追憶
応和4年私は産まれた
——「吹雪、元気な女の子だ」
「えぇ、あなた泣きすぎよ。フフッ名前どうしましょうか?」
「雪はどうだろう?」
「私達の子らしい名前ね、雪産まれて来てくれてありがとうねぇ」
——「鬼白さん、女の子産まれたんだっておめでとう、父親になったんだから仕事頑張らないとな」
「ありがとうございます、えぇ大変ですけど今とても幸せです」
「はっはっは! いい惚気っぷりだねぇ」
父は角を折り、鬼白と名乗り一人の人間として米農家をし生きていた
「ほい、今日は魚が大漁だったんだ一匹くれてやる。奥さんと子供に良いもん食わしてやれ」
「ありがとうございます! こんな立派な魚2人供喜んでくれます」
父は村人たちに信頼されていた
——それから8年の月日が経った。
「父上、今日はいつ帰ってくるのだ?」
「ん〜、夕刻までには帰って来るよ。今日は何かあるのかい?」
「今日は私が夕飯を作るでな、仕事頑張ってお腹空かせて来てな!」
「おぉーそれは楽しみだ、じゃあ仕事頑張ってくるなぁ」
あぁとても笑顔で仕事に向かって行った。
それを見守る母と私もこの後起こる村の終焉を前に屈託のない話で笑い合っていた
カンッ!カンッ!カンッ!夕刻、村の高台にある鐘が鳴らされた。
「母上何が起きているんですか? 雪は……なんだか怖い
」
「こっちへおいで雪……母から離れるんじゃないよ、それと良いよって言うまで目を瞑っておくんだよ絶対開いてはいけないからね」
ドォン!!
誰かが家の扉を壊し入って来るのが分かった。
「さぁー!この家にはいるかぁ……あぁ……」
「私達とこの村に危害を加えるようなら、私はお前達に慈悲など持たぬ」
「はぁ、はぁ……吹雪、雪無事か」
「無事ですよ今一匹凍らした所、あなたも無事でなによりです」
「父上が帰って来たのですか? 母上目を開けてもよろしいですか」
「そうだねぇ、少し待ってね」
パチンッ、と指を鳴らすと凍らした鬼は砕け霧となり消えた
「雪目を開けても良いわよ……あなた今村で何が起こっているの?」
「黒鬼が大群でこの村に攻めてきた……なぜかわからないが私の存在がバレてしまったようだ」
「あなた……雪を連れて逃げて下さい」
「駄目だ! 吹雪も一緒に逃げるんだ、只の黒鬼なら吹雪の敵ではないが大群を率いているのは黒鬼の序列二位、黒葉鬼が攻めてきている敵いっこない……」
「あなたは、村人たちを捨て逃げようと言いたいのですね」
「それは……」
「私達は村人たちにどれだけの恩があると思いですか鬼と妖だと知って村人として認めて頂き人間として接して頂いた恩を私は忘れたくはありません」
「だが……」
「皆んなが逃げるまでの時間稼ぎです。……早く行って下さい」
「すまない吹雪、後でまたこの家に戻って来るからその時はまた夫婦を続けよう……」
「母上……」
「必ずこの地で待っております」
私は父に抱かれ、家を母を置いて父は走り出した。
その時走り去る父の背中を見る母の寂しそうな顔が忘れられない……それから私の顔を見て微笑んだその顔も……
それから何日かが過ぎ私と父は村に戻ってきた。
覚悟はしていた、覚悟はしていたのだが、いざ目の前にすると声が出ないものだ。
目の前に広がるのは一面の瓦礫の山
「……吹雪……吹雪!」
父は母の名を呼び探し続けた、私の声なんか聞こえない程一心不乱に……
2日、3日と時が進む、そして4日目の朝、父は変わり果てた母を抱き締め私の所に戻って来たのだが……
「雪……おかしいんだ」
「父上?」
「吹雪を見つけるまで、他の村人の死体が一人として見つからないんだよ、鬼は人を喰うが骨や内臓は食べない……肉以外は喰べるのを嫌う種族なんだよ
なのに殺され食べられた形跡が全くないのはおかしいんだよ」
「父上、目が怖いです」
「そうか、僕らの情報を流したのは村の皆んなか……、どうせ身の安全を保証するとかで鬼に協力したんだな……そうだ、きっとそうだな
はっはっは信頼されてると思っていた僕らが馬鹿みたいだね……あ〜あやっぱり人間も鬼も同じだ! はっはっは」
父は気が狂ったように高笑いをし
「この世界を呪ってやる……ふふっ、ゆ〜き手伝ってくれるよなぁ」
もう以前の父の面影はなく、そこにいたのは白鬼の王である鬼童丸であったのだ
私は恐怖で父から逃げ出した……
——「それからは陰陽道に拾われて此処に至るって訳だ、それから父は村を再建し母の身体と鬼の角を供物に村に呪いをかけた、その村が鬼泣村って訳だ」
「じゃあ僕の力は……」
「あぁ人が鬼となり苦しくても死ぬことも、歳をとる事も出来ない呪い」
——不老不死——
「並みの人間なら300年ぐらいで精神が壊れるだろうな……、今は力が弱まっているがまた力を取り戻した場合どうなるかわからないねぇ」
「そんな……私の信じた慈愛の鬼は」
「小野目ちゃん、所詮鬼は鬼さ結局のところ人に害を及ぼす存在だ」
「それは……何か違うと思う……思います」
「ほぅ、俺ら陰陽道の前で鬼の味方をするか」
「あっいえ、そういう事では無いのですが、人も鬼にとっては害なんじゃないかなと、鬼白さんも人に裏切られなければ、吹雪さんも豊かではなくても家族の時間を奪われる事はなかった訳ですし、それに人が存在していなければ優しい種族だったかも知れないじゃないかなと……」
「君は鬼に友を村人を殺されたんだぞ?」
「はい、確かに鬼の事は怨んでいますが、僕ら人間も同じ事をやってるように思えてきて、……すみませんおかしな事を言いました」
「伏見君、最後に聞いて良いかな? 君は人間と鬼どちらかが死にそうになっている時にどちらを助ける?」
「それは、人間です、が……状況で鬼も救いたいと思うのはおかしいでしょうか?」
「ふふっ気に入ったよ、本当は君をここの牢獄に監禁するつもりだったけど、どうだろう?僕が関東本部長と兼任で関東陰陽道高校の校長もやってるんだけど、その学校に入学してみないかい?」
「おい! テンコそれは」
「私は賛成だねぇ、清水心配なら、おまえん所の小野目を教育係にすればいいじゃないか、伏見君が育ったらいい戦力だと思うがねぇ」
「あ〜わかった、わかった! 小野目お前はそれでいいのか?」
「私はこの子の今後を見てみたいと思います、なのでその任務お受け致します」
「さぁ伏見君どうする?」
「僕にこの世の中を変えるための力は全くないのはわかっています……けど、少しでも変える力を学べるのなら……僕は入学を希望します」
「校長、天城 テンコが君の入学を受理します。
来年からよろしくね」
神に見捨てられ暗い絶望の淵に追いやられても、誰かが光を指し示す。
その道は吉か凶か指し示した本人すらもわからない、どんな結果になろうが今の僕には選ぶ権利はないのだ、立ち止まっていたら待ち受けている未来は凶にしかならないはずだから。