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別れ話に付き合わされて

作者: トニー

以前、TOKIOの山口達也さんが、飲酒した後、女子高生に猥褻な行為をして捕まったときのこと。その件に際しビートたけしさんが、「男ばっかし叩かれる風潮になってる」と発言し、炎上しかけたのを見聞きし本作を思いつきました。果たして本当に、男だけが一方的に悪いのでしょうか? 僕はビートたけしさんを支持しています。


   序


「ねえみんな、聞いて聞いて!」

 その風俗デリヘル嬢は、店の待機所になっているマンションの一室に戻ってくるやいなや、さきほど応対したばかりの風変わりな客のことを仲間たちに語り始めた。


   1


 変なお客さんだった。一回もヌかなかったのよ。ううん、イカせてあげられなかったんじゃないの。そもそも「して欲しい」って言われなかったのよ。ブラはおろか、服すら脱がなかったわ。かといってゲイでもないし。だって立派に彼女がいたんだもん。

 部屋に着いたとき、すでにもうお酒を飲んでいて、かなり酔ってたのよ。酔ってる客ってなかなかイカないじゃん。正直最初は、ああハズレだ、嫌だなぁって思ったの。ところがさ、「実は女にフラれたんだ」って言うのよ。ヤケ酒の相手をさせられるのかなぁって思ったら、それも違ったの。なんでも一週間くらい前に別れたいって言われたらしくて、しばらく口論したんだって。で、今日になって貸し借りしていた本やCDを清算して終わり、になるはずだったのに、清算したあとになってメールが来たんだって。で、その内容がさ、実際あとになってあたしも見せてもらったんだけど、未練タラタラなのよ、分かる? 最初に別れたいって言い出したのは女の方なのに、その女の方が未練タラタラなの。でもそのことを素直に認めないタカビーな性格みたいでさ、しかも、「まだ自分のことを好きに違いない」って思い込んでるのよ。で、そのお客さんに、なんとしてでも、「まだ好きだ、オレとやり直してくれ」って言わせようとして、これでもかってぐらいしつこくメールして来ていたの。もっとも、その時点ではまだメールは見せてもらってなくて、ただ口頭でそう説明されただけだったんだけどね。ま、とにかく、そう説明を受けた後、言われたの。

「そこで君にお願いがある。若い女にしか出来ない重大な任務だ」

 その「重大な任務」って言い方がさ、なんだかまるでアメリカの戦争映画の上官みたいで、思わずあたし、ビッ! って敬礼しそうになっちゃった。それと同時に、さっき店長が言ってたことの意味がなんとなく分かっちゃったの。ほら言ってたじゃない、自慢するわけじゃないけど、「きちんと人の話を聞けて、自分の意見を言うことも出来る頭のいいに来て欲しいって言ってるんだけど、アキコちゃんお願い出来る?」って。その言葉の意味が、なんとなく分かっちゃったのよ。


   2


 そのお客さん、酔ってる割に明瞭に話すし、頭のいい、機転の利く人だったんだ。で、あたしに新しく出来た彼女のフリをしてくれって言うのよ。

「いまからオレのこのケータイで元カノに電話をする。相手が出たら君の口から言ってくれ。"もうこれ以上あたしのカツヤにメールをして来ないで"って。そうすりゃきっと向こうも諦めてくれるだろう。できるね?」

 うん、って返事をした瞬間、いきなり電話されちゃった。もうビックリよ。「こう言われたらああ言い返す」とか、少しは作戦会議するのが普通じゃない。まあ、よっぽどイライラしていて、一刻も早く縁を切りたかったんだろうなぁ。

「もしもし、カツヤ?」。元カノが出るなり言ってやったわ、予定通りの台詞をね。そしたら相手は案の定、

「アンタ一体誰よ」、って言ってきたわけよ。

「誰だっていいでしょ。とにかくもうあたしのカツヤに連絡して来ないで」。そういう意味のことを言ったんだけど、それがもうとにかくシツコイ女でさ、何度そう言っても、アンタは誰アンタは誰って言って聞かないんだわ。それを繰り返すうちに、なんだかだんだん、このお客さんの味方をしてあげなくちゃって気分になってきちゃったんだ、分かるでしょ? この気持ち。

 その元カノ、そうこうするうちに、

「アンタ今どこにいるの?」、って聞いてきたのね。だから、

「カツヤの部屋だけど」、ってそのまんま本当のことを答えたの。そしたら今度は、

「カツヤは今何をしているの?」、って聞いてきた。だからあたしとっさに、すでにもうエッチしてる関係なんだってことを匂わせるために、

「シャワー浴びてる」、って答えたんだ。そしたら今度は、

「今からそっちに行くから」、って電話が切れちゃった。


   3 


 うわぁ、これは面白いことになってきた、100パーセント修羅場になるって思ったよ。万が一、その元カノがあたしに乱暴なことをしてきたとしても、言い出しっぺのこのお客さんがあたしを守ってくれるのは間違いないだろうし、下手な映画よりよっぽどスリリングなひと時を楽しめるってワクワクしてきちゃった。あたしも性格悪いよねぇ。で、お客さんに「今からこっちに来るって言ってるよ」って教えたら、そのお客さん、今度はこう言ったの。

「シャワーを浴びるって言ってくれてたよね、すでに肉体関係にあることを示唆するためだったんでしょ、いい仕事をしてくれた。既成事実を作るため、今からオレ、本当にシャワーを浴びてくる。その間に、オレのケータイを見といてくれないか。何故、今回のようなことになったのかを正しく理解して欲しいんだ。それにはラインでのやり取りを見てもらうのが一番手っ取り早い。頼めるね?」、と言って本当にシャワーを浴びに一人でお風呂に入っちゃったの。そのラインのやり取りがまた凄かったんだ。


   4


 あたしね、誓って言うけど、今まで付き合って来た彼氏のケータイを勝手に見たことなんて一度もないのよ。勝手に見るコ多いけど、あんなことしたっていいことなんて一つもないと思ってるの。聞いたことがあるの、ジャニーズの誰だったか、「人のケータイ見たってゼロかマイナスしかない」って言ってたらしいよ。本当にその通りだと思う。よく、「見ないと信用できない」って言うコがいるけど、あれは逆。「信じていないから見たくなる」のよ。そりゃあ確かに、100パーセントの正直者なんているわけないことぐらい分かってるけど、大学で心理学を専攻してるあたしが言うんだから間違いないって。事実、他人ひとのケータイを見るコって、何だかんだ言っても結局また見るじゃん。要するに、見ても見ても信用ができないからまた見るのよ。

 それはともかく、あたし一応お客さんに断ったのよ、「見てもいいの?」って。「構わない。今説明した通り見てもらった方が便宜がいい」って返事だった。で、「ここから見てもらうのが一番分かりやすいと思う」ってとこまでラインの画面を巻き戻した状態でケータイを手渡されたの。最初は確か、こんな意味のことが書いてあった。

「今日で私たちは終わりだけど、もう二度とひどいことメールして来ないで。これでも傷ついてるんだから」。この時点でもうすでに、最初に別れたいと言い出した女の台詞じゃないよね。お客さんはお風呂に入ってて、あたしは部屋で一人きりだったから、思わずのけぞるぐらいに笑っちゃった。それに対するお客さんの返事は確かこうだったな。

「そもそも傷つく原因を作ったのはどこの誰だよ。お前こそもう二度とウザいメールをしてくるなよな。追伸。さっきのファッションは傑作だったぜ」。まあ、別れ話の後の口論がよほどひどかったんだろうね。でもそれに関しては喧嘩両成敗じゃん。あたしが出る幕ではないと思うの、そもそも赤の他人だし。凄かったのはその後よ。女のメールを見て、あたしまた笑っちゃった。

「ひょっとしてアンタに買ってもらった赤い靴を履いていたのは、アンタに対する未練だとでも言うの? あれは違うもん。お母さんにブーツで車を運転しちゃダメって言われたからそうしただけだもん」。「お母さんに言われた」、だって、ね、笑っちゃうでしょ? 今時マザコンの男の子だってこんな見え透いた言い訳しないよね。お客さんの更なる返事は確かこう。

「誰がいつ靴だなんて言った? オレはファッションとしか言ってないぜ」。その後の女のメールはなんだったかな、よく覚えてない。でも、そのさらに後のお客さんのメールはよく覚えてるんだ。

「最初に別れたいと言い出したのはあなたです。だからもうメールしてこないで下さい」。全くその通りだね。普通なら、そこでもう終わりじゃん、諦めるじゃん。でもそこで終わらないのがその女のスゴいとこなの。とにかくもう、ああでもないこうでもないとしつこく質問のメールをしてくるのよ。例えば、「あの時、"CDならもうしばらく貸してやってもいい"って言ってたけど、あれはなんで?」とかなんとか。最初に言った通り、とにかくもう「まだ好きだ。俺とやり直してくれ」って意味のことを言わせようとしているのが見え見えの質問ばっかり、よくもこれだけ思いつくよって思っちゃった。最初に別れたいって言い出したのは自分なのに、「やり直してくれ」って言わせようなんて、タカビーだって言った理由が分かるでしょ? 対するお客さんの返信はって言うと、その質問にきちんと答えた上で、「最初に別れたいと言い出したのはあなたの方なんだからもうメールして来ないで下さい」の一点張り。後からお客さんに聞いたんだけど、その時点では正直少し未練があったみたい。だからもし、「一時の感情で別れたいなんて言ってごめんなさい。あたしとやり直してください」って素直に本心を言われていたなら、やり直すつもりだったんだって。でも、あまりにもしつこく、ああでもないこうでないと質問のメール、・・・に扮して実はまだ好きだと言わせたい意図が見え見えの連絡が来るうちに気持ちがささくれてきたらしいのよ。そんな膠着状態が動いたのは、女からのとある一言だったんだ。


   5


 その女、今度はこう言い出したの。「写真を返して」、って。何をどう言っても、きちんと質問に答えた上で、「最初に別れたいと言い出したのはあなたの方なんだからメールしないで下さい」って言われ続けて、いよいよ諦めようと思ったんでしょうね。対するお客さんの返事は、

「捨てた」、だった。

「サイテー」、って返信が返ってきてた。そこから先は、記憶を頼りに再現するとだいたいこんな感じだった。

「あなたはあの写真をあげると言ったんです。もらった物をどうしようとこっちの自由。だからもうメールしないで下さい」

「あんなに可愛く撮れてるのを捨てるなんて」

「ネガで焼き直せばいいじゃん」

「ネガのない貴重な一枚だったの」

「貴重な一枚を安易にあげると言った自分と、ネガを保存しとかなかった親を恨むんだね。というわけでメールしないで下さい」

「ものすごく良く撮れてたお気に入りの一枚なのよ。結婚式のレセプションで使おうと思っていたのに」

「お前なんかに結婚なんて出来るわけがないだろう。というわけで、最初に別れたいと言い出したのはあなたなんだからメールして来ないでください」

「アンタ捨てたなんて言って本当は持ってるんじゃないでしょうね?」

「もし仮に持っていたとしても、物の貸し借りを清算させようと言い出したときに写真のことを言わなかったあなたの負けです。僕たちはもう別れたんだし、写真は諦めて下さい、そしてメールもしないでください」

「あたしの顔なんて見たくもないだろうし、ポストに入れといてくれれば勝手に持っていきます。だから写真だけは返してください」

「あなたの顔はもちろん、あなたの子ども時代の写真なんか見たくないから捨てたって言ってるの。そんなに欲しけりゃゴミ捨て場を漁って下さい。次の収集は木曜日です」

「本当は持ってるんでしょう?」

「あなたの望んだ通り、物の貸し借りは清算しました、お別れもしました。別れた以上、仮に持っていたとしても僕たちはもう連絡を取る必要のない赤の他人です。お願いだからもうメールをしないでください」

「やっぱり、本当は持ってるんでしょ?」


   6


 後から聞いたんだけど、お客さん、「もう本当にウザい、着信拒否にでもしてやろうか」って思ってたらしいんだわ。でもこの写真の話題が出て来てから、「おっ、急に面白くなった」って思い直したんだって。

「もし本当のことが知りたいのなら、まず初めに別れの言葉を撤回しなさい」

「写真のことだけは正直に教えて」

「まず先に撤回しなさい」

「写真のことだけは正直に教えて」

「まず先に撤回しなさ〜い!」

「あたしは自分のことを過去の女だと思っているような人のところへは戻れません。写真は諦めます」

「じゃ、サヨナラ、だね。写真は明日処分するよ」

「ひどい。先にそれを言ってくれたなら撤回しても良かったのに!」

 それを読んだ瞬間、思わずあたし爆笑しちゃった。と同時に、お客さんがシャワーから出て来たの。

「ねえ、ちょっとこれ、未練タラタラもいいとこだよね。悪いけどあたし超笑っちゃった」。と言ったちょうどそのときよ、インターホンが鳴ったのは。


   7


 お客さんがドアを開けると、怒り狂った元カノが顔を真っ赤にして仁王立ちしてたわ。

「今、女の笑い声が聞こえたけど、あれは一体誰よ?」

「誰だっていいだろ。別れたんだから関わるな」

「いいから答えて。あの女は誰?」

「だからカンケーねぇだろ。お前もう帰れよ!」

「そもそもなんでアンタ風呂上がりなのよ」

「だからカンケーねぇだろ!」

 カンケーねぇを連発するお客さんの背中を見ながら、あたしは言ったわ。「近所迷惑だし、部屋に上がってもらったら?」って。そしたら元カノが部屋に入って来て、「アンタよアンタ、一体なんなの!?」って金切り声で言うわけ。だからあたし言ったの。

「あたしが何者なのかは、後でちゃんと説明する、約束する。だからまずあたしの話を落ち着いてよく聞いて」って。で、まず手始めに、心理学の基本的な考え方について話したのよ。

「AさんはBさんをすごく好きだったとするよね。でも反対に、BさんはAさんをあんまり好きじゃなかったとする。この場合、主導権を握るのはBさんなのよ、解る? 具体的に言うと、Aさんに観たい映画があったとしても、Bさんはあまり興味ないって言ったら、二人はその映画に行けないの。反対に、Bさんに観たい映画がある、でもAさんはあまりその映画に興味がないという場合はどう? 解るでしょ? Aさんは妥協して映画に行かざるを得なくなるの。なんでこんなことを知ってるのかって言うと、あたし実は大学で心理学を専攻してるのよ」。ここまではみんなも知っての通り、あたしの身の上話を簡単に説明したの。「でも大学での勉強ってお金がかかるし、両親からの仕送りも心許ないしで、あたし仕方なく風俗の仕事をしてるの。デリヘルって知ってるわよね。デリバリー・ヘルスのことよ。つまりあたしは、アンタの元カレに呼ばれてこの部屋に来たって訳。あ、誓って言うけど、この人とエッチなことはなんにもしてないからね。指一本触ってないわ。この人の体から石鹸の匂いがするのも、ただ単純に、あたしが咄嗟に"お風呂に入ってる"って言っちゃったもんだから、"既成事実を作る"って言って一人でシャワー浴びただけなんだから。事実、あたしの体からは石鹸の匂いなんてしないでしょ?」。そこまで言ってから、大きく息を吸って話を続けたわ。

「アンタ、自分のことを主導権を握ってるBさんだと思っているでしょう?」

 そう言った瞬間。元カノの眉が神経質にヒクッて動いたわ。あたしが何を言いたいのか、なんとなく分かったんでしょうね。

「恐らくは、間違ってないと思うの。少なくとも、付き合っていた頃は、確かにアンタはBさんだったんだと思う。でもね、別れを切り出したのは自分の方なのに、しつこくメールしてくる時点で立場が逆転したのよ。今主導権を握っているのは、カツヤさんの方なのよ。事実、カツヤさんは言ってたもの」。本当はそんなこと、その時点では言ってないんだけど、言ってやったわ。「もしアンタが写真の話のときに別れ話を撤回していたら、一度だけならやり直してもいいと思ってた」って。


   8


 あたしはさらに言ってやったわ。

「分かる? アンタは稀に見る滑稽な勘違い女だったって訳。だいたい、最初に別れたいって言っておきながら、なんとかしてカツヤさんの口から"まだ好きだ、やり直してくれ"と言わせようなんて、一体どれだけ高飛車なの。まああたしも女だから、だいたいの予想はつくけどね。恐らくカツヤさんが、なんかウザいことでも言ったんでしょう? やっぱりね。アンタの顔を見たら分かるわ。あのね、アンタだってガキじゃないんだから分かってはいるんでしょうけど、男なんてそもそもみんなウザいのよ。そんなことは承知の上で、カツヤさんのことをいって思って付き合うことを決めたんでしょ。それを一時の感情で別れたいと言って、そのことを後悔して、でも自分からは素直に謝れなくて、で、しつこくメールして。バッカみたい。側から見たらただの間抜けよ。あたしカツヤさんのケータイ全部見てるから知ってるのよ。アンタのために言っといてあげる。一度でもって思ったんなら、滅多なことで別れたいなんて言うべきじゃないのよ。そんな大事なことを軽々しく言うから、手痛いしっぺ返しを食らったのよ。

 だいたいこのひと、あたしを雇うのに幾ら払ったと思っているの。三万よ、三万円。三万あったら何が出来る? そんな大金を払ってでも、カツヤさんはアンタと別れたいと判断してあたしを呼んでるのよ。アンタとのデートにではなく、アンタと別れるために、あたしに三万円も支払ってるのよ。だからあたしはこの部屋にやってきたの。分かる? 別れ話に付き合わされてるのよ! このひとと、それから写真のことはもう、諦めなさい」。

 するとその女、時間にして1分くらいかな、悔しそうに唇を噛んだあと、ハンドバッグを持って立ち去って行ったわ。


   9


 その後? 最初に話した通り、エッチなことはなんにもしなかったよ。おつまみが足りてないみたいだったから、冷蔵庫の余り物で作ってあげて、話し相手になってあげただけ、ある意味スンゴク楽なお客さんだった。

「そういえば、例の元カノさんの子どもの頃の写真って、本当はまだあるんでしょ? 見せて」

「いや、実はさ」、そのお客さん、頭をかきながら意地悪そうに笑ってたわ。「その写真、捨てたわけでもなけりゃ持ってるわけでもなく、失くしちまったんだ。それをまあ、とっさに"捨てた"と嘘ついたわけなんだが、結果的にアイツの裏をかくことになった。見ただろ?

『じゃ、サヨナラ、だね。写真は明日処分するよ』

『ひどい。先にそれを言ってくれたなら撤回しても良かったのに!』って。あの返事が来たときはもう最高の気分だったな。これでもう、なんの未練もなく別れられる、言っちゃあなんだがデリヘルなんか呼ばなきゃ良かったと思ったぐらいだよ。しかしそれと同時に君が来て、後は君も見た通り、最高な最後だった。まさかあそこまでズバッと言ってくれるなんて夢にも思わなかったよ。三万円払った価値はじゅうぶんあった。思い残すことはもう何もないよ。来てくれて本当にありがとう」

「もう、未練はないの?」。そろそろ終わりの時間が近づいていたから、思い切って聞いてみたんだ。あ、バレた? そうなのよ、実はそのカツヤさん、あたし好みのけっこうなイケメンでさ、もしこのオシゴトではなく、キャンバスとかで知り合っていたなら、好きになってたかも、って少しだけ思っちゃってたりしてたんだ。

「まあ俺も男だからね、正直なところアイツの身体にはまだ未練がある。でも、アイツの心に未練はもうないよ」。うん、確かに、悔しいけどけっこうグラマラスなカラダしてたんだ、そのひと

「そっか。良かったらまたあたしを呼んで。あたしもいい勉強になった。感謝してる。だから今度はいっぱいサービスしてあげるから」。ムフフ、下心を込めて営業かけちゃった。

「ありがとう。気持ちは有難く受け取っておく。でもその機会はないかもな。まったく、飛んだほろ苦いフーゾクデビューだったよ」。その言葉に、うーん、嘘を言ってるような感じはなかったな。フーゾクなんか行かなくても、新しい彼女くらい、すぐに出来そうな感じにあたしには見えたしね。まあ、あたしのタイプだったから査定が甘くなってることは否定しないけど。

 いずれにせよ、一つだけハッキリと言えることがあると思うの。今回ばっかりは、あいてが悪かったのよ。

「弱者は守られて当然」という思想には異議があります。現代社会は、あまりにもヒューマニズムが行き過ぎてはいないでしょうか。女性が性的マイノリティーであることを作者は全面的に認めています。しかしそういった発想が思わぬ逆差別(痴漢のえん罪がよい例です)をも産んでいるという事実に、一人の男性として気づいていただきたい次第です。

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