、えぇと……穂南様のステータスは……はぁ!?」


 「ぷはっ……!こ、今度は何なんです?」


 「ほ、穂南様のステータス……レベル百っ!?」


 驚きのあまり手の力が抜けたのか手から紙が落ちた。俺は内容を見て開いた口が塞がらなかった。

 『名前:神谷穂南 レベル:百 適正職業:勇者 固有スキル:可能性の母・息子への想い(息子の涼太郎のみに発動。息子に対して愛情がある限りステータス上昇)』と書かれている。


 「し、しかも固有スキルも発動しているっ……!!レアスキルですよ!こんなの初めて見ました!!」


 興奮したように捲し立てる受付嬢に周囲にいた冒険者達も好奇心に釣られて俺達に目を向けていた。

 「レベル百って嘘だろっ!?何かの間違いじゃないのか?」


 「みたところ変な服着た普通の姉ちゃんだぞ。どう見ても強そうには見えないな……」


 口々に囁き合っている冒険者達を気にせず穂南さんはのんびりとした口調で受付嬢に話しかけた。


 「それってそんなにすごいんですかぁ?」

 

 「すごいですよっ!レアスキルは限られた人間にしか発現することがない特別なスキルなんですっ。それに勇者という職業を見たのは初めてですよっ」


 「え、えぇ!?」

 俺ではなくてこの人が?普通逆じゃないのか!?

 お約束をことごとく破っていく展開に脳の処理が追い付かず頭を抱えた瞬間、突如けたたましいサイレンの音が鳴った。


 『緊急事態発生!繰り返します!緊急事態!東門が突破されて魔王の幹部率いる大量の軍勢が街で暴れまわっています!至急冒険者達は撃退に参加してください!!』


 「お、おいこれって!!」


 「とうとうこの街にまで来やがったのか!?」


 冒険者達が口々に騒ぎ出した後入口へと駆け出した時、天井が大きく割れて一人の女の子が勢いよく落ちてきた。


 「ぐああ!?」


 地面に叩きつけられ何回かバウンドして壁に背中を大きく当たった。よく見ると身に纏っている白銀の鎧はあちこちに傷が入っていて顔にも大きな切り傷がある。


 「はーあ、弱すぎて話にならへんわ。全然歯ごたえ無いわ~」


 ぽっかりと穴の開いた天井からふわりと一人の女性が舞い降りてきた。

 「ぐっ……つ、強すぎる……」


 手に持っていた剣を杖代わりにして何とか立ち上がった少女はもう既に満身創痍で立っているのがやっとだった。


 「ほんまに人間って、弱いよなぁ」


 口の端を歪ませて獰猛な笑みを浮かべている女性の背中には漆黒の羽が生えている。それは異世界ものの小説に馴染みの深い敵だという事は一発で分かった。


 「あ、悪魔だ……!す、すげぇ……初めて見た……」


 恐怖よりも先に感動が勝ってしまっている。というか、序盤からいきなりピンチになってないか?



「おいおい、それで終わりか?全然物足りんなぁ」


 全身を漆黒のドレスを身に纏っている。その暗い色とは対照的に髪の色は燃えるような赤い色をしており太ももまで伸びる長い髪を頭頂部で一つに纏めていた。


「わ、私はまだ戦える……!!」


 足を震わせながら立っている少女は見たところ俺と同い年のような印象を受ける。ブロンドの髪に意志の強そうな黄金の瞳を真っすぐ悪魔の女に注いでいる。


「はっ、そんな傷だらけの身体で言われても説得力ないわ。もうええ、お前はそこで死んどけや!」


「っ!あ、危ないっ!」


 考えるより先に俺の身体は動いていた。少女は立っているのがやっとで反撃できる余力がないようだ。

「間に合えっ!」


 赤毛の悪魔が目の前まで迫ってくる寸前に少女の前まで辿り着き覆いかぶさるように体を抱きしめ横に思い切り飛んだ。


「きゃっ!」

 高潔な見た目とは裏腹に可愛い声を出した少女は驚きに満ちた目を向けた。

 しかし勢いが付きすぎたせいで止めることが出来ずそのまま壁にぶつかり少女と共に地面へ倒れこんだ。


「うむっ!」


 唇に何か柔らかい感触が広がった。目の前には目を見開き俺を見つめる少女、そしてよく見ると唇が重なりあっているのが分かる。


「うぉわ!?ごめんっ!!!!」


 光の速さで少女の身体から手を放し距離を取る。


「こ、これはそのじ、事故で……!別にわざじゃない!」


「……お、お、お前……!わ、私のく、唇を……!」


 顔を茹蛸のように真っ赤にさせて身体中を震えさせている彼女に俺は必死になって弁解をした。明らかに怒っているのが他人から見ても分かる。


「おい!何イチャイチャしとんねん!」


「いやしてねぇよ!?」


 とんでもない誤解だ。俺はラブコメの主人公のようにラッキースケベの能力なんて持ってないぞ。というか何故関西弁なんだ。


「お前も死にたいんか?やったら一緒に死なせたるわ!」


 獰猛な笑みを浮かべながら再び加速して俺達に向かう女に為すすべもない。俺はせめて少女に危害を加えられないように覆いかぶさって身を守ることしか出来なかった。


「ちょっと!うちの子供に何するんですかっ!!」


 いつの間にか俺達の目の前に堂々と穂南さんが立っている。長年一緒に住んでてこの人が相当怒っているのが背中越しでも分かった。


「殺すなんてそんな物騒な事を言っちゃいけません!」


「な、なんやねんお前……」


 ……そりゃあいきなり殺そうとする人間の母親が出てきて説教されたら困惑するよなぁ……。こんな最悪な状況でも通常運転なのは最早感心してしまう。


「もう!こんなに傷を負わせちゃって……どんな理由で喧嘩したか知らないけど怪我させちゃ駄目でしょう!この娘に謝りなさい!」


「はぁ?何訳の分からんこと言うとんねんっ、もうええわ。お前も死ねや!」


 悪魔の女は突如何もない空間から飛び出てきた禍々しく婉曲した剣を手に取ると何の躊躇もなく大きく振りかぶって穂南さんに振り下ろした。


「こらぁっ!」


 穂南さんが大声で怒鳴りつけた途端悪魔の女を始め周囲の人間達が威圧され身動きが取れなくなった。


「そんな物騒な物相手に向けちゃいけませんっ!早くしまいなさい!!」

「は……はい……」


 凄みを利かせた穂南の言葉に圧倒され素直に武器をしまう悪魔の女に俺は同情の目を向ける。


「ほら!!こういう時に言う事は一つだけでしょ!ごめんなさいは!?」


「う……うるさいわっ!なんやねんいきなりっ……きょ、今日の所は見逃したるわっ!お前の顔はこのカリスが覚えたからなっ!!」


 半泣きになりながらカリスは翼をはためかせ空いた天井から空へと飛び立った。周囲の冒険者たちは撃退した張本人である穂南さんを茫然と見つめやがて一つの言葉を吐き出した。


「「「「ど、怒鳴っただけで追い払った!?!?」」」」


 「す、すげぇなあんたっ!?あの四天王の一人を言葉だけで追い払うなんてっ」

 「あんたやっぱり本物の勇者なのかっ!?!?!?」

 「だとしたら五百年ぶりの勇者だ!!」

 

 大勢の冒険者達が取り囲んで次々に称賛の言葉を投げかけられだ穂南さんは困惑の表情で首を傾げた。


 「ただ説教をしただけなんですけど……何かおかしい所ありました?」


 自分のした事の凄さを全く自覚できないのは流石マイペースというか本当に穂南さんらしいと思う。


 『スキル『母の咆哮』を使用しました』

 突如機械的な女性の声と共に穂南さんの頭上に『スキル使用。メニューにて確認』というデジタル表記の文字が映し出されている。


 「あら、これって……」

 「もしかして……!それってステータス画面だ!」

 

 俺ももしかして穂南さんと同じように表示できるのかと思い虚空へと手を伸ばした途端、目の前にロールプレイングゲームでは御馴染みのステータス表示画面が出てきた。おお!本格的だ!さっき冒険者登録した時のステータスと同じ数値が映し出されている。


 「おい……」


 背後から殺気を感じ、俺は反射的に前へと転がり込んだ。今俺がいた場所へ目に見えない程の斬撃が繰り出された。


 「おいっ!?危ねぇな!?何すんだよっ!?」


 「お、お前……!わ、私の純潔をっ……!誰ともキスなんてしたことないのに……!」


 「お、落ち着けって!」


 「うるさいっ!!こ、こうなったら貴様に決闘を申し込むっ!!私が勝てば潔く責任を持って死んでもらうっ!!その代わり貴様が勝てば私の婿になってもらうぞっ!!」


 「は、はぁ!?何言ってんだお前!!」


 手に持っている剣を強く握りしめ少女は真一文字に横へと振り払ったがこれも何とか間一髪で避けきった。怒りと恥ずかしさで顔を真っ赤にしていてとても言い訳を聞いてくれる状況ではない。


 「いいかっ!一時間後にこのギルドの目の前にある総合訓練所に来い!そこで決着だ!逃げたら殺すっ!」


 そう言い残すと怒りの表情のままギルドの扉を勢いよく開けて去っていった。一部始終を見ていた冒険者達をまるで嵐が去った後のように静まり返った。


 「ま、まぁ、何というか気の毒だな……」

 「あの女騎士に殺されないようにしろよ……」


 口々に同情するような言葉を投げかけられてしまった。誰も助けてはくれないのか。

 

 「あらあら、随分とリョー君の事が好きなのねぇ」


 「いやどう見たって殺意に溢れてただろっ!?」


 全く見当違いなのほほんとした言葉に俺は即座にツッコミをした。俺の声は虚空へと空しく響いた。


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