傲慢
解離性同一性障害——いわば多重人格者、耐え難い現実や過去からの精神的病から逃れる為に自分とは違う別人格を作り出す。
飛雲 翼は小学校の時酷い虐めにあい、それが原因で翼本人もとい母親が今もまだ精神的病気を抱え母親に至っては病院生活を余儀なくされている。
そんな時生まれたのが翼である。
翼はいわば自己補正プログラムであり、翼が恐怖、苦痛、精神的ショックを受けると翼を正常な状態に戻す為に人格を入れ替え補正を行う。
「さぁ始めようぜ……、おいどうした? まだ状況が掴めなくて困惑してるって感じだな」
それもそのはずであった、急な展開で2人はまだ頭の整理が追いついていなかった。
だが今ここは戦場……翼に説明や頭の整理が整うまで待つ義理は無い。
始めに行動したのは翼、その場で高く飛び上がると壁を蹴り上げ反対側の壁それからまた反対の壁へとまるでピンボールの様にこちらに迫ってくる。
こちらに近づいてくるにつれ徐々にスピードが上がっていき目で追うのがやっとという状況であった。
「黒子さえ見たことの無い技……全く攻撃の予想が出来ない……こんな符何処で!」
ダン、ダンと大きな音を立て、黒子に迫り腹部に強力な拳の一撃、ドンッと衝撃が体中に鈍く響き、続けて間髪入れず体を回転させその威力を拳に乗せ頬に一撃……もしこれが防護符が無い戦闘であったなら首の骨が折れていただろう正確さと威力であった。
黒子は殴り飛ばされ「——ッ……」と言葉にならない悲鳴をあげ床に叩きつけられる。
「クッ……うぅ」
「黒子さん!」
「はいはい、明君はあっち行かないで僕の相手をしてよね」
柏は伏見の前に立ち塞がる、見た感じ本気で足止めしている様には感じられないのだが。
何故だろう、柏を突破する活路がイメージ出来ない……。
「はぁ……はぁ……」
苦しみの声を漏らしながら床に仰向けになる黒子の上に飛雲は、またがる様に立ち黒子の顔を上から見下し……。
「一応言ってあげようか? 俺が装備している符はさ、地形図創造呪術、それとこいつは珍しい符だが探索呪術をしたとしても俺の場所を探索出来ない様にするってだけのくだらない探索無効呪術それとお前らがよく知っている跳躍強化呪術だけなんだよ。
……何が言いたいと思う?」
「フゥー……フゥー……」と黒子の息づかいが荒くなっていく、飛雲の言っている事が理解出来ない黒子では無いのだが、受け止められず首を横に振り左眼からは一滴の涙が滴り落ちる。
「明君、ほら見てよ君の仲間やばそうだよ。
助けに行きたいよね、その気持ちはよーーく分かるよ……でも行けない。
仕方ないよね君が弱いのが悪いんだから」
確かに僕は弱い、それは分かっているこれからも傲慢に生きようとは思わない。
昔の僕なら仕方ないと諦めていただろう、心は弱い人間なんだ逃げる事、諦める事は人間の本性なんだからと。
けど僕は小野目さんに出会い、天城校長に会い、遊馬、上条さん、黒子さん、そして宇多みんなと出会い僕は変わっていったのかもしれない。
僕はかっこ悪くても、どんな言葉をかけられたとしても……無様に抗おうと。
伏見は1度呼吸を整えステップをきかせ右ストレートを打ち込む、柏は顔色一つ変えずに無駄の無い動きで軽々と避ける。
「避けられるのは分かってる……、知ってるか格闘で大事なのは力強い一撃なんかじゃ無く、最初の一撃からの二撃、三撃に繋げる技の多才さ柔軟な発想なんだよ」
「へぇーそう、じゃあほら当ててみなよ」
左ストレート、右フック、身体を回転させての右脚ハイキック。
「全然当たらないよーハハッ」
それでも伏見は今もてる技を全て柏に叩き込むのだが……全て見切られており柏に攻撃はかすりもしない、だが伏見はまだ諦めている顔ではなかった。
「諦めなよ、もう無駄なんだからハハッハハハハハッ」
ドクン!
「おおっと、あら……ありゃーしまった、効力が……」
今何が起こったのか伏見には分からなかったが、伏見は逃さなかった柏に出来た僅かな隙に、伏見は柏に左ローキックで体のバランスを崩し、すかさず右拳でのボディーブローを叩き込み、左脚を軸にステップを利かせボディーブローを打ち込んだ同じ腹部ピンポイントに右脚での前蹴りを打ち込む! ドスっと鈍い音とともに柏が「ぐふっ……」っと声を漏らしよろめき膝をつく。
柏は打ち込まれた腹部を手で押さえながら……。
「あああー! いてぇ……し、あんな事言った手前カッコ悪ー! はぁ、はぁ……けどねぇ作戦は成功だよね、だってさ明君途中から僕を倒す事に集中しすぎて仲間の事忘れてたでしょ、ねぇ?」
伏見はその言葉を聞きハッと我に返ったかのように黒子の方に顔を向ける。
目線の先に写った光景は悲鳴も苦しみの声も上げる事のない黒子が横たわっている。
そして、柏ばかりに気を取られて飛雲の力のこもった右拳が目の前まで迫っている現状に気づく事が出来なかった。
「戦いながらでもしっかり周りを見なよ」
ガツッ! 飛雲の拳は伏見の頬を強力な一撃。
そしてすぐさま、後方天井へと跳躍強化呪術で飛び上がり、それから右の壁から反対の壁へと部屋の中を縦横無尽に飛び回る。
「柏下がってろ、後は俺が1人でやる」
「1人で大丈夫ー?」
「……」
「へいへい、邪魔者は下がって休ませてもらいますよー」
柏がその場から離れると、ダン! ダン! っと飛雲の壁を蹴る音が大きく、強くなっていく。
はぁ……はぁ……相手の動きが全く見えない、どうすれば、どうすれば……。
「はい、1発目」
バチッ! と伏見の背中に鞭かのようにしなる右脚で蹴り飛ばす。
「あぁぁぁ!」
「まだ終わらないからな」っと伏見の顏を見下し笑っていた。
あっ……かぁ……苦しい……、フッーフッー、考えろ、どうすれば……。
「はい2発目ー」
左手を床に着き中腰の姿勢で動けなくなっている伏見の右脚太腿に強力な踏み蹴り。
「あぁぁぁ! いぃあぁぁぁ……」もがき苦しみながら床にうつ伏せになる。
どう……すれば……。
ふと、黒子方に眼をやるそれに気づいたのか黒子は震えた右手人差し指で最後の力を振り絞ったかの様に床をトントンっと叩いている様に見えた。
「任せた……伏見……」と言葉を告げ黒子は気を失う。
ただ床を叩いただけに見えた合図であったが伏見には黒子の意図をくみとる事ができた。
ありがとう黒子さん……。
伏見は今倒れている場所で打撃振動波符を使い床に人1人がギリギリ通れる位の穴を開け落ちる様に1階に続く穴に入って行く。
「下に逃げようとしても無駄!」と飛雲は穴の真上の天井を蹴り勢いよく伏見を追う様に穴へ入って行く。
……これは賭けだったけどよかった、君がどんな相手でも、どんな状況でも1人で勝つ事が出来ると思っている鬼の様な傲慢さの持ち主で……。
伏見は飛雲向かい叫ぶ様に話かける。
「何処から攻撃してくるか分からないなら向かってくる場所を限定すればいい、素早い動きを止められないなら障害物が無い空中に誘えばいい」
「あぁ? その為のこれか、だけどなそれはお前にも当てはまるぞ、空中で足場の無い場所でこれだけ離れた距離でどうやって俺に攻撃を当てる?」
「勉強不足だよ、僕達は前の試合で見せただろ? 瓦礫を踏み台にして移動する技を」
「なっ……だが! それなら俺にだって」
「なんで小さい穴を開けたと思う? 場所を限定するためでもあるけど、もう1つ君の周りに瓦礫を踏み台を与えない為だよ」
「打撃振動波符再起動!」
伏見は瓦礫を踏み台に跳躍強化呪術を使い飛雲との距離を縮める。
「まだだ、距離を縮めて近距離戦闘なら俺にも分がある!」
距離を縮め向かってくる伏見に向け拳を振り落とす。
誰から見ても攻撃スピードは飛雲方が1枚上手であったのだが。
「もっと周りを見なよ」っと伏見は左拳を広げるその手の中からに小さな瓦礫。
「小さい瓦礫で距離は期待出来ないけど、君の攻撃を避けるだけなら十分な大きさだよ」
そう言うと伏見はその小さい瓦礫を踏み台に飛雲の横へ飛ぶ。
「なっ……」
「1つ良いかな、お節介かも知れないけど……傲慢は周りも自分も弱くしてしまう事がある、だから罪だと言われてるんじゃ無いかな?」
伏見は右拳を大きく振りかぶる。
「くっっそおぉぉぉ!」
パァァン!! っと高らかな音と共に飛雲は左頬を殴り飛ばせれ1階へと叩きつけられる。
どんなに高い場所から落ちても、瓦礫に押し潰されたとしても、その原因が防護符装備同士の戦いであるなら死ぬ事は無い……。
だがある程度の痛みは覚悟しないといけない。
飛雲は伏見による強打と1階に叩きつけられた衝撃で気を失なっていた。
「あーあっ翼君、負けてやんの。
それにしても老人の細胞は不完全だなぁ後3日は使えないだろうし、ピチッピチの細胞どっかにいないかな〜」
そう言うと柏は伏見に追撃する事なく、その場から離れて行くのであった。
現在15分が経過、現在脱落数……近畿高1人、関東高2人




